“実況される身体”が、私の名前になった夜

nana

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【第12話】 『「もう戻っていいよ」って言われたら、どれだけ楽だったか』

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──自分で選んだくせに、しんどくなってしまった。

あの夜、私ははじめて「自分で脱ぎたい」と言った。
誰の指示でもなく、自分の意志で動いた。
それはたしかに、小さな革命だった。
でも──革命のあとに残ったのは、自由という名の責任だった。

次の夜、私は配信を開けなかった。

いつも通りスマホを立てて、カメラを起動して、
コメント欄に名前を伏せて、呼ばれるのを待てばよかったのに。

でも、もうそれができなかった。
だって一度、「自分で決める」という甘くて重たい感覚を知ってしまったから。

もう、命令には“完全には戻れない”。
でも、選び続けるには、私はあまりにも弱すぎた。

「もう戻っていいよ」
そう言ってくれたら、どれだけ楽だったか。
「また命令してあげる」「もう考えなくていいよ」
そんな風に優しく支配してもらえたら──
私は、迷わずひざまずいたと思う。

選ぶのって、痛い。
どんな姿を見せるか、どこまで脱ぐか、
どの瞬間に声を出すか、自分で決めるたびに、
「間違ってるかもしれない自分」と向き合わなきゃいけない。

命令されてた頃は、そんなこと考えなくて済んだ。
正解も不正解も、誰かが持ってた。
「ナナは、ちゃんと従ってればいい」──
その言葉に守られてた。

今はもう、
正解も、指示も、
誰もくれない。

コメント欄に戻れば、
たぶん、誰かがまた呼んでくれる。
“ナナ”って。
“命令される名前”として。

でも、それを自分から望んだら、
もう「責任はない」なんて、言えなくなる。

自分で服を脱いで、
自分でカメラを向けて、
自分で、また“命令される存在”に戻ろうとする。

──それってつまり、
「支配されることを、自分で選んだ」ってことじゃないの?

そんな真実に、気づきたくなかった。

私はスマホを閉じて、部屋の隅に蹲った。
誰の視線もない場所で、
自分の価値がゼロになるのを、じっと感じていた。

──“ナナ”って、誰だったんやろう。
誰かに見られてないと、
私は“私”でいられないのかもしれない。

その夜、私はひとつのメッセージを受け取った。

《ナナ。そろそろ、戻っておいで。》

それは“彼”だったのか、別の誰かだったのか。
名前はなかった。
でも、“主”のような声だった。

その言葉が、“命令”か“許し”か、
私にはもう、分からなかった。

ただ──
少しだけ、泣きそうになった。

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