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因果応報

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夏菜子は閃いた。腰痛緩和ストレッチを広めたいと。
理由は簡単、とても元気な夫達のせいだ。最初は一人で行おうと思ったが、立場が故に一人で堂々とそんなことを出来るはずもなく…。
だったら御大層な理由を付けて広めれば、その発起人としてどうすればいいのか説明ついでに行えるのではないかと考えたのだ。

しかし王女が行うとなると、それ相当のものにしなければならない。
そこで、女性雑誌で見たあの特集の写真を頭に浮かべたのだ。海岸近くや、山岳地域の超高級ホテルでヨガやアーユルヴェーダを受けるリラックス特集の写真を。
外国へ行くのに観光もせずのんびり過ごすとは何て贅沢、とついつい見入ってしまった雑誌の特集だった。勿論、超高級だけあって値段も一泊あたりとんでもなく高かったが。

お金が貯まるのが先か、英語が多少耳に入ってくるようになるのが先か、当時はそんなことを考えていたが、今の夏菜子には権力がある。
作ってしまえばいいのだ。けれど、権力に物を言わす暴君になるのは避けなくては。だから、みんなの為にという体で進めることにしたのだった。

神秘的なのは朝靄の中。だったら少し標高の高いところがいいが、候補地になりそうなところがない。ここはやっぱり海岸沿いで作るほうがいいだろう。温泉が出ないという理由で保養施設が作られなかったところにも何かしないと、後々問題になりそうだし。

そんなことを考えている時だった、夏菜子はそういえば会社の先輩で腰痛アピールをする人がいたなぁと思い出した。
理由は聞いてもいないのに『ヤリ過ぎ』アピールをする人だった。当時、とても良い整体があると伝えたら『時間に余裕があっていいわね。強いコネで入社すると割り当てられる仕事も優遇されるのね』と何故か嫌味で返されたが。何故親切に対する返しが、嫌味だったのだろう。
実は恋人なんていなくて生理痛が酷いだけだったのかもしれない。それでつい当たられてしまった可能性があったのでは?と今更ながらに分析してもしょうがないのだが。

夏菜子は知らない。この先輩こそ陽太の元カノだと。というより、結婚後も続いていた浮気相手だと。
だから夏菜子に腰痛アピールをしていたのだ。にこやかに整体を紹介されてどれだけカチンときたことか。そもそも陽太にはどうしても断れない上司からの見合いで、そこで夏菜子に気に入られ結婚せざるを得なくなってしまったと説明されていたのだ。

夏菜子がこの世を去り、周囲が愛妻を亡くし落ち込む夫という目で陽太を見ることにどれだけ腹が立ったか。何故ならここ数年陽太はよく言っていた、『夏菜子とは義務でしかしていなかった。それにもうその義務すら果たしていない』と。

ところが、目障りな夏菜子がいなくなり半年過ぎた頃、陽太に言われたのだ。
夏菜子を失ったショックで勃たなくなったと。それってどういうこと、今までの話と食い違いがあり過ぎると思ったものの、プライドの高い彼女はその場では涼しい顔をした。
しかし男にとっては死活問題であるインポを陽太が口にしたのは、これを機に彼女との関係を清算したかったからだった。
陽太としても愛妻を失ったそばから、他の女性と会っているのを見られるのはよろしくない。
そんな気持ちが働いたのだった。
上手くフェードアウトしたと思っていた陽太。しかし、事はそんなに簡単ではなかった。

彼女は陽太の様々な言葉に疑いを持ち始めた。腰痛アピールをした時のあの夏菜子の様子。当たり前のように整体へ行っていると言ったのは、夏菜子こそ陽太とのセックスで腰痛に悩んでいたのではないかと思えてくる。実はしっかりやることはやっていたのではないか、しかも義務ではなく激しく、そんなことまで疑わしい。
因果応報、彼女は自分が仕掛けた腰が痛くてアピールに反対に悩むことになったのだ。

そんなある日、身なりの良い男性に声を掛けられた。陽太と会っていた時の写真を見せられ、関係を聞かれたのだ。同期、社内活動が同じ、適当な理由ならいくらでもあっただろうに、彼女は自分の立場を主張した。夏菜子に陽太を取られる前の彼女だったと、結婚してからも関係は続いていたと。雑誌の記者ならざまあみろ、と思い話したのだ。
実際には保険調査員だったのだが。

世の中発してしまった言葉の綻びはどこにでもある。

そして、ここにも。

「その動きが腰痛にいいの?」
「ええ、そうよ」
夏菜子は前世たまに受けたヨガレッスンで教えてもらったポーズをいくつか披露しながら、夫達へ説明した。

「どの本か忘れたけれど、こう書いてあったわ」
「どう思う、ルイス?ここは体を良く動かしていたルイスから意見を貰いたいな」
「そうだな、初めて見る動きだから…」
共に暮らしていると夫達も似るのだろうか、ルイスの瞳がジュリアンの様に輝いたように夏菜子には見えた。

「ねえ、ローザ。筋肉の動きを見ながら確認したいから、その動きを何も纏わないでやってみて」
「えっ?」
「裸でやってみて」
ルイスの要求は裸ヨガということだ。
雑誌に載っていたような施設が欲しいと思ったのがいけなかったのか、こんな要求をされるとは。

「ああ、そうだね、国の予算をあてて作る施設で行うことだ。事前に効果があるか確認しないと」
ブラッドリーのとどめの一言。そう、予算を使うには理由や効果等を記載した計画案を作らなくては。しょぼい内容では、計画自体が却下されてしまう、いくら王女が立案しようと。

夏菜子が目尻に涙を貯めながら、素っ裸で行うヨガにストレッチ。開脚前屈は恥ずかしいなんてものではなかった。しかも、夫達は筋肉がどうとかと言いながら、素肌を触れる。時には筋肉ではない脂肪の塊乳房まで。

その甲斐あってか、将又裸ヨガの様子があまりにも素晴らしく夫達の目に映ったのか、しばらくしてから夏菜子の描いた施設が作られることとなったのだった。
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