年に一度の旦那様

五十嵐

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113 クレアの背

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カルセナがこれまで目にしてきたのは、コリンス伯爵邸に自信満々で入っていくクレアの背中だった。しかし二日前に訪れた侯爵邸を後にするクレアの背中からは、全く覇気が感じられなかった。

侯爵家の嫁になろうと、レイチェルなどたやすく丸め込み目的を果たすつもりだったのだろう。それが、よりによって仕立て屋を失うという失態を犯したからこそ背中に表れてしまったのか。しかし、そう考えるには何かが引っかかるとカルセナは思った。

危険な薬草の取り扱いを裏家業にしているアーミテージ子爵家で育ったクレアは、様々な秘密が漏れないよう用心深く育てられ、そう育ったはず。だがそのクレアが、アーミテージ子爵家があまり表に出したくない仕立て屋を連れ出した。それはつまり、クレアよりも用心深いであろうアーミテージ子爵が許可したということでもある。たとえ仕立て屋がレイチェルに特別な力を感じたとしても、その場ではどうすることもできなかったはずなのに。

クレアがレイチェルに会いに来たのは、それ相応の理由があってのことだろう。
アーミテージ子爵家にいる加法の力を持つ男。カルセナは、アーミテージ子爵が減法の力も手に入れたいがために動いたのかと思ったが、話はそんな単純なことではないようだ。アーミテージ子爵は血統を確認したかったのかもしれない。コリンス伯爵の娘であるレイチェルに減法の力があれば、高確率でアリッサが産んだ二人の子供も同じ力を持つと。しかもその二人の子供は、アリッサをうまく唆せば手に入れることができるのだから。
まあ、結果はレイチェルには力がないという最悪なものだったのだろうが。

そして今日のクレアの背中からも引き続き覇気は感じられない。だが賑わうカフェで、その背中に背を向けるのはカルセナが知る人物だった。

そういうことか。二人は共通の目的を持っている。理由は違ったとしても。クレアは力が欲しいがため。そしてアナベルは、ノアの周囲から邪魔でしょうがない『妻』という立場のレイチェルを排除するため。どこでどう繋がったのかは分からないが、同じ目的、しかも人に知られたくないことである場合、引き寄せ合うものだ。

ただティーカップを口に運ぶだけのクレア。ということは、背中越しに座ったアナベルが何かの報告をしているのだろう。
カルセナは、少しでもアナベルの口の動きを見ることができないかと、周囲を見渡したのだった。
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