年に一度の旦那様

五十嵐

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119 夫との時間

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ロイがマクレナン侯爵邸に戻る前、レイチェルはノアから時間が空いたから共に一息つこうと、日当たりの良いサロンでのお茶に誘われた。

「レイチェル、北の邸と王都では、ずいぶん空気が違うと思うが、体調はどうだろうか」

夫として妻を気遣うノアの言葉。レイチェルは微笑みながらも、心の中で『その真意は?』と問うた。
どう答えるのが正解なのだろうか。貴族である以上、常に相手が期待することを探り、最適な答えを出し続けなければならない。たとえ本心とは違っても。これが貴族であっても、本当の夫婦になれていたのならば、また違ったのだろうが。

こんな時、レイチェルが参考にできるのは、記憶の片隅にある、両親が話す数少ない姿だ。母が体調を崩し始めた頃、父は何と言っていただろうか。

昔のこと、それも数少なかったというのに、レイチェルは覚えている。父が母に、体調よりも伯爵夫人としての立場を優先しろと言っていたことを。周囲に体調を理由に迷惑をかけるなと言い、母を休ませるどころか働かせていたのだ。

レイチェルとノアの結婚は、もし結婚に種類があるのなら、両親のものに近い。次期侯爵夫人として正しく振る舞うよう、求められてここにいるのだから。父もノアも、愛情は別の者へ求めた。だとしたら、ノアの言葉の先は…。

「お気遣いありがとうございます。だいぶ王都にも慣れてきましたので、侯爵家の嫁としての務めを…」
「いや、そういう意味ではない。先日、叔母のようなこともあったのだから、無理にお茶会などはしなくていい。夫人や令嬢の中には、他人の様子を面白おかしく話すことを生きがいにしている者もいるのだから」

そんな人たちにとって、今のレイチェルは格好の餌食だろう。結婚直後に療養とはいえ夫から離れ、そしてまた愛人二人が共に暮らす邸に戻ってきたのだから。
そんな楽しい話題を提供した本人であるノアが何を言っているのかと思いながらも、レイチェルは話をそらして続けた。

「わたくしの実家のことは気になさらないでください。誰に何と言われようと心を痛めることはありません。それこそ、侯爵家の嫁として努めます」
「違うんだ、レイチェル。コリンス伯爵家のことなど関係ない。君はノア・マクレナンの妻、レイチェル・マクレナンなのだから。わたしが言いたいのは…。もう少し待ってくれ、環境は整える」

どういうことだろうかとレイチェルは思った。ノアの言う『環境』が意味することは勿論わかる。けれど、そんな申し訳なさそうな表情で言わないで欲しい。既に未来に向け動き始めたレイチェルには、今までのノアと同じでいてくれた方が心が軽く済むのだから。
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