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まず、カレンの立ち位置。
コネ入社の夏菜子としては、会社の中で生き抜く上で必ずその人物の立ち位置を確認していた。コネ入社に寛容か否かを。特に許せないと思っている人間が近づいて来る時ほど危険だったので注意をしていた。

では、カレンはというと、まず今は平民の娘。今は、が重要。
何故って、結婚前に子爵家の養女になるからだ。その為、ルイスの生家であるルウェリン伯爵家へ行儀見習いに来ている。

どうしてそうする必要があるのか。結婚相手が男爵家の長男だからだ。何でも亡くなってしまったカレンの父がその男爵家の当主を助けたそうで、それも命を懸けて。それに報いる為に男爵は長男と年の頃が丁度いいカレンを嫁として迎えることにした。
父親ならば娘の将来を心配していただろうと。

話はとんとん拍子に進む。
貴族家へ嫁に行くのならばと、カレンの父の友人だった子爵が養女の話を。全ての騎士の上司であるルイスの父が教育を買ってでた。何というか、皆男気溢れる胸熱な人たち揃いだ。

それにカレンが熱意で応えた、ならば話は『はいそうですか』で終わることが出来ただろうに。
平民のカレンから伯爵家で行儀見習いをするカレンになったことで、狂いが生じたのだ。
美しいルイスにちょっかいを出すという。

ここからは夏菜子の女としての勘がかなり混ざっているが、これだけは確実に言える。ルイスにちょっかいを出したということは、カレンは上昇志向が強い。もしくは平民からスタートして、伯爵家で見習いとして過ごすうちに欲が出た、ということだ。
ジュリアンと比較するからルイスは普通に美形なだけで、単体でいたら周囲の女性はきっと目がハートマークになる。カレンもそうだろう。男爵の長男の顔は分からないが、ルイスの方が美形なはず。

カレンがどのタイミングでルイスに手を付けたのかは分からない。あ、本当の意味での手。でも、どこかのタイミングでお世話係の話を聞いたからルイスにお願いしたのだろう、お世話係になりたいと。

騎士道精神の中で育ったルイスのことだ、カレンに望まない結婚をしない為にはとか何だとか唆された可能性が高い。『助けて』の一言で騎士としての心が動き。

事実、話を聞いているとそれが手に取るように分かる。
ただ分からないのがカレンの貞操観念。貴族に嫁ぐには純潔でなければいけない、だからルイスとも男爵家の長男とも関係は持っていなかったそうだ。ん?それって…。まあ、今更このことを追求しても仕方がない。

そして、ルイスを闇に堕とした妊娠発言。ぬけぬけとルイスの子にして欲しいと頼んだそうだ。もし、同席していたならば『どうして?』と真顔で聞いたことだろう。王女の顔圧を用いて。

それはルイスも同じ。
ブラッドリーと一緒にいるからルイスは幼く思えるだけ。これまた単体で居れば、厳しい王配レースを生家が脳筋なのに勝ち抜いたルイスなのだから普通に優秀。勿論、カレンにどうしてそう望むのか心理的テクニックを駆使し全てを白状させたそうだ。
ルイスにそんなことが出来るなんてと夏菜子が驚いたのは秘密にしなくては。

「ここでお世話係になれば、何もしないで最高の場所で暮らせると思ったそうだ。伯爵家より旨いものを食って、美しいものに囲まれて」
「何もしないでねぇ。王女のローザだって昼の大変な仕事の後に夜もこんなに色々しているのにな」

ブラッドリーの言葉は聞き流して、夏菜子は約束通りルイスを抱き締めた。そして思う。カレンの為に努力し続けたルイスの悲しみや憤慨はいかばかりかと。

いや待てよ、それが縛るに繋がった?はて、それはどういうことだろうかと再び夏菜子は悩んだのだった。
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