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五章 修羅の道を往く者
第8話 天上の乱
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桃弥と彗の頭上で、空が裂けたかのように真っ二つに割れた。
その奥には、宇宙とも混沌ともいえるような景色が広がっていた。
思わず二人は、その場から距離を取る。ともに脚力強化持ちであるため、一瞬で元の場所から数十メートル離れる。
一度距離を取って改めて見上げると、狭間の全貌が目に映る。
裂け目自体はそれほど大きくなく、ざっと10m程度。だが、その奥からにじみ出る異質のオーラは桃弥でも寒気を感じるほどだった。
『ん? なぜまだ人間がいる。雑種共は何をしている』
『まあ、所詮は雑種ってことでしょ? 期待するだけ無駄さ』
狭間の奥から現れた二人の生物がそんなことを宣う。
姿は人と何も変わらない。ただ、服装は現代人のそれではない。どちらかといえば古代インドやギリシャのような神々しさを纏った服飾。
金の髪に金の瞳。翼もなく宙に浮かぶその姿はまるでおとぎ話に出てくる神の使いのよう。
一人は背後に輪光を纏い、手に槍が握られている。対するもう一人は、奇妙な形の棒を握りしめていた。
「なんだあれ……」
「どうする桃弥さん? 逃げる? あたしと桃弥さんなら何とか撒けると思うけど」
「いや、少し距離を取って様子を見よう。あの二人だけなら大した脅威じゃないが、奥に何が控えてるか」
桃弥そういって様子を伺っていたが、どうやら二人の会話は聞かれたようで、槍を持った一人が不快そうに眉をひそめる。
『下賤な人間風情がでかい口を叩くな。消え失せよ』
次の瞬間、彗の目の前に槍が現れる。
(はやっ! やばーー)
だがーー
キン!
「随分と上から目線じゃねぇか。誰に物言ってんの?」
『ッチ、少しはやるようだな、人間』
神速の突きでも、桃弥の目には止まって見えるほどだった。であれば止められない道理はない。
『だが次はない。盛羅!』
『はいはーい』
槍を持った男が盛羅と呼んだ男が奇妙な棒を掲げると、金色をした半透明の球体が現れ桃弥を閉じ込める。
「なんだこれ?」
『貴様が知る必要はない。死ね人間』
その宣言と共に、槍を持った男の背後の輪光が回転を始め、一層眩い光を放ち始める。
刹那、先ほどとは比べ物にならないほどの鋭い突きが大気を切り裂く。
結界のようなものに閉じ込められ、機動力を殺された桃弥に逃げる術はない。
神速の一撃をもろに受けてしまう。
カキン!
しかしーー
ーー小燕流・水仙
『なんだと!?』
「まあ、確かに速いが。それだけだな」
小燕流唯一にして最強の防御技ーー水仙。すべてを受け流す水のような技であり、軽く槍の穂先を弾いただけで簡単に軌道を逸らすことができた。
大技を放った直後で硬直している男を桃弥が見逃すはずもなく、すかさず両足の腱を切り裂く。
『っく!』
「しばらくそこでおねんねしてろ」
男の右手を切り落とし、片方の刀で左手を地面に縫い付ける。
「さて、あと一人か」
『な、なにこいつ!? 本当人間?』
「失礼な野郎だな。純度百パーの人間様だっつーの」
『く、くそ!!』
得体の知れない桃弥に、盛羅は逃げの一手を選択。狭間に逃げ込めば桃弥は負ってこれない。そう思ったのだろう。
しかし、その飛行速度で桃弥から逃げられるはずもない。
「おいおい薄情な奴だな。お仲間は置いてくのか?」
『ちょ、速すぎ!? って、えええ!? なんで? どうして、韋駄天様がーー』
ーー小燕流・劈楼
刀は一つしかないが、盛羅を叩き落とすには十分だった。
『うわ、ちょ!?』
