壊れて、笑って、生きていく②──主に委ねるカラダ

nana

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止まれないのは、私だけだった

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あのレースの夜から、
私は何度も頭の中で、
新しい芸を考えた。

もっと過激に。
もっと笑われるように。
もっと、主に届くように。

私には、もうそれしか残ってなかった。

次に呼ばれたのは、
また小さな飲み会だった。

主と、主友たち。
あの顔ぶれ。

席について、
すぐに私は立ち上がった。

「今日も、考えてきました!」

笑った。
何も恐れないふりで。

バッグから出したのは、
小さな、
小さな透明ビニール。

「これで、今日の一発芸やります♡」

空気が一瞬だけ止まった。
でも、誰も止めなかった。

私は、
透明なビニールを、
身体に巻きつけただけで立った。

守るものなんて、なかった。
何も、隠せなかった。

それでも私は、
笑った。

「ナナ、やばすぎw」
「マジで天才かよw」

主友たちが爆笑した。

そのとき、
主が立ち上がった。

静かに、
私に近づいてきた。

「ナナ、ちょっと待て」

それだけだった。
小さな声。
優しい声。

でも私には、
耳を塞ぎたくなるぐらい、
強い言葉だった。

私は笑った。
笑うしかなかった。

「大丈夫です!まだいけます♡」

ビニールをぎゅっと引き寄せながら、
私は立っていた。

笑われるために。
愛されるために。
見てもらうために。

止まるなんて、考えられなかった。

主は、
何か言いかけたけど、
黙った。

そして、
ほんの少し、目を伏せた。

宴は続いた。
私は、
裸同然のビニールで、
ピエロみたいに笑った。

四つん這いになり、
乾杯芸をして、
カラオケマイクを持たされ、
バカみたいに歌った。

笑い声。
スマホのシャッター音。
爆笑。
軽いヤジ。

その全部を、
私は飲み込んだ。

帰り道。
私はひとり、
コンビニの前で立ち止まった。

バッグの中には、
くしゃくしゃになったビニール。

手に持った缶コーヒーは、
ぬるくなってた。

スマホを開くと、
主から一通だけLINEが来てた。

『ナナ、無理すんなよ』

短いメッセージだった。

私は、
画面を見つめたまま、
笑った。

「無理なんか、してへんよ。」

だって私は、
笑われるために、
ここにいるんやから。

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