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第四章 パラレルワールド
第23話 ノルマ
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「盗品はこれだけ?」
椅子に深く腰掛けた色白の青年が、さらりと垂らした前髪越しに鋭い視線を向けた。
青年の視線の先には、4人の少年が立っていた。どの少年も年齢は15,6といったところだ。
机の上に置かれた財布や携帯電話、指輪や貴金属を前に、少年たちは黙ってうつむいていた。
「財布に入っていた金は全部でたったの300ユーロ、それに何このおもちゃ。こんなのいくらにもならないでしょ」
カレッジリングのような銀の指輪を手に取って、青年は鼻で笑った。
「ルカたちは今日2人だけで1500いったっていうのにね」
青年は皮肉たっぷりに言って、4人を眺め回した。4人は相変わらずうつむいたままだった。
ふっと笑うと青年は言った。
「しょうがない。そうしたら君らは明日休みなしね。土曜日だし、朝から働いてもらおうか。レオナルドとアントニオはトラフィコね。それでマルコとダニエーレはピアッツァで仕事してよ」
青年が言うトラフィコとは地下鉄やバスのことを指し、ピアッツァとはスペイン広場界隈のことを指した。
少しの間があってから、4人はうなずいた。
「そうしたら、もう帰っていいよ。明日は頑張ってね。4人で1000行ったらその後休んでいいからさ。でも、もし明日1000も行かなかったら覚悟しなよ」
4人は頭を下げ、その場から退いた。
4人が去ったあと、青年は銀の指輪をおもむろに見つめた。それからそれを右手の人差し指にはめた。
すると、指輪は青年の指にフィットするように自動でサイズを変えた。怪訝な顔をした青年は、その後もう一度指輪をじっくりと見つめてニヤリと笑った。
「明日は朝からピアッツァかよ」と、自転車を漕ぎながらマルコがぼやいた。
「トラフィコの方が絶対いいよな」
そう言うマルコに、ダニエーレは「うん、そうだね」と返事をした。
しかし、実のところダニエーレは安心していた。
以前、地下鉄で仕事(スリ)をした時に、ばれて乗客に袋叩きにされそうになったことがあった。そのため、トラフィコには苦手意識を抱いていた。
「それにしても、ルカとファビオはすげーな。今日だけで2人で1500かよ。この調子だとあいつらすぐにでも幹部になっちまいそうだな。俺らも負けてらんねーな」
前を走りながらマルコは言った。
「まぁ、とりあえず明日はなんとか1000稼いでさっさと遊び行こうぜ。じゃあまた明日な」
そう言って手を上げると、マルコはミリツィエ通りへと入っていった。
ダニエーレはそのまま川沿いを北上した。
アパートに着いたダニエーレは、そっと玄関のドアを開けた。
テレビはついたまま、妹のソフィアがソファに寝ていた。すでに時刻は夜12時を回っていた。
テーブルには「ダニエーレへ」とメモ書きがあり、皿に乗ったラザニアが置かれていた。
母親の得意料理だった。仕事を掛け持ちする母親は夜も飲食店で働き、帰ってくるのは深夜2時過ぎだ。
ダニエーレはテレビを消し、ソフィアを抱え上げた。そして寝室の二段ベッドの下段に寝かせた。
それからテーブルについて、冷えたままのラザニアを口に運んだ。母親の作るラザニアは、冷めたままでもおいしかった。
ひとり静かに食事しながら、この生活がいつまで続くんだろうかとダニエーレはため息をついた。
このままいけば父親の二の舞になることは、目に見えている。しかし、今の状況から抜け出すこともできなければ、それ以外に選択肢もなかった。
ダニエーレは食事を終えると食器を片付け、「かあさん、ラザニアありがとう」とメモを残した。
それから二段ベッドの上段に上がって横になった。
椅子に深く腰掛けた色白の青年が、さらりと垂らした前髪越しに鋭い視線を向けた。
青年の視線の先には、4人の少年が立っていた。どの少年も年齢は15,6といったところだ。
机の上に置かれた財布や携帯電話、指輪や貴金属を前に、少年たちは黙ってうつむいていた。
「財布に入っていた金は全部でたったの300ユーロ、それに何このおもちゃ。こんなのいくらにもならないでしょ」
カレッジリングのような銀の指輪を手に取って、青年は鼻で笑った。
「ルカたちは今日2人だけで1500いったっていうのにね」
青年は皮肉たっぷりに言って、4人を眺め回した。4人は相変わらずうつむいたままだった。
ふっと笑うと青年は言った。
「しょうがない。そうしたら君らは明日休みなしね。土曜日だし、朝から働いてもらおうか。レオナルドとアントニオはトラフィコね。それでマルコとダニエーレはピアッツァで仕事してよ」
青年が言うトラフィコとは地下鉄やバスのことを指し、ピアッツァとはスペイン広場界隈のことを指した。
少しの間があってから、4人はうなずいた。
「そうしたら、もう帰っていいよ。明日は頑張ってね。4人で1000行ったらその後休んでいいからさ。でも、もし明日1000も行かなかったら覚悟しなよ」
4人は頭を下げ、その場から退いた。
4人が去ったあと、青年は銀の指輪をおもむろに見つめた。それからそれを右手の人差し指にはめた。
すると、指輪は青年の指にフィットするように自動でサイズを変えた。怪訝な顔をした青年は、その後もう一度指輪をじっくりと見つめてニヤリと笑った。
「明日は朝からピアッツァかよ」と、自転車を漕ぎながらマルコがぼやいた。
「トラフィコの方が絶対いいよな」
そう言うマルコに、ダニエーレは「うん、そうだね」と返事をした。
しかし、実のところダニエーレは安心していた。
以前、地下鉄で仕事(スリ)をした時に、ばれて乗客に袋叩きにされそうになったことがあった。そのため、トラフィコには苦手意識を抱いていた。
「それにしても、ルカとファビオはすげーな。今日だけで2人で1500かよ。この調子だとあいつらすぐにでも幹部になっちまいそうだな。俺らも負けてらんねーな」
前を走りながらマルコは言った。
「まぁ、とりあえず明日はなんとか1000稼いでさっさと遊び行こうぜ。じゃあまた明日な」
そう言って手を上げると、マルコはミリツィエ通りへと入っていった。
ダニエーレはそのまま川沿いを北上した。
アパートに着いたダニエーレは、そっと玄関のドアを開けた。
テレビはついたまま、妹のソフィアがソファに寝ていた。すでに時刻は夜12時を回っていた。
テーブルには「ダニエーレへ」とメモ書きがあり、皿に乗ったラザニアが置かれていた。
母親の得意料理だった。仕事を掛け持ちする母親は夜も飲食店で働き、帰ってくるのは深夜2時過ぎだ。
ダニエーレはテレビを消し、ソフィアを抱え上げた。そして寝室の二段ベッドの下段に寝かせた。
それからテーブルについて、冷えたままのラザニアを口に運んだ。母親の作るラザニアは、冷めたままでもおいしかった。
ひとり静かに食事しながら、この生活がいつまで続くんだろうかとダニエーレはため息をついた。
このままいけば父親の二の舞になることは、目に見えている。しかし、今の状況から抜け出すこともできなければ、それ以外に選択肢もなかった。
ダニエーレは食事を終えると食器を片付け、「かあさん、ラザニアありがとう」とメモを残した。
それから二段ベッドの上段に上がって横になった。
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