咄嗟に防御の結界を張ったおかげで何とか劈楼の直撃は防げたが、地面に直撃。その衝撃で結界は割れる。
『待って、あいつヤバすぎーー』
どうやって逃げようかと考える盛羅。しかし、その着地点には彗が槍を持って構えていた。
一閃。
『っぐ』
彗お得意の一突きで盛羅の腹を切り裂き、両断する。
「あ、ごめん桃弥さん、倒しちゃった」
あっちの男を生かしたところを見ると、桃弥はこの二人から情報を引き出そうとしていることがわかる。
故に、彗は盛羅を殺してしまったことを謝罪する。
「いや、別に構わない。そのためにこっちを生かしたんだからな」
盛羅が倒れた場所へ向かう桃弥。そこには先ほどの奇妙な棒と、赤色の色珠が落ちていた。
(色珠を落とすってことは、こいつらも化け物とは同類ってことか。となればーー)
「さて、話を聞かせてもらうぞ」
『っく』
足の腱は切り裂かれ、右腕を失い、左腕は地面に縫い付けられた槍使いの男は先ほどの威勢が完全に失われた。
『語ることは何もない。殺せ』
「あっそ。まあ、あんたらの正体は大体察しはつくけどーー」
ーー天人
『っ!?』
「ここに来て六道勢ぞろいってわけか」
天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道。仏教における六道である。
既に他の六道の生物と戦ってきた桃弥にはわかる。この男は天道から来たのだと。
「天上のお偉い方下界になんのようだ?」
『…………』
槍使いの男は桃弥を睨みつけ、何か言いたげに視線を泳がせる。
「あぁ? 言いたいことがあるなら言ってみろよ。ほれ、下賤な人間にここまでされたんだ。鳴き声の一つでもあげてみろよ。類人猿でももう少しプライドはあるぞ?」
『き、貴様!! 人間風情が図に乗るなあ!』
「その人間風情にボロ雑巾にされたのはどこのどいつだ、あぁ?」
『おのれ! 言わせておけば……韋駄天様の威を借りているだけの小物が!! その力さえなければ、我らが人間に敗れるはずがないのだ!』
先ほどの盛羅も言っていた『韋駄天様』。それは、桃弥が脚力強化と体力強化をカンストさせたときに入手した能力名だ。
(さっきの奴もそうだが、ピンポイントで俺の能力を見破ってやがる。ただ神の名を模しただけの能力だと思ったが、そんなシンプルなもんでもなかったか)
ペラペラを勢いよく喋り出す槍使いの男を見下ろしながら、桃弥は考察を深める。
『ーーだがもう終わりだ!! あの方はじきに降臨される!! この世の覇者となられるのだ!』
「あの方?」
『っは、無知蒙昧な人間め。あの方すら知らぬとは!! あの方こそが我らが王にふさわしきお方、六界の覇者となられるーー』
ドクン。
「「『!?』」」
槍使いの男の言葉を遮るように、彼の心臓が大きく鼓動をはじめる。
『がっは……も、申し訳ございません。ど、どうか、お、お許しをーー』
そして次の瞬間、槍使いの男の男の心臓を血の刃が貫いたのだった。
あまりに呆気ない最後と事態の急変に、桃弥たちは戸惑いを隠せずにいた。
「……どうなってんだ、一体」
「普通に考えたら……口封じ、とか? ほら、漫画とかアニメでよくあるあれ」
「……まあ、いい。敵の正体が分かっただけでも良しとするか」
地に転がる2つの赤い色珠を拾い上げ、残りの戦利品を確認する。
変な形状の棒が一つ。金色に輝く輪光と槍が一つずつ。
「うーん、どうすんだこれ」
桃弥の小燕陰光や緋鵆のような特殊能力が備わった武器なのは間違いないだろう。
桃弥たちでさえ雷牙を含めて3つしか入手できていない。つまり、それだけ貴重なものといえる。
しばしの思考の結果、桃弥は結論を出す。
「槍とこの輪っかは彗が貰ってくれ」
「え、いいの?」
「あぁ、代わりにこの変な棒は俺が貰っていいか?」
