魔族界の婚活パーティー

風巻ユウ

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婚活7

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 樹人姉妹さん方のアイドルユニットが引っ込んだ頃、辺りは薄暗くなり始めておりました。時刻は夕暮れどき。

 ここ魔族界でも朝日は昇り、夕日は沈み、夜になれば赫月と蒼月が日々交互に夜空を照らします。
 本日は赫月の夜です。朱色の夕焼けより深い赫色の月光が、宵闇を彩るのです。

 只今、婚活パーティー会場では、魔虫族魔蝶種の皆様方による舞台活劇が披露されております。
 蝶々の羽をヒラヒラさせながらの丁々発止。
 舞台中央で繰り広げられるその様はとても痛快で見ている者の高揚感を生みます。

 物語は先々代魔王様の奥方を主人公にした『勇者退治物語』です。
 なぜ彼女を主人公にした活劇にしたのか、その理由は明白でございます。先々代魔王様の奥方様は魔蝶種でした。
 魔蝶種は比較的か弱い種族です。ですが、かの女傑は違いました。
 魔王城にやってきて乱暴狼藉を働いた勇者を撃退し、更に大軍を率いて勇者を追撃したという伝説の戦乙女なのです。

 結末は悲劇なのですが、勇者との殺陣シーンや挙兵シーンなどは特に盛り上がるので老若男女に人気です。
 現に、劇が終わると会場中がスタンディングオベーション。役者が挨拶をする度に割れんばかりの拍手喝采。盛り上がりすぎて司会者さんの声がかき消されたほどでした。

 そんな興奮冷めやらぬ雰囲気の中、とうとう私の出番がやって参りました。

『大トリはミル・アインキュタレ・アインタリスさん。なんと彼女は魔王種です。よって、運営の方から注意事項があります。皆様、耳の穴かっぽじってよくお聞き下さい。
 ──魔王種である"魔王の火種"は強力です。各自で自己防衛をお願いします。何があっても運営側は一切の責任をとりません──
 ……と、まあ、これが主催者様からの警告メッセージです。皆様、慌てず騒がず席を立たず、その場で最大限の防御をお願いします。私は逃げます。逃げさせて頂きます。では!』

 魔狸種の司会者さんは言うやいなや身を翻し、舞台袖へと消えて行きました。

 まったく、余計なこと言わなくて良いのですよ。

 折角、蝶々さんたちの活劇のおかげで良い雰囲気に包まれていた会場が、一気にザワつき始めちゃったではありませんか。

 そして警告メッセージの意味を噛み締めた魔族から順に、不安と絶望の怨嗟が聞こえてきます。
 逃げるなと言われたからって、不安に駆られたら逃げたくもなるでしょう。あちこちで席を立つ者もおりますが、不可視の結界に阻まれその場を動くことが出来ないでいます。

 あの結界は先代魔王様が張りやがりましたわね。

 ちらりと先代魔王様の方をみると、笑いを堪えて手で口を覆っています。
 何をそんなに面白がることがありますか。私は真剣なのですよ。
 婚活と文字にすれば短いこの単語に、どれほどの重みを感じ、今日という日を待ち遠しく期待に胸膨らませていることか、先代魔王様ならご理解いただけることでしょうに……。

 溜息を吐いた私に気づいたのでしょう。
 先代魔王様は異世界人の奥方様にこそこそと耳打ちをしてから私の方を見て、二人して手を振ってきました。

 いいんですのよ。励まさなくて。
 緊張などしてませんから。

 私は、私を受け入れてくれる殿方を探してここにやって来たのです。私の笑顔を見ても正気を保てる、強靭で逞しく、それでいて誠実な御方を探して……。

 私の笑顔には破壊力があります。これは文字通り。

 私が笑顔になると魔王種特有の特別スキルが発動するので、これが大惨事を招くからです。だから私の伴侶となる殿方は、私の笑顔に耐えられる者でなくてはなりません。それをこれからテストするのです。

 私はこの場を借りてテストすることを運営には伝えてあります。だからあのようなアナウンスがあったのでしょう。

 拡声魔音器の前に立ち、私は静かに自己紹介をしました。

『ご紹介に与りました。私、ミル・アインキュタレ・アインタリスと申します。
 皆様ご存知の通り、魔王種ですわ』

 たったこれだけの言葉で会場に緊張の糸が張り詰めました。普通の魔族にとって、魔王種の言葉からは重圧プレッシャーを感じるはずです。

 私はこの重圧プレッシャーコントロールが下手で、笑顔にまで破壊力がこもってしまうのです。
 別にわざとじゃないんですのよ。勝手に発動してしまうのです。

 重圧プレッシャーし過ぎると、弱い者から息を引き取ってしまいます。だからこそ制御を覚えなければいけないのですが、私はまだまだ未熟でその域にまで達していません。

 今代魔王の席が空席なのはこれが主な理由です。
 私の成長を待って下さっているのです。

 魔王種は産まれたその日から次代の魔王になる為に修行を積みます。
 私も例外に漏れず、出生場所が魔王城ということもあって幼い頃から先代魔王様に色々と教わりました。

 ですが重圧プレッシャーコントロールだけは下手くそなのです。ああ、つい、くそなどという下品な言葉を遣ってしまいましたわ。反省。

 今回の婚活パーティー、実は私の笑顔に耐えられそうな者たちのみを招待しております。
 私の事情に察してくださった主催者様が、この企画を考えてくださったのです。本当に有能なエルフさんですわ。
 恋をしてみたいという私の気持ち。この気持ちに気づいてくださったのも主催者様です。
 この婚活パーティーはすべてお膳立てされたことなのです。私の為に。

 最終目標──笑顔で円満夫婦生活の為に、私、頑張りますわ!

『皆様、お覚悟なさいまし──惜別の笑顔レヴィディ・スマイル──────にこっ!』

 ───────!!!!!!!!!!
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