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第1話 「赤いラブレター」

1-03 彼女の本性

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「着々と記録達成してるってな、」

と、他人事でニヤケル朋生、朋生と恐らく数人の女子は相変わらず「僕が藤塚さんと会話しない日数」をカウントしているらしい

「人の事じろじろ観察して、全く趣味悪いなぁ、」

僕の疑惑が確信に変わる程、確実に僕は藤塚に避けられていた、僕の席が彼女のすぐ後ろである事が余計に僕を憂鬱にさせる、いっその事無視される事がそれ程不自然ではない位席が離れていた方が余程気が楽と言うものだ、何時しか僕は自分自身の為に藤塚が何故僕を避けるのかの理由を突き止めたいと考える様になっていた

「あの、藤塚さん、」

移動教室からの帰り、真意を確かめたくて僕は藤塚に声を掛けるが、……藤塚は何だか気まずそうな表情で聞こえない振りをして最近仲の良くなった東郷冴子とうごうさえこの所へと走り去ってしまう、まさか追いかける訳にもいかなくて暫し途方に暮れるが最早避けられている事は確実だった

でも、どうして?……僕に思い当たる事が有るとすれば、それはあの件しか無い

「始業式の日の響子さん抱きつき事件だろうな、」

スナック菓子を頬張りながら朋生が呟く

「あー、あれで北条クンのファンって半分位に減ったもんねぇ、」

と、最近昼休みに僕達に絡む様になった高野が回想する

「なんなの?ファンって?」

「あらぁ、気付いてなかったの? 北条クンって見た目可愛いからさ結構ファンが居たのよ、あの一件までは、」

と、朋生からスナック菓子を餌付けされながら高野が呟く

「微妙に納得いかないフレーズが混じってるけど、そうなんだ、」
「カズっちは響子さんには逆らえないからな、諦めるしか無い、」

「ところでさ、北条クンはあのお姉さんとは、その、エッチした事有るの?」

と、何だか恥ずかしそうな高野だが、
女子がエッチした事有るのとか、露骨な事聞いても良いのか?

「なんだよその意味不明な質問? 無いに決まってるじゃん!」
「キスしてる所は見た事有るな、胸触ってる所も見たかな、」

「わあああっ、だってそれは今日姉ちゃんが無理矢理するから、」

因に、女の子の裸とか彼処とかを始めて見せてくれたのも今日姉ちゃんだった

「へー、無理矢理やらせてもらってるんだぁ、」

何故だか若気ながらも目が笑ってない高野、

「そういう高野サンは、彼氏とか居るの?」
「さぁどうなんでしょうねぇ、居たら君達に混ざってエロ話してないかもねぇ、」

と、何故だか高野が頻りに朋生の顔色を伺っている?

「エロはいけませんな、真っ昼間の教室だしね、」

と、何だか地雷の雰囲気を察知する朋生

「じゃあさ、例の赤いラブレターの新情報が入ったんだけど、聞きたいかな?」



ーーー
先週末、3年の峰岸先輩の所に赤いラブレターが届いたらしい、先輩は下駄箱に入っていたその赤い封筒をクラスの男子に取ってもらい自分では手に触れなかった、そのお蔭で呼び出しに応じなくて済んだらしい、開かれた封筒の中に入っていた便箋には奇妙な読めないサインと廃墟の住所が書かれていたらしい、男子生徒達数人が面白がって探検しに行った廃墟には、以前誰かが乱暴されたらしい道具(ロープ、注射器、ゴムホース、錆びた鋏、包帯、たらい等)や簡易ベッドやそこら中にべっとりと沁み着いたキツい血と精液の匂いが残されていたが、次の日の朝迄待っても其処に誰かが現れる事はなかった、……という話だった、

「どうして男が開封すれば呪いの効力が消えるんだぁ?」
「確かに誰かの悪戯かもしれないけどね、自演乙かもしんないし、」

と相変わらず信じてない風の朋生に対して意外にも冷静な高野

「でも、誰も被害に遭わなかったんなら良かったじゃない、」

相変わらず事なかれ主義的な台詞しか思いつかない僕だが、

「要するに都市伝説って結局そう言う悪戯とか妄想が中二病的に拗れて引っ込みが付かなくなっただけって言うモンじゃないの?」

朋生はと言うと何だか挑戦的なニヤけ顔で高野の事を見る

「朋生、あなたもしかして私に喧嘩売ってるのかな?」

高野は此の学校でもっともオカルト・都市伝説を愛する女子なのだ、

「晶はもっと現実を知った方が良いぜ、なんならまた実践教育してやろうか?」

と、意味深に上から目線でニヤケル朋生に、

「ば、ばっかじゃないの? 知らない!」

と、高野は突然真っ赤になって教室の外へ飛び出して行く

「ごめんって!そんな怒んないでよ~!」

で、朋生が後を追いかける

何時の間にか僕の知らない所で二人は下の名前で呼び合う様な仲になっていたらしい、何が何処迄進展したのかは後でじっくり問い質す必要が有りそうだ

しかし本当にあの今日姉ちゃんの事件が藤塚が僕を避けている理由なのだろうか?