「え、あ、うん、だって桃弥さんが倒したんだし……でも本当にいいの? 多分これ、すっごい貴重なものだよ」
「彗だって一人倒してるだろ。それに、俺たちは槍を使わないし、持ってても腐るだけだ。彗なら有効活用してくれるだろ?」
「で、でもでも、あたしほとんどなんもしてないよ! 本当にいいの!?」
徐々に彗の言葉に熱がこもっていく。口ではこう言っているが、本心では欲しかったのだろう。
現代で槍づくりの職人なんてそうそう見つかるものじゃない。今までも急ごしらえの自作槍でしのいできたわけだし。
それでも槍を武器にしたのは、ひとえに戦闘スタイルとの相性故だった。
だからこそ、彗の槍に対する思いは人一倍強いのだ。
「もちろんだ。むしろ貰ってくれない方が困る」
「そ、そう。じゃ、じゃあ、ありがたく。いつか必ずお返しするから」
「気にするな。友達に貸し借りはなしって言ったのは彗だろ? だから貰っておけ。」
「っ!! こ、これはそういうんじゃなくて、友達同士のこうなんていうか、えーと……とにかくお返しはするの!」
お返しは絶対すると強く言い切る彗。そんな彗を見て桃弥は苦笑いを浮かべ、「友達って難しいな」と呟く。
分配も済んだため、二人はそれぞれの戦利品を手にする。
おずおずと槍に手を伸ばし、握りしめる彗。すると輪光も回転し、光を増していく。
「うわぁ」
光が増すと共輪光は宙を舞い、彗の周りをぐるぐると飛び回る。やがて光は収束し、輪光は彗の背後に落ち着く。
「すっご!! なにこれどうなってるの?」
どう動き回っても必ず背後に浮き続ける輪光に彗は興味津々だった。
飛んだり跳ねたり、走り回ったりと子供のようにはしゃぐ彗を、桃弥はただ眺めていた。
こんな世界とは似つかわしくない光景だが、なぜか心が和むのだ。
しかしいつまでもそうしているわけにもいかず、桃弥は彗に声をかける。
「そろそろ帰るぞ彗」
「え、もう?」
「あぁ、期せずして赤い色珠が2つも転がり込んできたからな。司への借りはこれで返せるだろ」
桃弥の発言に、目に見えてしょんぼりする彗。しかし、わがままを言わず桃弥に従う。
「そ、そういえば桃弥さん。その棒は何に使うの? 桃弥さんのスタイルとは合わない気がするけど」
「あぁ、これはなーー」
その奥には、宇宙とも混沌ともいえるような景色が広がっていた。
思わず二人は、その場から距離を取る。ともに脚力強化持ちであるため、一瞬で元の場所から数十メートル離れる。
一度距離を取って改めて見上げると、狭間の全貌が目に映る。
裂け目自体はそれほど大きくなく、ざっと10m程度。だが、その奥からにじみ出る異質のオーラは桃弥でも寒気を感じるほどだった。
『ん? なぜまだ人間がいる。雑種共は何をしている』
『まあ、所詮は雑種ってことでしょ? 期待するだけ無駄さ』
狭間の奥から現れた二人の生物がそんなことを宣う。
姿は人と何も変わらない。ただ、服装は現代人のそれではない。どちらかといえば古代インドやギリシャのような神々しさを纏った服飾。
金の髪に金の瞳。翼もなく宙に浮かぶその姿はまるでおとぎ話に出てくる神の使いのよう。
一人は背後に輪光を纏い、手に槍が握られている。対するもう一人は、奇妙な形の棒を握りしめていた。
「なんだあれ……」
「どうする桃弥さん? 逃げる? あたしと桃弥さんなら何とか撒けると思うけど」
「いや、少し距離を取って様子を見よう。あの二人だけなら大した脅威じゃないが、奥に何が控えてるか」
桃弥そういって様子を伺っていたが、どうやら二人の会話は聞かれたようで、槍を持った一人が不快そうに眉をひそめる。
『下賤な人間風情がでかい口を叩くな。消え失せよ』
次の瞬間、彗の目の前に槍が現れる。
(はやっ! やばーー)
だがーー
キン!
