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この世界には妖精がいる。
人の目には見えない存在だが、確かに彼らはそこに存在していて、時にはいろんなイタズラを仕掛けたりして人々に不思議がられていた。
妖精のイタズラは、見えないモノを見える様にしたり、あっちとこっちを入れ替えたり、大きなモノから小さなモノまで。
でも全て最後には素敵なハッピーエンドでまとまるので、良き事と呼ばれ親しまれている。
「お兄様ー!お兄様どちらにいらっしゃるのー?」
春の始まりの兆しが見えかけているが、まだ肌寒い日の昼、屋敷の廊下をミラベルは兄を探して駆けていた。
淑女がしてよいことではないと分かっていたが、今日の夜のミラベルの成人の儀が終わるまでは家族も使用人も大目に見てくれるだろう。
今日の儀式の後、ミラベルは世界で1番大好きな兄の為に一世一代の作戦を決行する予定で、その前に英気を養う意味合いで、兄の顔をしっかり見ようと探していた。
「もう、どこに行っちゃったのかし、ぶっ!」
キョロキョロしながら廊下の角を曲がったミラベルはおもいっきり顔ごと、反対側から来た人の胸にぶつかった。
「いったーい、、」
「痛いじゃねえよ、それはこっちのセリフだお転婆娘が!」
「げっ!デシール!なんでこんなところにいるのよ!最悪だわ!!」
「自分から抱きついてきておいてその言い草はないんじゃねーのか、お転婆じゃなくて淫乱なのか。」
「ひいいいい、気持ち悪いこと言わないでよ、蕁麻疹が出ちゃうわ!」
ミラベルがぶつかった相手はいとこであり幼馴染であり兄の親友であり、、、彼女の天敵であるデシールだった。
幼い頃から我が家に事あるごとに入り浸り、今は学園で兄と同室の寮におり、共に今夜の儀式の為に屋敷に滞在している。
「相変わらず元気だねミラベル。
ほら、お兄様にもご挨拶して、おかえりって言って欲しいな。」
なんと、天敵の奥にはミラベルの世界で1番大好きなお兄様がいるではないか。
「お兄様~~~~!!!!」
ここぞとばかりに、今度こそちゃんと胸に飛び込もうとしたミラベルの首根っこを素早い動きでしっかりと掴み阻止したのはにっくきデシール。
「何するのー!離してよー!」
「何するのはこっちのセリフ、とにかく頼むから儀式が終わるまで大人しくしててくれ」
「なんであなたにそんな事指図されなきゃいけない訳!?
うー!お兄様ー!!」
どうにか抱きつこうとするが、悲しいかな淑女の力では男の力には敵わない。
抱きつく事はしょうがない、諦めて今夜の計画にこの悔しさも組み込もうとミラベルは心の中で決心する。
今日のこの様に、兄大好きなミラベルが四六時中兄にくっついていこうとするのを、事あるごとに邪魔し、防いでくるのがデシールだった。
「お兄様、一緒にお昼寝しましょう!」
「俺たちはこれから剣術の稽古があるんだ、お前1人で寝てろ」
「お兄様、ハンカチに刺繍をしてみたの、受け取ってくれる、、?」
「こんな汚いハンカチ持たせて恥をかかせる気か?もっと練習してからにしろよ」
「お兄様、お庭でお茶でもいかがかしら?」
「残念これは二人乗りなんだ、じゃなかった、俺たちはこれから遠乗りだよ、馬に乗れない奴は大人しく茶ーでもすすってな」
物心ついてからを思い返しても、兄との仲を邪魔された記憶しかない。
更に学園の寮暮らしになってからは、帰省はいつもデシールが一緒でゆっくり2人で話すことも難しくなっていた。
憎しみは日々溜まっていたが、それがついに決壊を迎えたのはつい先日だった。
一年前に兄には婚約者が出来た。
兄同担拒否過激派だったミラベルだったが、さすがに貴族社会にて後継という責任の重さは理解していた。
血の涙を流す意気込みでその事実は受け止め、
兄のお嫁さんと仲良くなり一生屋敷に置いてもらうことにしようと考えていた。