僕にはもう一つ心当たりが有った

6年前二人でやった京都の神社での「中二病イベント」だ、確かに完全無欠の藤塚にしてみればあの出来事は「黒歴史」と言えなくも無い、しかし小学生の頃の他愛も無い「遊び」の事を高校生になった今でも心の何処かで恥ずかしがっていたりするモノなのだろうか?「黒歴史」を知る者との接触を避けたいと思うモノなのだろうか?

どちらにしても、そんな些細な事で藤塚と友達に成れないのだとしたらそれは悲し過ぎる、何とかして誤解を解いて置きたいものだが、 



ーーー
そしてチャンスはやって来た

「それじゃ機材の片付け今日は藤塚と北条の二人で頼むわ、」

と、渋ちんが授業終わりに指示をだし、

「了解です!」

と、藤塚は和やかに笑いながら愛想良く返事をする

渋ちんは化学の実験機材を準備室から持ち出したり授業の後に片付けたりするのを出席番号順の持ち回りにしている、実はこの事を僕は前から知っていた、1年生の時からの慣例だからだ

「文華ちゃん大変だねぇ今日量多くない? 手伝ったげようか?」

と、藤塚に近づいて来る一人の女子、東郷冴子はクラスでも人気の人一倍人懐っこい女子である、見た目も結構可愛くて男子とも進んでスキンシップする方だから実は結構「隠れファン」が多い、藤塚と下の名前で呼び合う様になったのも彼女が一番最初だった

「冴ちゃんありがとう! でも平気、北条くんも居るし二人で大丈夫だから、」
「そう? 北条クン、男子なんだから文華ちゃんの分も運んであげるんですよ、」

と、何だか幼稚園の先生が小さい子に言うミタイに諭す東郷に、

「あっ、うん、」

と、思わず素直に返事してしまう僕

そして相変わらず藤塚は黙ったまま僕とは顔を合わせない様に黙々と作業を進める、今や化学実験室には藤塚と僕の二人きりだった、この貴重なチャンスに残された時間は残り3分も無い

とうとう僕は勇気を振り絞って藤塚に声をかけた

「ふ、藤塚さん、」

藤塚は僕の事に気付かなかったのか、黙々と作業を続けている

「藤塚さん、」

二度目の呼びかけで、漸く藤塚の作業の手が止まった

「あの、」
「チッ!」

僕は一瞬自分の耳を疑った、が、……確かに、藤塚は舌打ちをした? あの品行方正な藤塚文華が? そしてこれ見よがしに、……大きな溜息を吐く、

「それで、何なんですか?」

藤塚は振り返りもせずに聞こえるか聞こえないかの囁く様な声でぼそぼそと呟く、余りの期待値とのギャップに僕は一体自分が何をしようとしていたのかすっかり忘れてしまっていた

「あ、あの、僕何か悪い事、したかな、」
「別に、」

藤塚は明らかに好意の欠如した事務的な音声で最小限の単語を吐く、アカラサマに面倒臭そうに

「それなら、どうして僕にだけ、……どうして僕を、避けようとするの?」
「何なの? 悪いの? 何か問題あるんですか?」

半ば逆切れ気味に冷たい台詞がポンポン飛び出して来る、あの藤塚文華の口からだ

誰にでも等しく優しく接し誰とでも平等に明るく笑い合う、あの藤塚文華が僕にだけは毒の刺にマミレタ言葉を投げ付けて来る

とうとう僕の方が泣き顔になった、嫌われている事は決定的だった

「クラスの友達から、避けられるのは嫌だよ、」
「はあ? 馬鹿なの?死ぬの? 何時私とアンタが友達になったの?」

「アンタは友達なんかじゃないわ、」

一切僕の顔を見ないで、吐き捨てる様に藤塚はそう言い切った
その言葉には、絶対に覆る事の無い無言の圧力が込められている

「そんな、」

何だか辛かった
まるで虐められているミタイな気分だった

僕はいつの間にか、酷く、深く、後悔していた

こんな事なら話しかけなければ良かったのだ、……黙ってくれていた侭の方が、こんな彼女の一面を知らないでいた侭の方がどんなにかマシだっただろう

それでも僕にはどうしてもはっきりさせておきたい事が有った、それはもしかして今の二人の関係を改善出来る糸口に成るかも知れない、……ずっとそう考えて来た事が有った

「もしかして、小学生の時の、あの神社での出来事の所為なの?」

藤塚の肩がビクリと竦んで、

「だったら何、」

まるで恐怖を押し殺しながら必死に絞り出した様に囁く

「もしそうだとしたら、僕はあの事を何とも思ってないよ、ただの子供の遊びだし、……あの事は誰にも言わないから、」

「チッ!」

また、藤塚が俯いた侭、舌打ちする

「この際ハッキリ言っておこうと思って冴子を帰らせたのよ、……良い? 皆の前では私はアンタとは口を利かない、こんな喋り方もしないで置いてあげる、だからアンタも気安く話しかけないでよね、……理解した?」

僕はすっかり生気を失っていた、これ程迄に僕は藤塚に恨まれていたのだろうか、……これ程迄に僕は藤塚を深く傷つけてしまっていたのだろうか、……僕にはその事の方がずっと重大だった

自分が嫌われている事よりも、藤塚が歪に苦しんでいる事の方が余程辛かった

「やり直す方法は、無いのかな、」
「はあ? 有り得ない、」



藤塚は僕を置き去りにした侭、一人足早に教室を出て行った
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