“実況される身体”が、私の名前になった夜

nana

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【第11話】 『“名前”が命令になる前に、もう一度だけ選びたかった』

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──ナナ。

その名前が、誰かの口からこぼれると、
私は無意識に背筋を伸ばし、呼吸を整えてしまう。
訓練された犬のように。
“選ばれる側”としての反応だった。

でも、その夜だけは、違った。

「ナナ。今日は、どうしたい?」

いつもは命令が届く場所に、
選択を委ねる言葉が届いた。

どうしたい?
……そんな問い、久しく聞いていなかった。

“どうされたい?”なら、答えられる。
“どうしたらいい?”なら、もっと得意だ。
でも、“自分がどうしたいか”なんて、
考えないようにしてきた。

自分で決めることは、
自分で責任を持つことだから。

「“名前”で呼ばれた瞬間、私は命令を待ってしまう」──
そう思っていた。
でもその夜、“名前”が、
命令じゃなく“選択肢”として投げられたとき、
私は、何も言えなかった。

スマホの前で、無音のまま数分が過ぎる。
コメント欄には、「大丈夫?」「悩んでる?」「やめたほうがいい?」
そんな優しさと不安と、ちょっとした興味が混ざった言葉が流れていく。

でも私は、そのどれにも応えなかった。
ただ、自分の内側で、何かがゆっくりと動き始めるのを感じていた。

──“選ぶ”って、こんなに怖いんや。

されることに慣れすぎて、
自分の欲を口にすることすらできなくなっていた。

「もっと見てほしい」
「今日はキスみたいなことだけがしたい」
「触られたいけど、触らせたくない」
「笑って見てて」
「泣いてるとこ、記録しないで」

──そういう欲望を言葉にするのが、
一番、“人間”っぽくて、恥ずかしい。

「……今日は、自分で脱いでみたい。」

たったそれだけの言葉を打つのに、
数分かかった。
でも、送信ボタンを押したとき、
私は命令じゃなく、“意志”で動いた気がした。

コメント欄が、一瞬止まった。
そして、ゆっくりと流れてきた。

《そういうナナ、初めて見たかも》
《選ぶって、強いね》
《見守ってるよ》《好きなようにしていい》

命令のない世界で、
私は自分の意思で、服に手をかけた。

カメラの向こうには、
誰かが見ている気がした。

“選んだナナ”を、ちゃんと見てくれている誰かが。

“名前”が命令になる前に、
私は一度だけ、自分で動きたかった。

たとえそのあと、
また誰かの奴隷に戻ってしまうとしても──
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