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遠ざかる主、止まれない私
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それから、主からの呼び出しは、
少しずつ、間が空くようになった。
以前みたいに、毎週のように飲み会があったわけじゃない。
グループLINEも、
みんなが盛り上がっているとき、
主だけは静かなことが増えた。
私は、それに気づいていた。
最初から、ちゃんと気づいてた。
だけど。
怖かった。
「ナナ、やりすぎたんちゃうか」
そんなこと、言われるのが怖かった。
だから、私は余計に笑った。
呼ばれたときは、前よりもっとはしゃいだ。
前よりもっと、裸に近い恰好で芸をした。
笑われるたびに、
主がほんの少しだけ、遠ざかる気がしても、
私は気づかないふりをした。
ある夜、
久しぶりに呼ばれた飲み会。
私は、
カバンの中に小道具をぎっしり詰め込んで行った。
透明なレインコート。
パーティ用のピンクのヒモパン。
お菓子の空き袋で作った王冠。
今日も、
絶対にウケる。
絶対に笑わせる。
それだけを考えてた。
宴が始まると、
私はすぐに立った。
「今日も、やります♡」
透明なレインコートを羽織り、
ヒモパン一枚の下に、
自作の王冠をかぶって踊った。
みんなは爆笑した。
「やばいw」
「ナナ、マジ天才!」
シャッター音が鳴り響いた。
私は、
笑われるたび、
またひとつ、
何かを脱ぎ捨てていった。
でも、
主だけは、
あまり笑わなかった。
静かに、
缶ビールを握ったまま、
私を見ていた。
悲しそうな顔でもない。
怒ってる顔でもない。
ただ、
すごく遠い顔をしてた。
飲み会の最後、
主がふと立ち上がって、
小さな声で言った。
「ナナ、もうええから。」
たったそれだけだった。
私は、
笑ったふりをして、
深々とお辞儀した。
「まだいけますよ♡」
そう言って、
透明なレインコートを翻した。
でも、
心のどこかが、
ぐしゃぐしゃに音を立てた。
帰り道。
私はレインコートのまま、
寒空の下を歩いた。
ピンクのヒモが脚に食い込んで、
レインコートの内側が冷たくて、
すごく、すごく寂しかった。
スマホを開いても、
主からは何も来ていなかった。
それでも私は、
次の芸のことを考えた。
「もっとウケるやつ。」
「もっとバカみたいなやつ。」
「次こそ、笑ってくれるやつ。」
止まれなかった。
もう、
止まる理由も、
戻る場所も、
どこにもなかった。
少しずつ、間が空くようになった。
以前みたいに、毎週のように飲み会があったわけじゃない。
グループLINEも、
みんなが盛り上がっているとき、
主だけは静かなことが増えた。
私は、それに気づいていた。
最初から、ちゃんと気づいてた。
だけど。
怖かった。
「ナナ、やりすぎたんちゃうか」
そんなこと、言われるのが怖かった。
だから、私は余計に笑った。
呼ばれたときは、前よりもっとはしゃいだ。
前よりもっと、裸に近い恰好で芸をした。
笑われるたびに、
主がほんの少しだけ、遠ざかる気がしても、
私は気づかないふりをした。
ある夜、
久しぶりに呼ばれた飲み会。
私は、
カバンの中に小道具をぎっしり詰め込んで行った。
透明なレインコート。
パーティ用のピンクのヒモパン。
お菓子の空き袋で作った王冠。
今日も、
絶対にウケる。
絶対に笑わせる。
それだけを考えてた。
宴が始まると、
私はすぐに立った。
「今日も、やります♡」
透明なレインコートを羽織り、
ヒモパン一枚の下に、
自作の王冠をかぶって踊った。
みんなは爆笑した。
「やばいw」
「ナナ、マジ天才!」
シャッター音が鳴り響いた。
私は、
笑われるたび、
またひとつ、
何かを脱ぎ捨てていった。
でも、
主だけは、
あまり笑わなかった。
静かに、
缶ビールを握ったまま、
私を見ていた。
悲しそうな顔でもない。
怒ってる顔でもない。
ただ、
すごく遠い顔をしてた。
飲み会の最後、
主がふと立ち上がって、
小さな声で言った。
「ナナ、もうええから。」
たったそれだけだった。
私は、
笑ったふりをして、
深々とお辞儀した。
「まだいけますよ♡」
そう言って、
透明なレインコートを翻した。
でも、
心のどこかが、
ぐしゃぐしゃに音を立てた。
帰り道。
私はレインコートのまま、
寒空の下を歩いた。
ピンクのヒモが脚に食い込んで、
レインコートの内側が冷たくて、
すごく、すごく寂しかった。
スマホを開いても、
主からは何も来ていなかった。
それでも私は、
次の芸のことを考えた。
「もっとウケるやつ。」
「もっとバカみたいなやつ。」
「次こそ、笑ってくれるやつ。」
止まれなかった。
もう、
止まる理由も、
戻る場所も、
どこにもなかった。
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