“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第52話】 「これは、“従ってほしい”んじゃなくて──“預けたい”っていう命令」

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「今日は、ミオにお願い──というか、命令したいことがある」

夜の帰り道、
彼女が足を止めてそう言った。

その口調には、いつものような圧はなかった。
どちらかというと、
“迷い”の重さを引きずったような声音だった。

「明日、一日だけ、わたしの代わりに“ある子”に会ってほしい」
「話を聞いてくれるだけでいい。
 でも、その子──ちょっと特殊な関係にあるから、
 ミオじゃないと話が通じない気がしてて」

「……つまり、今日は“従う”命令じゃない。
 “信じて預ける”命令。受け取ってもらえる?」

私は驚いていた。
彼女が“別の誰か”に関することを、
私に託すなんて。

でも、その瞬間、
胸の奥がほんの少しだけ、あたたかくなった。

命令される安心でも、
快感のごほうびでもない。

“役割を与えられる”という、別の信頼のかたちだった。

「うん。やる」
そう答えた私の声が、
自分でも少しだけ誇らしく聞こえた。

彼女は、ふっと笑った。

「……ありがとう。ミオが“並ぶ”って言ってくれたから、
 この命令、出せるようになったんやと思う」

「従う関係なら、こんなこと頼まれへんかった」

家に戻って、
ベッドの上で隣に並んだとき、
彼女は私の手を取って、こう言った。

「この関係、
 もう“主と奴”って呼ぶの、やめよっか」

「呼び名がないほうが、ええ気がしてきた。
 だって今のミオは──“従ってるふり”でも、“支配されてるだけ”でもないから」

私はそっと、彼女の肩に額を寄せた。

名前のない関係。
でも、それでも離れない距離。

その夜は、
何もされなかった。
触れられなかった。

でも、
一番深くつながっている気がした。

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