信じられない事だがミラベルは本気でそうしようと思っていた。
ある日兄に会いにきたはずの婚約者が裏庭でデシールと2人きりで話し込んでいるところに遭遇する。
どう見ても親密な2人だった、何よりも兄の婚約者のあの目は愛する人を見つめる目にしか見えなかった。
ミラベルは考えた、2人はおそらく兄に隠れて情を交わし合っているのでは、、兄大好き人間にとってはこんな嫁は追い出すに限るが、この醜聞は広まれば兄の瑕疵となる。
そして許せないのはデシールのこともだ。
兄には親友なんて言ってるのに男女が絡むとこうなるのか、本当に信じられない男である。
兄はこの婚約が決まった時にだいぶ喜んでいると両親が言っていて悲しく思った覚えがあった。
家としても兄の気持ちとしてもこの婚約はかなり歓迎しているものだったので、一時の気の迷いには目をつぶりこれを好気と考えてあのにっくきデシールを兄と兄嫁から引き離すキッカケとするのはどうか。
その為に立てた作戦はこうだった。
儀式が終わった後にミラベルは社交界では成人となる。
淑女として廊下を走らないというのはもちろんだが、一般的に婚約者以外の異性と交流を持つことも憚られる。
(だから兄嫁は本当に最低だと思っている)
成人となったミラベルは、自分の部屋にデシールを閉じ込めて一晩あかす、そうすれば未婚の女性を襲ったとみなされデシールは2度と屋敷に来れなくなるだろう。
もちろん本当の意味であかすつもりなどない、ベッドの脇には眠くなりやすくなる香を準備してあった、自分はそれを吸わない様にし、デシールを朝まで拘束できればミラベルの作戦はうまく行ったも同然だ。
なんともお粗末な作戦ではあったがミラベルには根拠のない自信があった、今は偉そうにしているデシールを明日にはコテンパンに出来ると思いほくそ笑んでいた。
ついに夜、儀式は始まった。
成人する本人以外は黒い服を纏い、本人は白を纏うのが儀式の習わしで、しっかりと兄の麗しの黒装束を堪能し(デシールにちゃんと前を見ろと怒鳴られ)儀式は厳かに進んでゆく。
妖精王からの祝詞を司祭様が読み上げる。
「ネテンナ
ウコイセラズ
タイレド
モニレガ
ナイシダタ」
兄の儀式にも参加したがその時とは違い、なんだか自分の時は頭がスッキリした気がしてミラベルは不思議な気分になっていた。
儀式が終わりついに夜が始まった。
誰にもバレない様に客間に向かい、デシールの部屋をノックする。
「え、ミラベル、どうしたの?なんでこんな時間に?」
「黙ってついてきて、お願いよ!」
「そんな、ダメだよ。2人きりだなんて君の兄に何を言われるか!」
「お兄様のためなのよ、いやなんでもない、とにかくお願いよ、今回だけ、クッキーの恩を返してちょうだいよ!!」
ミラベルは昔、兄の為に焼いたクッキーを全て平らげられたことがあった。
その時に「いつか返すからよ!」
と言われていたのだ。
「とにかく分かった、ここで騒ぐよりはついて行くよ。」
思ったより大人しくデシールはミラベルの部屋まで着いてきてくれた。
部屋に押し込めばこっちのものだ、お香がたっぷり焚いてある。
「なんか煙くない?」
部屋につくなりめざとい男である、お香に言及してきた。
「そんなことないわよ」
「いや、ミラベル、ハンカチで口押さえてるじゃないか」
「うるさいわね、なんかくしゃみがでそうなのよ、風邪かしら」
とんでもない言い訳を繰り出し、早くお香の効果が出ないものかとミラベルは祈っていたが、風邪という言葉でデシールが
「え!大変だ、ベッドに横になって!話はちゃんとそこで聞くから安静にしてよ!」
と、突然過保護になりはじめた。
兄みたいなことを言い出したわね、と思いつつとりあえずベッドに入り込み時間を潰そうとしたら、デシールが真剣な面持ちで顔を覗き込んできた。
「ずっと君に話したいことがあったんだ。
体調が治ったらでいい、聞いてくれるかな」
