クリスの物語

daichoro

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第四章 パラレルワールド

第22話 スリ集団

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 10分ほど走ったところで、一行は車を降りた。そこは道幅の広いバス通りだった。

 通りの両側には店が並んでいる。しかし、どの店もすでにほとんど閉まっていた。

 とはいえ、先ほど本拠地だと言われていた建物付近に比べれば道は明るく人通りも多い。



 一行が降り立った正面には、屋根の天辺に十字架のついた白い石造りの建物が建っていた。

『少しここでお待ちください』と言って、マーティスはひとり裏通りの方へと歩いていった。



 正面の教会のような建物を見上げ、それにしてもとクリスは思った。

 先ほどの建物といいこの教会といい、闇の勢力は宗教と何か関係があるのだろうか?

 すると、ハーディが隣にやって来て『大いに関係ありだよ』と言った。



『今の宗教は、どれも闇の勢力によってコントロールされているんだ。元々はそんなことなかったんだけどね。純粋にすべてはひとつであるという教えを説いていたものが、闇の勢力によって歪められてしまったのさ。

 さっき部屋で少年が読んでいた聖書などの聖典は、どれも都合のいいように書き換えられてね。恐怖を植え付けて、救いがほしければこの教えやルールに従えなんていうのはマインドコントロールのABCだけど、でもやっぱり手段としては最も有効だよ』



 ハーディがそんな話をしている最中、通りの反対側から4人の少年グループがやって来た。

 少年グループはひとりぼーっと通りを眺める紗奈に背後から近づくと、周りを取り囲んだ。



「きゃっ」



 紗奈の叫び声に、クリスとハーディが振り返った。

 すると紗奈の元からダッシュで走り去っていく4人の少年の姿があった。



「どうしたの?大丈夫?」

 へたり込んだ紗奈のそばへ、クリスとハーディが駆け寄った。



「うん、あの人たちに囲まれて突然突き飛ばされて・・・」

 クリスの手を借りて立ち上がりながら、紗奈は走って建物の角を曲がっていく少年たちの方へ視線を向けた。



『何も盗られてないかい?』と、険しい表情でハーディが尋ねた。

 ズボンのポケットをまさぐって、紗奈は「あっ」と言った。



「スマホがない」

「本当?」とクリスは聞き返し、少年グループが逃げ去った方を振り返った。しかし、彼らの姿はもう見えなくなっていた。

 人通りもあるし、飛んで追いかけるわけにもいかない。



「紗奈、ホロロムルスは?」

 リードを引いてベベを散歩させていた優里が、戻って来て紗奈の腕を指差した。



「え?うそ?ホロロムルスも、それにマージアルスもない・・・」

 指輪をつけていた指を撫でながら、紗奈は慌てた様子で地面を見回した。



「どうしよう・・・」と、紗奈は泣き出しそうな表情をした。

『スリ集団だ』

 ハーディはため息をつくと『気づいてあげられなくてごめんよ』と、謝った。



 警察に届け出ようと優里が提案した。しかし、届け出たところでまず戻ってくることはないとハーディが言った。

 スマホもSIMカードをすぐ抜かれてしまうし、そうすれば本人の物だと特定することもできない。

 そんな話をしている内に、マーティスが戻ってきた。



『やはりここも違うようです』

 首を振って、マーティスが言った。



『どうかしましたか?』

 異変に気付き、怪訝そうな顔でマーティスが聞いた。



『実はスリにあって、サナのホロロムルスとマージアルス、それに携帯電話が盗られてしまったんだ』

 ハーディが残念そうに報告した。



 その報告を聞くなり、マーティスはすぐさまホロロムルスを操作した。

 それから再び、全員の視点をマーティスの視点に切り替えた。



 ホロロムルスには立体的な街の地図が表示され、そこに全員のホロロムルスの位置が表示された。

 当然、紗奈のホロロムルスの位置も表示されている。紗奈のホロロムルスは、街中をどんどん北上していた。



『追いかけましょうか』

 そう言うなり、マーティスが走り出した。全員、後に続いた。



 細い路地を抜けた先の大通りは、人通りも多かった。 

 全身黒のつなぎを着て走る一行に、道行く人が好奇の眼差しを向けた。



 ピューネスを着込んでいるためかなりのスピードを出すことができる。しかし、なるべく目立たないようマーティスはできる限りスピードを抑えて先導した。



 それから5分ほど走ったところで、紗奈のホロロムルスの信号が突然途絶えてしまった。

 マーティスが立ち止まった。



「どうしたの?」と、紗奈が尋ねた。

「なんか突然、紗奈ちゃんのホロロムルスの信号が消えちゃったんだ」と、クリスが答えた。

「なんで?」と聞く紗奈に「さあ?」と、クリスは首を傾げた。



『電源が切られたんですかね?』と聞いた優里を一瞥すると、マーティスは首を振った。

『ホロロムルスに電源などありません。大気中のフリーエネルギーで稼働していますから、破壊しない限り永久的に作動し続けます』



『それじゃあ、破壊されたっていうことですか?』と今度は紗奈が質問すると、マーティスは首をひねった。

『いえ、そんなことはないと思いますが。もしかしたら発信がブロックされるようなエリアがあって、そこへ入ってしまったのかもしれません。

 ホロロムルスの発する電磁波はオーラムルスの10倍以上高い振動ですから、それをブロックするとなるとよほどの技術が必要となりますが』



『とにかく、そこまで行ってみよう』

 考え込むマーティスに、ハーディが声をかけた。



 信号が途絶えたあたりは、昼間ショッピングをした通りから少し入り込んだ細い路地だった。

 古びたアパートが建ち並ぶその路地には、ごみが散乱していた。



『この辺りだったと思いますが』

 そう言って、マーティスはホロロムルスの動作を確認した。しかし、一同が身につけるホロロムルスは問題なく機能していた。

 その後周辺を歩き回って動作を確認したが、ホロロムルスが機能しなくなるようなエリアは特になかった。



『壊されちゃったんですかね?』

 優里の言葉に、マーティスはうつむき黙り込んだ。



『まあ、仕方ないですね。今日はもうホテルに戻って明日また出直しましょうか』

 少しの沈黙の後、顔を上げてマーティスは言った。



 時刻は間もなく夜11時になろうとしていた。

 路地には強面の男たちがうろつき、街に少し物騒な雰囲気が出てきた。



『ホロロムルスもマージアルスも予備がありますから、サナさんにはそちらをお渡しします』

 マーティスがそう言うと、紗奈が『すみません』と頭を下げた。



『いえ、何も謝ることではありません』

 そう言ってから、マーティスは迎えの車を呼ぶようハーディにお願いした。



『でも、ホロロムルスとマージアルスが人の手に渡ったら、危険なんじゃないですか?』

 帰りの車の中で、優里が聞いた。



『いえ。恐らく普通の人間であれば、それらを手にしたところでどちらも起動できないはずです。ただの腕時計と、ただの指輪だとしか思わないでしょう』

 マーティスがそう答えると、助手席に座るハーディが振り返った。



『覚醒した人間の手に渡らないことを祈るまでだね』

 紗奈が神妙な面持ちでうなずき返した。





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