「随分と上から目線じゃねぇか。誰に物言ってんの?」
『ッチ、少しはやるようだな、人間』
神速の突きでも、桃弥の目には止まって見えるほどだった。であれば止められない道理はない。
『だが次はない。盛羅!』
『はいはーい』
槍を持った男が盛羅と呼んだ男が奇妙な棒を掲げると、金色をした半透明の球体が現れ桃弥を閉じ込める。
「なんだこれ?」
『貴様が知る必要はない。死ね人間』
その宣言と共に、槍を持った男の背後の輪光が回転を始め、一層眩い光を放ち始める。
刹那、先ほどとは比べ物にならないほどの鋭い突きが大気を切り裂く。
結界のようなものに閉じ込められ、機動力を殺された桃弥に逃げる術はない。
神速の一撃をもろに受けてしまう。
カキン!
しかしーー
ーー小燕流・水仙
『なんだと!?』
「まあ、確かに速いが。それだけだな」
小燕流唯一にして最強の防御技ーー水仙。すべてを受け流す水のような技であり、軽く槍の穂先を弾いただけで簡単に軌道を逸らすことができた。
大技を放った直後で硬直している男を桃弥が見逃すはずもなく、すかさず両足の腱を切り裂く。
『っく!』
「しばらくそこでおねんねしてろ」
男の右手を切り落とし、片方の刀で左手を地面に縫い付ける。
「さて、あと一人か」
『な、なにこいつ!? 本当人間?』
「失礼な野郎だな。純度百パーの人間様だっつーの」
『く、くそ!!』
得体の知れない桃弥に、盛羅は逃げの一手を選択。狭間に逃げ込めば桃弥は負ってこれない。そう思ったのだろう。
しかし、その飛行速度で桃弥から逃げられるはずもない。
「おいおい薄情な奴だな。お仲間は置いてくのか?」
『ちょ、速すぎ!? って、えええ!? なんで? どうして、韋駄天様がーー』
ーー小燕流・劈楼
刀は一つしかないが、盛羅を叩き落とすには十分だった。
『うわ、ちょ!?』
咄嗟に防御の結界を張ったおかげで何とか劈楼の直撃は防げたが、地面に直撃。その衝撃で結界は割れる。
『待って、あいつヤバすぎーー』
どうやって逃げようかと考える盛羅。しかし、その着地点には彗が槍を持って構えていた。
一閃。
『っぐ』
彗お得意の一突きで盛羅の腹を切り裂き、両断する。
「あ、ごめん桃弥さん、倒しちゃった」
あっちの男を生かしたところを見ると、桃弥はこの二人から情報を引き出そうとしていることがわかる。
故に、彗は盛羅を殺してしまったことを謝罪する。
「いや、別に構わない。そのためにこっちを生かしたんだからな」
盛羅が倒れた場所へ向かう桃弥。そこには先ほどの奇妙な棒と、赤色の色珠が落ちていた。
(色珠を落とすってことは、こいつらも化け物とは同類ってことか。となればーー)
「さて、話を聞かせてもらうぞ」
『っく』
足の腱は切り裂かれ、右腕を失い、左腕は地面に縫い付けられた槍使いの男は先ほどの威勢が完全に失われた。
『語ることは何もない。殺せ』
「あっそ。まあ、あんたらの正体は大体察しはつくけどーー」
ーー天人
『っ!?』
「ここに来て六道勢ぞろいってわけか」
天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道。仏教における六道である。
既に他の六道の生物と戦ってきた桃弥にはわかる。この男は天道から来たのだと。
「天上のお偉い方下界になんのようだ?」
『…………』
槍使いの男は桃弥を睨みつけ、何か言いたげに視線を泳がせる。
「あぁ? 言いたいことがあるなら言ってみろよ。ほれ、下賤な人間にここまでされたんだ。鳴き声の一つでもあげてみろよ。類人猿でももう少しプライドはあるぞ?」
『き、貴様!! 人間風情が図に乗るなあ!』
「その人間風情にボロ雑巾にされたのはどこのどいつだ、あぁ?」
『おのれ! 言わせておけば……韋駄天様の威を借りているだけの小物が!! その力さえなければ、我らが人間に敗れるはずがないのだ!』
先ほどの盛羅も言っていた『韋駄天様』。それは、桃弥が脚力強化と体力強化をカンストさせたときに入手した能力名だ。
