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夜会の日の令嬢は、一日中闘いの連続だ。

まず自身を磨き上げる侍女との戦い

締め付けるコルセットと彩る宝石の重さとの戦い

会場では
各家紋との会話の応酬での戦い

美味しい料理とドレスのラインとの戦い

帰る頃には満身創痍となり当分どこへも出かけたくなる程の、クララには辛いイベントだった。

ただ今回は、
日頃のお礼にとリカ様が送って下さったピアス、気を回してアーロンが用意してくれたドレス、一応守ろうとしてくれているディックの腕輪、そしてリッキーの指輪など

普段の生活では自らを飾り立てることにあまり興味がないクララですら気分が上がってしまう程の、周りからのアシストがあった。
いつもの夜会よりは大分気持ちが入っているので、広告塔にも気合が入る。


「今日も美しいな、妹よ~!」

玄関ホールに降りると大袈裟にクララを褒めちぎる兄が待っていた。

「そんなお世辞を言わなくても王妹殿下からの盾くらいやりますわよ」
冷静に兄につっこむと「そんなつもりはないとは言わないけど、クララが綺麗なのも本当だよ」などと言い訳する。

褒め言葉が嫌味になる程の美貌を持つ兄を王妹はまだ諦めてないらしく、今は情夫になれと言い寄られているそうだ。
伯爵となった我が家の嫡男に堂々とヒモになれとは中立のウィンター家も貴族派との関係性も考えておくべきかもしれない、夜会でまた一つやることが増えた。

「会場まで一緒に行こうね、今日は王太子殿下も参加する夜会だから是非挨拶させて欲しいって頼まれてるんだ」
なんとも面倒な案件を次々と持ってくる兄だったが、
兄も姉も両親のことも、家族を大切にするクララはこの為に頑張っているので多少のトラブルにつながりそうな件は事前に伝えて貰えるなら逆に助かるなとまで思っている。

「すました顔のクララもいいけど、驚く顔も可愛いだろうね」
馬車に乗り込むクララをエスコートしながら兄は楽しそうに笑う。

「私はお兄様の焦る顔を、今日は見たくないのでよろしくお願いしますわ」
クララにそう言われた兄は既に焦った様な顔に切り替わっていた。


王宮につくと入り口でアミーとリリィが罵り合っている所に出くわす、
デジャヴである。

「わたくしのドレスが時代遅れなどと良くもまあおっしゃいましたわね!
シルクを使えなかったからとて代用品でわたくしに挑戦して頂かなくてもけっこうよ!」
リリィがワナワナと扇を握りしめて叫ぶ、もはや怒りを隠す気はない様だ。

「今流行ってるのはレースです~!イジワルして着たドレスが古臭くて可哀想ですね、って言っただけで怒るなんて、自覚でもあるんですか~?」
なぜアミーは身分差も考えずリリィに喧嘩を売るのか、
お互い1番目立つのは自分で無いと納得がいかない性分なのだろうか、ドレスショップの前で揉める位であればお咎めは特に無いはずだが、王太子も出席する夜会の会場でこの騒ぎはきっと問題になるだろう。

「しょうがないわね、お兄様よろしくね」
クララはため息をつき、兄へ一言伝えて前へ進む。

「失礼致します、リリィ様、アミー様ごきげんよう。
こちらで騒ぐのはどちらにとっても得策ではないと思われますよ、王族の方が参加する夜会で目立つとは不敬と取られてしまいますわ。」
2人のところまで着くとカーテシーをして挨拶をした。

「クララさん!私のレースが最先端ですよね、そう言ってましたよね!」
味方をつけたとばかりにアミーが援護射撃を求めたが、
「流行り廃りに拘りすぎて前衛的になりすぎではございませんの?こちらの足りない令嬢はもっと歴史や教養を学ぶべきではございませんこと?」
辛辣な言葉でリリィも参戦してきた。

「いつの世も素敵なものはそれぞれ独立して考えて愛でるべきでしょう。
シルクは勿論流行のものですもの、美しいですし、レースもこれからきっと皆様着られますでしょうね、とても良いものですわ。
可愛いらしく実るストロベリーと収穫してから熟すのを待ったピーチ、どちらが上かなど競う様なことではございません、どちらも愛されるべきですわ!」
クララとてこんな戯言で2人が落ち着くとは思っておらず今のうちにそっと背後に目配せをした。

「お嬢様方はお二人共素敵なお召し物ですね、どちらのドレスショップをご贔屓にしてらっしゃるのかな、僕にも聞かせて欲しいな~、もしかして王都のティール?あそこにはうちの家も出資してるんですよ。
美人がますます魅力的になってますね。」

今までも顔だけでいくと結婚相手として不動の人気を誇っていた兄は、先日の陞爵にて次期伯爵となり縁続になって損は無いと、更に人気をあげていた。

男爵家のアミーはもちろん、侯爵令嬢のリリィでさえ兄の顔の前では諍いなどどこ吹く風と大人しくなる。
更にティールの宣伝までした兄は本日は良くできたで賞だ。

「今度ティールに行った際にはぜひ僕も顔を出しますね~!
では~!」
有無を言わさぬ美というものは凄味も兼ね備えるものの様で、一言声をかけただけで、2人は仲良く雑談までしだしている、話題は兄の顔についてだが。


やっと落ち着いて会場に入り、可もなく不可もなしのファーストダンスを兄と踊る。

「じゃあちょっと殿下の所に行ってくるね」
兄はクララに手を振り、王族の控室の方に進んで行った。
残されたクララは、甘味でも物色しようかなとテーブルに目をやったが、そこで大柄の黒髪の青年が割り込んできて声をかけてきた。

「失礼、ぜひ私と一曲踊っていただけないだろうか」



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