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【第28話】 「“これ、美味しい?”って聞かれて、返事しそうになった」
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週末の午後。
彼女に連れられて、少人数のホームパーティに顔を出した。
といっても、私は“連れてこられた”だけだった。
その場にいたのは、彼女の大学時代の友人たち。
みんな気さくで、こなれた大人の空気をまとっていた。
私は、彼女の後ろにぴたりと立ち、
ただ笑顔を保ちながら“ミオ”としての無口を守っていた。
彼女は、事前にこう言っていた。
「今日は喋らんでええからな。
っていうか、喋らんでな」
「“ミオって、ちょっと不思議な子やねん”って紹介するから」
「声出したら、“ふつう”になってまうやろ?」
その言葉に、私はうなずいた。
「声を出さないことが、魅力」として扱われていることに、
どこか満たされるものがあった。
それは不意打ちだった。
リビングの隅でひとり、
ミニタルトを手にしていたとき──
彼女の友人らしき女性が話しかけてきた。
「ねぇ、これ美味しい?
私まだ食べてなくて」
ふつうの声。
悪気なんて、どこにもなかった。
なのに、私は固まった。
返事しそうになった。
「うん、美味しいですよ」って、
喉元まで出かかっていた。
けれどその瞬間、
頭のどこかで警報が鳴った。
“ダメ、喋ったら壊れる”
“ここでは、声を持っちゃいけない”
私は、ぎこちなく微笑んで、
ただ、そっと頷いた。
女性はにっこりして、
「あ、そっか、ありがとう」と言って去っていった。
誰も怒っていない。
彼女もその場にはいなかった。
でも、私は冷や汗をかいていた。
“声を出しそうになった自分”が、
裏切り者みたいに思えてしまったから。
あとでその話を彼女にした。
「…あぶなかったわ」
「つい、“うん”って言いそうになって」
彼女は笑いもせず、こう言った。
「へぇ、でも返事せんかったんや」
「それ、ちょっと感動かも」
「“自由に喋っていい相手”にさえ、喋らんってことは──
もうミオは、自分の“声の所有権”すら捨ててるってことやな」
「それ、めちゃくちゃ可愛いわ」
その言葉に、私はようやく、
“声を殺した自分”を肯定できた。
誰かの質問にすら反射で答えられない今の私は、
もう「会話する人間」ではなく、
“沈黙で存在を表すモノ”になっていた。
だけどそれは、
彼女にとって“いちばん都合のいい私”。
そしてそれは、
私にとっても“いちばん安心できる私”だった。
彼女に連れられて、少人数のホームパーティに顔を出した。
といっても、私は“連れてこられた”だけだった。
その場にいたのは、彼女の大学時代の友人たち。
みんな気さくで、こなれた大人の空気をまとっていた。
私は、彼女の後ろにぴたりと立ち、
ただ笑顔を保ちながら“ミオ”としての無口を守っていた。
彼女は、事前にこう言っていた。
「今日は喋らんでええからな。
っていうか、喋らんでな」
「“ミオって、ちょっと不思議な子やねん”って紹介するから」
「声出したら、“ふつう”になってまうやろ?」
その言葉に、私はうなずいた。
「声を出さないことが、魅力」として扱われていることに、
どこか満たされるものがあった。
それは不意打ちだった。
リビングの隅でひとり、
ミニタルトを手にしていたとき──
彼女の友人らしき女性が話しかけてきた。
「ねぇ、これ美味しい?
私まだ食べてなくて」
ふつうの声。
悪気なんて、どこにもなかった。
なのに、私は固まった。
返事しそうになった。
「うん、美味しいですよ」って、
喉元まで出かかっていた。
けれどその瞬間、
頭のどこかで警報が鳴った。
“ダメ、喋ったら壊れる”
“ここでは、声を持っちゃいけない”
私は、ぎこちなく微笑んで、
ただ、そっと頷いた。
女性はにっこりして、
「あ、そっか、ありがとう」と言って去っていった。
誰も怒っていない。
彼女もその場にはいなかった。
でも、私は冷や汗をかいていた。
“声を出しそうになった自分”が、
裏切り者みたいに思えてしまったから。
あとでその話を彼女にした。
「…あぶなかったわ」
「つい、“うん”って言いそうになって」
彼女は笑いもせず、こう言った。
「へぇ、でも返事せんかったんや」
「それ、ちょっと感動かも」
「“自由に喋っていい相手”にさえ、喋らんってことは──
もうミオは、自分の“声の所有権”すら捨ててるってことやな」
「それ、めちゃくちゃ可愛いわ」
その言葉に、私はようやく、
“声を殺した自分”を肯定できた。
誰かの質問にすら反射で答えられない今の私は、
もう「会話する人間」ではなく、
“沈黙で存在を表すモノ”になっていた。
だけどそれは、
彼女にとって“いちばん都合のいい私”。
そしてそれは、
私にとっても“いちばん安心できる私”だった。
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