現実異世界

海果

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これが日常

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 千夏は先の見えないくらい広い砂漠の真ん中に立っていた。背中には身の丈ほどの大剣を背負っている。
 一歩、足を踏み出すと、細かい砂のジャリっと言う音と感触が体に伝わってくる。
 本来なら砂に足が取られてスムーズに歩けないところだが、今の千夏は違った。この体はアンドロイド。少しの条件の悪さくらいならなんてこと無かった。
 千夏はマップに付けられた次の目的地のマークへ向かって走り出す。だが、そう易々と進ませてはくれない。
 目の前の砂がボコボコと波打ち、蛇のような長いからだのロボットが現れる。目と思われる部分が赤く光り、明らかにこちらを敵対視しているのが分かる。
 千夏は背中の大剣を正面で構えた。
 機械とはいえ、ヌルヌルと身をくねらせながら動く蛇型ロボットに大剣を当てるのは容易ではない。相手の攻撃パターンを覚え、モーションから次の攻撃を予測する。
 少し頭が上を向いた。これは大技を繰り出す前触れ。ギリギリまで攻撃を引き付けて回避する。完璧なタイミングでの回避が決まった。数秒間敵の動きがスローモーションに見える。さっきまで千夏がいた所に大技を放ったタイミングで大剣を振り上げると、力任せに振り下ろした。
 頭の真ん中を捉えた刃は、剣自体の重さと遠心力が相まってほとんど抵抗なく真っ二つにカチ割った。
 頭に動力源があったらしく、目の赤い光は消え、動きをとめた。
 勢い余って地面にまでめり込んだ大剣を引き上げると、ロボットのオイルのようなものがべっとりと付いている。何回か素振りしてそのオイルを振り払うと、背中のホルダーに再び大剣を収めた。
 呼吸、服、共に乱れなし。涼しい顔でさらに目的地を目指す。



 「めちゃくちゃかっこいいな、この子」

 完全に主人公へ感情移入していた状態から一旦現実に帰ってきた。
 コントローラーの操作も大体手が覚えてきており、気持ちの余裕が出てき始めている。
 ようやく、本格的にゲームの世界観を楽しむ準備が整ったと言えるだろう。だがこのモードに入ってしまうと、次々にストーリーを進めたくなってしまい、時間が簡単に過ぎ去っていく。今夜ももう5時。寝てないうちはまだ夜だと思っているが、外はうっすらと明るくなっている。

「ぐぅ……。メインストーリーを進めたら、このサブクエストって消えちゃうのかな……。多分メインの進行によって変わるのもあるよね……。しょうがない、今日のところはここまでにして終わるか……」

 今プレイしているゲームは、実は発売されてからひと月ほど経っていた。だから、ネットの攻略サイトにもある程度の情報が出そろいつつあった。MMOのようなオープンワールドではないが、それなりに広い地域を駆け回るとなると移動だけで時間を要する。アイテム探しや隠し要素など、上げればきりがないが、可能な範囲で漏れなく回収するつもりでプレイしていた。千夏には局所的な収集癖があり、ゲームの進捗もそれにあたる。サブクエスト一覧の、今はまだ「?」で書かれている項目が一つ一つ埋まっていくことに快感を覚える。最後に回収可能なものであればいいのだが、ゲームの性質上、それが難しそうな気がしていた。だから、メインも気になるけどサブも拾っていきたいというジレンマにより更にプレイ時間が伸びてしまいそうだった。だが、本人は一つのソフトで長く楽しめるならそれだけコスパが良くなるという謎理論を展開している。
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