(さっきの奴もそうだが、ピンポイントで俺の能力を見破ってやがる。ただ神の名を模しただけの能力だと思ったが、そんなシンプルなもんでもなかったか)
ペラペラを勢いよく喋り出す槍使いの男を見下ろしながら、桃弥は考察を深める。
『ーーだがもう終わりだ!! あの方はじきに降臨される!! この世の覇者となられるのだ!』
「あの方?」
『っは、無知蒙昧な人間め。あの方すら知らぬとは!! あの方こそが我らが王にふさわしきお方、六界の覇者となられるーー』
ドクン。
「「『!?』」」
槍使いの男の言葉を遮るように、彼の心臓が大きく鼓動をはじめる。
『がっは……も、申し訳ございません。ど、どうか、お、お許しをーー』
そして次の瞬間、槍使いの男の男の心臓を血の刃が貫いたのだった。
あまりに呆気ない最後と事態の急変に、桃弥たちは戸惑いを隠せずにいた。
「……どうなってんだ、一体」
「普通に考えたら……口封じ、とか? ほら、漫画とかアニメでよくあるあれ」
「……まあ、いい。敵の正体が分かっただけでも良しとするか」
地に転がる2つの赤い色珠を拾い上げ、残りの戦利品を確認する。
変な形状の棒が一つ。金色に輝く輪光と槍が一つずつ。
「うーん、どうすんだこれ」
桃弥の小燕陰光や緋鵆のような特殊能力が備わった武器なのは間違いないだろう。
桃弥たちでさえ雷牙を含めて3つしか入手できていない。つまり、それだけ貴重なものといえる。
しばしの思考の結果、桃弥は結論を出す。
「槍とこの輪っかは彗が貰ってくれ」
「え、いいの?」
「あぁ、代わりにこの変な棒は俺が貰っていいか?」
「え、あ、うん、だって桃弥さんが倒したんだし……でも本当にいいの? 多分これ、すっごい貴重なものだよ」
「彗だって一人倒してるだろ。それに、俺たちは槍を使わないし、持ってても腐るだけだ。彗なら有効活用してくれるだろ?」
「で、でもでも、あたしほとんどなんもしてないよ! 本当にいいの!?」
徐々に彗の言葉に熱がこもっていく。口ではこう言っているが、本心では欲しかったのだろう。
現代で槍づくりの職人なんてそうそう見つかるものじゃない。今までも急ごしらえの自作槍でしのいできたわけだし。
それでも槍を武器にしたのは、ひとえに戦闘スタイルとの相性故だった。
だからこそ、彗の槍に対する思いは人一倍強いのだ。
「もちろんだ。むしろ貰ってくれない方が困る」
「そ、そう。じゃ、じゃあ、ありがたく。いつか必ずお返しするから」
「気にするな。友達に貸し借りはなしって言ったのは彗だろ? だから貰っておけ。」
「っ!! こ、これはそういうんじゃなくて、友達同士のこうなんていうか、えーと……とにかくお返しはするの!」
お返しは絶対すると強く言い切る彗。そんな彗を見て桃弥は苦笑いを浮かべ、「友達って難しいな」と呟く。
分配も済んだため、二人はそれぞれの戦利品を手にする。
おずおずと槍に手を伸ばし、握りしめる彗。すると輪光も回転し、光を増していく。
「うわぁ」
光が増すと共輪光は宙を舞い、彗の周りをぐるぐると飛び回る。やがて光は収束し、輪光は彗の背後に落ち着く。
「すっご!! なにこれどうなってるの?」
どう動き回っても必ず背後に浮き続ける輪光に彗は興味津々だった。
飛んだり跳ねたり、走り回ったりと子供のようにはしゃぐ彗を、桃弥はただ眺めていた。
こんな世界とは似つかわしくない光景だが、なぜか心が和むのだ。
しかしいつまでもそうしているわけにもいかず、桃弥は彗に声をかける。
「そろそろ帰るぞ彗」
「え、もう?」
「あぁ、期せずして赤い色珠が2つも転がり込んできたからな。司への借りはこれで返せるだろ」
桃弥の発言に、目に見えてしょんぼりする彗。しかし、わがままを言わず桃弥に従う。
「そ、そういえば桃弥さん。その棒は何に使うの? 桃弥さんのスタイルとは合わない気がするけど」
「あぁ、これはなーー」
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