いつになく真面目なデシールに少しドキドキしてしまい、ハンカチでクチを抑えるのをすっかり忘れたミラベルはそのまま寝てしまった。
人の目には見えない存在だが、確かに彼らはそこに存在していて、時にはいろんなイタズラを仕掛けたりして人々に不思議がられていた。
妖精のイタズラは、見えないモノを見える様にしたり、あっちとこっちを入れ替えたり、大きなモノから小さなモノまで。
でも全て最後には素敵なハッピーエンドでまとまるので、良き事と呼ばれ親しまれている。
「お兄様ー!お兄様どちらにいらっしゃるのー?」
春の始まりの兆しが見えかけているが、まだ肌寒い日の昼、屋敷の廊下をミラベルは兄を探して駆けていた。
淑女がしてよいことではないと分かっていたが、今日の夜のミラベルの成人の儀が終わるまでは家族も使用人も大目に見てくれるだろう。
今日の儀式の後、ミラベルは世界で1番大好きな兄の為に一世一代の作戦を決行する予定で、その前に英気を養う意味合いで、兄の顔をしっかり見ようと探していた。
「もう、どこに行っちゃったのかし、ぶっ!」
キョロキョロしながら廊下の角を曲がったミラベルはおもいっきり顔ごと、反対側から来た人の胸にぶつかった。
「いったーい、、」
「痛いじゃねえよ、それはこっちのセリフだお転婆娘が!」
「げっ!デシール!なんでこんなところにいるのよ!最悪だわ!!」
「自分から抱きついてきておいてその言い草はないんじゃねーのか、お転婆じゃなくて淫乱なのか。」
「ひいいいい、気持ち悪いこと言わないでよ、蕁麻疹が出ちゃうわ!」
ミラベルがぶつかった相手はいとこであり幼馴染であり兄の親友であり、、、彼女の天敵であるデシールだった。
幼い頃から我が家に事あるごとに入り浸り、今は学園で兄と同室の寮におり、共に今夜の儀式の為に屋敷に滞在している。
「相変わらず元気だねミラベル。
ほら、お兄様にもご挨拶して、おかえりって言って欲しいな。」
なんと、天敵の奥にはミラベルの世界で1番大好きなお兄様がいるではないか。
「お兄様~~~~!!!!」
ここぞとばかりに、今度こそちゃんと胸に飛び込もうとしたミラベルの首根っこを素早い動きでしっかりと掴み阻止したのはにっくきデシール。
「何するのー!離してよー!」
「何するのはこっちのセリフ、とにかく頼むから儀式が終わるまで大人しくしててくれ」
「なんであなたにそんな事指図されなきゃいけない訳!?
うー!お兄様ー!!」
どうにか抱きつこうとするが、悲しいかな淑女の力では男の力には敵わない。
抱きつく事はしょうがない、諦めて今夜の計画にこの悔しさも組み込もうとミラベルは心の中で決心する。
今日のこの様に、兄大好きなミラベルが四六時中兄にくっついていこうとするのを、事あるごとに邪魔し、防いでくるのがデシールだった。
「お兄様、一緒にお昼寝しましょう!」
「俺たちはこれから剣術の稽古があるんだ、お前1人で寝てろ」
「お兄様、ハンカチに刺繍をしてみたの、受け取ってくれる、、?」
「こんな汚いハンカチ持たせて恥をかかせる気か?もっと練習してからにしろよ」
「お兄様、お庭でお茶でもいかがかしら?」
「残念これは二人乗りなんだ、じゃなかった、俺たちはこれから遠乗りだよ、馬に乗れない奴は大人しく茶ーでもすすってな」
物心ついてからを思い返しても、兄との仲を邪魔された記憶しかない。
更に学園の寮暮らしになってからは、帰省はいつもデシールが一緒でゆっくり2人で話すことも難しくなっていた。
憎しみは日々溜まっていたが、それがついに決壊を迎えたのはつい先日だった。
一年前に兄には婚約者が出来た。
兄同担拒否過激派だったミラベルだったが、さすがに貴族社会にて後継という責任の重さは理解していた。
血の涙を流す意気込みでその事実は受け止め、
兄のお嫁さんと仲良くなり一生屋敷に置いてもらうことにしようと考えていた。
信じられない事だがミラベルは本気でそうしようと思っていた。
