花魁道中いろは唄

白鷹 / ルイは鷹を呼ぶ

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第壱章 色は匂へど

8話 失態

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ぱーん、とひと際高い平手打ちの乾いた音が仕置き部屋に響く。

「道中を失敗するなんてどこまで抜け作なんだい、椿!」

牡丹は腹の底から怒りを滲ませて椿に怒号を浴びせる。
 
椿は仕置き部屋の柱に襦袢一枚にされ縄で括り付けられていた。
大粒の涙を幾粒も零し襦袢の衿元はぐっしょりと濡れている。

「違う……、違うんでありんす」
嗚咽交じりに椿が言う。
何かがおかしかった、そう感じていたのにどう伝えればいいか判らない。
もどかしい気持ちになりながら懸命に今回の突き出しがおかしいと伝えたいのに、怒りに我を忘れてしまったかのように牡丹は椿の言葉を聞かない。

「何が違うんでありんすか。事実、おんしは道中で派手に素っ転び、仕掛けも髪も泥まみれになって揚げ屋まで辿り着くこともできんかった。華屋の暖簾に泥を塗りたくったんは変えようの無い事実でありんす」

厳しい顔付きのまま牡丹は椿の失態を列挙する。言い逃れなどできる筈もない。
派手な鳴り物だったが故に若山遊郭のみならず近隣の町にも噂が広がって椿は笑いものにされていることだろう。
それは華屋が嗤われているに他ならないのだ。お職として許してはならない。
不出来な妹を突き出した、それは牡丹の不名誉にも繋がる。恥ずかしくて町を歩くこともできない。

「ごめんなさい……、ごめんなさい、姐さん……。でも」

泣きじゃくり言葉もろくに出てこないまま椿はそれでも、今日の出来事がおかしいことを何とか伝えようとする。
だが、憤懣ふんまん遣る方ない怒り心頭な牡丹は椿の言葉に耳を貸したりはしない。

「でももかかしもありんせん。夕飯と朝飯は抜きでありんす。一晩ここで頭を冷やし」

冷たくそう言い放つと仕置き部屋から出て、立て付けの悪い木戸を閉めて立ち去ってしまう。

「姐さん」

椿の頬は拭って貰うこともできない涙が幾筋も伝うばかりだった。
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