異端の聖女

わしお

文字の大きさ
12 / 72
第二章 - 乳母 エルディア

第11話

しおりを挟む
教団に復讐しようと決意したはいいが、ソレイユは方法に悩んでいた。

素直に頭を潰したら良いかと思ったが、教皇は枢機卿の傀儡かいらいに過ぎない。倒すなら枢機卿内の権力者、もしくはアウレル神だろう。

枢機卿内の権力構造をソレイユは知らない。二年前までは明らかに威張り散らしている男がいたのだが、大規模な人員の入れ替えでいなくなった。
新しいトップがいるはずだ。が、それらしき人物は見つけられていない。だからといって見境なく全滅させるのは、ソレイユの力では無理がある。

ならば狙いやすいのは神だろうか。ディールスを救うためにも、神との接触は避けられない。

(神様って普段どこにいるんだろう。たーーーまに大聖堂で見かけるけど、ほとんど見ないんだよね)

ディールスから神を追い出す方法も考えなければならない。新しい依り代を用意したらディールスは解放されるかもしれないが、今度は別の犠牲者が出る。それは避けたいと思った。

うーんと唸りながら、ソレイユはジュドと共にふらふらと街を巡回する。気づけば港に辿り着いていた。

強い潮風が全身を叩きつける。港では多くの男性が、汗水垂らして働いている。海に囲まれたアウレル国にとって、海産物は重要な資源だ。

早朝の漁から帰ってきた船を見ながら、ソレイユはふと昔のことを思い出した。

(エルディアが教団から脱出しようとしたときは、確か港から船に乗ろうとしたんだよね。……うまくは、いかなかったけど)

教団を潰さずとも、ルーナとディールスを連れてアウレル国を出るという選択肢もあっただろう。それでもディールスと神を切り離す必要はあるが。
けれどソレイユは、最初からその選択肢を除外していた。それはかつて、教団からの脱出に失敗したことがあるからだ。

当時、ソレイユはまだ六歳だった。なぜ大聖堂から抜け出そうとしているのか、わからないまま、信頼する大人について行った。

その結末を、ソレイユは今でも鮮明に覚えている。

(……やめよ。気分悪くなる)

ソレイユは遠い記憶を頭から追い出し、改めて教団を潰す方法を考え始めた。
何にせよ、神をディールスから追い出さなければ何も始まらない。まずはその方法を考えようと思った。

そこでふと思い至る。神はどうして依り代を使ってまで、地上で生活する必要があるのだろう。

(地上で生活することで、神様にメリットがあるのかな?)

「ねえジュド。なんで神様は依り代を必要とするの?地上で生活する理由って何?そもそも神様の本体ってどこにいるの?依り代に宿るのは魂って話だったよね」
「そんな矢継ぎ早に聞かれても困ります」

ジュドは呆れ顔でソレイユを見る。話がてら休憩しようと、ソレイユとジュドは岸壁の縁に腰を下ろした。

「一応確認ですが、アウレル教の神話はご存じですか?」
「聞いたことあるけど、ちゃんとは覚えてない」
「でしょうね。細部まで把握している人は意外と少ないようですから」

ジュドはアウレル教の神話について、重要なところだけかいつまんで話し始めた。





この島には、元々二柱ふたはしらの神がいた。大地の女神と大空の神であった彼らは、ここを命溢れる豊かな島にするため、双子の神を産み落とした。

その双子が、太陽の神アウレルと、夜の神ヴェスペルである。

アウレルは光を与えるその力で、多くの神々を生み出した。生まれた神々は、海や風、花などを作り出し、島を豊かにしていった。
島は喜びに溢れ、神々は歌い踊り、毎日のように宴をしていたという。

しかしその宴に、ヴェスペルだけは呼ばれなかった。

暗い夜を司るヴェスペルは、神々の嫌われ者だった。光がなければ生き物は死んでしまう。ヴェスペルは死の神として恐れられた。

神々に囲まれ豊かに暮らすアウレルと、誰も寄り付かず、いつも一人のヴェスペル。二柱の溝は日に日に開き、ヴェスペルはアウレルへの妬みを募らせた。

ある日とうとう、ヴェスペルはアウレルに反逆した。二人で話がしたいと嘘をつき、アウレルから太陽の権能けんのうを奪ったのだ。

そしてヴェスペルは、アウレルを黒水晶の中へと封印した。

ヴェスペルは奪った権能で神々を統率しようとしたが、ヴェスペルを嫌う神々が言うことを聞くはずがない。
ヴェスペルは神々の逆襲に遭い、命を落とした。そしてヴェスペルが死したことで、アウレルの封印を解ける者はいなくなってしまった。

アウレルは数千年経った今でも、黒水晶の中で封印が解かれる時を待ち続けている。





「なんとなく覚えてはいたけど、ひどい話だね」
「酷いですか」
「うん。夜の力を与えられただけで嫌われるなんて、かわいそう」

話を聞いたソレイユは、ヴェスペルに少し共感を覚えた。
生まれなどという、自分ではどうすることもできないことで嫌われる。まるでソレイユやディールスのようだ。

もしかしたらソレイユも、復讐を果たせず、返り討ちに遭うかもしれない。ヴェスペルと同じ末路をたどる可能性は、決して低くない。

(そうならないためにも、ちゃんと作戦を立てないとね)

ソレイユは一瞬目を閉じ、頭を切り替えてゆっくり瞼を開けた。

「その神話が本当だとしたら、神様の本体は水晶の中にあるってこと?」

ソレイユの言葉にジュドは頷き、下がった眼鏡を押し上げる。

「そうです。神の本体は今でも、黒水晶から出ることができません。この島を守るためには水晶から出て地上で過ごす必要があり、そのために依り代が必要なのです」
「依り代は神が現世に降臨するための器って聞いたけど、降臨って感じじゃないね」
「絵本などでは脚色されたりしますから」

神がなぜこの島を守るのか、といった疑問はあるが、ディールスから神を追い出すだけならそこまで追及する必要はないだろう。

(封印されてるから依り代が必要なら、封印を解けばいいってことかな?)

安直ではあるが、可能性はありそうだと思った。神にとっても理になることであれば、協力を得ることもできるかもしれない。
教団を潰す方法とルーナを救う方法についてはまた考えなければならないが、一気に全てを解決するのは難しい。

ソレイユはひとまず、神の封印を解く方法を探ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

黒の聖女、白の聖女に復讐したい

夜桜
恋愛
婚約破棄だ。 その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。 黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。 だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。 だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。 ※イラストは登場人物の『アインス』です

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
健康で、元気なお姉様が羨ましかったの。 物心付いたときから、いつも体調が悪かった。いつもどこかが苦しかった。 お母様が側にいてくれて、ずっと看病してくれた。お父様は、わたしのお医者様の費用やお薬代を稼ぐのが大変なんだってお母様が言ってた。 わたし、知らなかったの。 自分が苦しかったから。お姉様のことを気にする余裕なんてなかったの。 今年こそは、お姉様のお誕生日をお祝いしたかった……んだけど、なぁ。 お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの? ※『わたくしの誕生日を家族で祝いたい、ですか? そんな我儘仰らないでくださいな。』の、妹視点。多分、『わたくしの誕生日を~』を先に読んでないとわかり難いかもです。 設定はふわっと。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

処理中です...