ある日兄に会いにきたはずの婚約者が裏庭でデシールと2人きりで話し込んでいるところに遭遇する。
どう見ても親密な2人だった、何よりも兄の婚約者のあの目は愛する人を見つめる目にしか見えなかった。
ミラベルは考えた、2人はおそらく兄に隠れて情を交わし合っているのでは、、兄大好き人間にとってはこんな嫁は追い出すに限るが、この醜聞は広まれば兄の瑕疵となる。
そして許せないのはデシールのこともだ。
兄には親友なんて言ってるのに男女が絡むとこうなるのか、本当に信じられない男である。
兄はこの婚約が決まった時にだいぶ喜んでいると両親が言っていて悲しく思った覚えがあった。
家としても兄の気持ちとしてもこの婚約はかなり歓迎しているものだったので、一時の気の迷いには目をつぶりこれを好気と考えてあのにっくきデシールを兄と兄嫁から引き離すキッカケとするのはどうか。
その為に立てた作戦はこうだった。
儀式が終わった後にミラベルは社交界では成人となる。
淑女として廊下を走らないというのはもちろんだが、一般的に婚約者以外の異性と交流を持つことも憚られる。
(だから兄嫁は本当に最低だと思っている)
成人となったミラベルは、自分の部屋にデシールを閉じ込めて一晩あかす、そうすれば未婚の女性を襲ったとみなされデシールは2度と屋敷に来れなくなるだろう。
もちろん本当の意味であかすつもりなどない、ベッドの脇には眠くなりやすくなる香を準備してあった、自分はそれを吸わない様にし、デシールを朝まで拘束できればミラベルの作戦はうまく行ったも同然だ。
なんともお粗末な作戦ではあったがミラベルには根拠のない自信があった、今は偉そうにしているデシールを明日にはコテンパンに出来ると思いほくそ笑んでいた。
ついに夜、儀式は始まった。
成人する本人以外は黒い服を纏い、本人は白を纏うのが儀式の習わしで、しっかりと兄の麗しの黒装束を堪能し(デシールにちゃんと前を見ろと怒鳴られ)儀式は厳かに進んでゆく。
妖精王からの祝詞を司祭様が読み上げる。
「ネテンナ
ウコイセラズ
タイレド
モニレガ
ナイシダタ」
兄の儀式にも参加したがその時とは違い、なんだか自分の時は頭がスッキリした気がしてミラベルは不思議な気分になっていた。
儀式が終わりついに夜が始まった。
誰にもバレない様に客間に向かい、デシールの部屋をノックする。
「え、ミラベル、どうしたの?なんでこんな時間に?」
「黙ってついてきて、お願いよ!」
「そんな、ダメだよ。2人きりだなんて君の兄に何を言われるか!」
「お兄様のためなのよ、いやなんでもない、とにかくお願いよ、今回だけ、クッキーの恩を返してちょうだいよ!!」
ミラベルは昔、兄の為に焼いたクッキーを全て平らげられたことがあった。
その時に「いつか返すからよ!」
と言われていたのだ。
「とにかく分かった、ここで騒ぐよりはついて行くよ。」
思ったより大人しくデシールはミラベルの部屋まで着いてきてくれた。
部屋に押し込めばこっちのものだ、お香がたっぷり焚いてある。
「なんか煙くない?」
部屋につくなりめざとい男である、お香に言及してきた。
「そんなことないわよ」
「いや、ミラベル、ハンカチで口押さえてるじゃないか」
「うるさいわね、なんかくしゃみがでそうなのよ、風邪かしら」
とんでもない言い訳を繰り出し、早くお香の効果が出ないものかとミラベルは祈っていたが、風邪という言葉でデシールが
「え!大変だ、ベッドに横になって!話はちゃんとそこで聞くから安静にしてよ!」
と、突然過保護になりはじめた。
兄みたいなことを言い出したわね、と思いつつとりあえずベッドに入り込み時間を潰そうとしたら、デシールが真剣な面持ちで顔を覗き込んできた。
「ずっと君に話したいことがあったんだ。
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