Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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転生・蘇る大帝

第7話 陽は昇る

「なぜ帝国の動きを察知できなかったのだ!」
「そんなことはどうでもいい! まずは王都に援軍の要請を!」
「しかし、今要請を出してもどんなに早くても2週間以上はかかるぞ」
「それでは間に合わん! なんとかならんのか!」
「近くの貴族に要請しましょう!」
「貴族共の弱兵など役に立つものか!?」
「今はそんなことを言ってる場合ではないでしょう!」
「まずは領民の避難が優先ではないのか?」

 時間がないにもかかわらず、この生産性の皆無な会議を延々と続けているのは何故だろうか。ただの現実逃避ではないか、もっとやるべきことがあるのではないか、そんなことを思っているレオンハルトだった。

「マルクス団長。今ライネル領にいる騎士の総数は?」
「……およそ500騎です」

 レオンハルトの勘が見事当たったことで、マルクスもレオンハルトのいうことだとばかにできなくなっていた。

「少ないな……」

 500対10000では戦争にもならん。一方的に蹂躙されるのが落ち。それを皆も分かっていることで、だから最初から戦うことを選択肢に入れようとしない。しかし、

「まさかとは思いますが……戦うおつもりで?」
「当然だ。今からでは領民全てを避難させるのは難しい。そもそも受け入れてくれる都市など存在しないしな。援軍も望めないようでは戦うしかないだろ?」
「それはそうですが! 一万ですよ!? 我々にできることは援軍が来るまでの時間稼ぎぐらいしか……」
「無駄だ。援軍はこない」
「っなんだと!? ……理由をお聞きしても? まさか、また勘ですか?」
「いや、考えてみればわかることだ。我が国は帝国を仮想敵として警戒し続けている。にも拘わらず、国境付近での帝国軍の大規模軍事行動に我々は気づかなかった、この事実が全てを物語っている」
「「……」」

 さっきまで騒がしかった室内がいつの間にか静まり返っていた。

「……確かにおかしいですが、それと援軍とはどういう関係が?」
「……軍の上層部に内通者がいるだろう、ということだ」
「「「なぁ!?」」」

 帝国軍進攻の知らせを受けた時と遜色ない動揺が広がる。

「なにを根拠にそんなことを!?」
「いや、確かに辻褄が合う。上層部が情報を揉み消していたとなれば」

 再び騒がしくなった室内。あれやこれやと意見を言い合う騎士たちだが、核心に触れるものはいなかった。流石に、それに気づいた騎士団長のマルクスは、

「静粛にせよ!」
「「「!?」」」

 騎士団長ともなれば、その一喝には確かな凄みがあった。

「それが事実だとして……レオンハルト様、我々はどうすればよろしいでしょうか?」
「ん? 俺か?」
「はい、是非ともレオンハルト様にご意見していただきたい」
「ほう? この間とは随分と態度が違うではないか? 何を期待しているのだ? 豚公子兼お飾り領主代理の俺に」
「……先日は大変失礼をいたしました。申し訳ございませんでした。この処分はい如何様でも……しかし……悔しいが、今の我々にはこの状況を打破する術はありません。この状況を見事に先読みしてみせだレオンハルト様の勘に縋るしか、我々には……」

 いつになく弱気な騎士団長を前に、団員たちは唖然としていた。

「ふむ。いじわるはこれぐらいにしよう。まずは……そうだな、マルクス団長、騎士たちを集めてくれ」



 ◆

 集められた平の騎士団員たちは、声こそ出ていないがうろたえていた。いかにも深刻そうな表情を浮かべた上級騎士や騎士団長。そんな彼らを押しのけて1人の少年が前に立った。

 しかも、皆その少年のことを知っている。
 新たに派遣された領主代理、公爵のドラ息子、皇都で悪名高い豚公子。
 何かと話題を欠かない少年であった。無論悪い意味で。

「揃ったな……まずは、諸君! 良く集まってくれた。ここで労ってやりたいが……時間もないゆえ許してほしい」
「「……」」

 戦を前にして、滾っているレオンハルトは思わず皇帝だった頃の口調で語りかけてしまう。

 これには集められた平騎士のみならず、後ろの上級騎士やセバスチャンも呆然としていた。

 そんな彼らに構わずレオンハルトは話を続ける。

「先ほど、斥候から連絡が届いた。帝国国境にて帝国軍の大規模軍事行動を確認! その数およそ1万! 7日後に北の砦に到着するものと思われる!」
「「っ!?」」

 レオンハルトの思わぬ威厳に呆然としていた彼らも、続けられたレオンハルトの言葉で我に返る。
 波を打つかのようにどよめきが広がる。

「静粛に! ……時間がない。ここで我々は選ばなければならない。戦うか! 逃げるかだ!」
「「……」」
「1万という数だ。対してこちらはたったの500。勝てるわけない。戦っても無様なに敗北するだけだろう。ならば、逃げてしまってもいいのではないか? 命を大事に、だ」
「ちょっと! レオンハルト様!?」
「騎士と言えども死は怖いだろう。ああ、俺も怖い。どうせ負けるなら、体面よく負けようではないか。辺境の野暮で泥くさい騎士に尊厳もクソもないだろう。辺境に左遷された貴様らにできることなどたかが知れてるしな」
「「な!?」」

 いきなりの敗北宣言や侮辱に騎士たちの頭の回転が追いつかない。しかし、次第レオンハルトの言ったことを理解すると、一気に顔に怒気が浮かんだ。

「ふざけるなあ!!」
「腰抜けの貴様と一緒にするなぁぁ!! 我らには騎士としての誇りがあるのだ!」
「敵前逃亡などできるかあ! 貴様など豚にも劣るわ! 豚に謝れコラァ!」
「ここで我らが逃げて領民がどうなると思っているのだ!? 民のことも考えられんのか!?」

 言いたい放題である。
 本来領主代理といえど、このような罵詈雑言は問題になる。しかし、レオンハルトの発言は彼らにその一線を越えさせた。もとよりいい印象を持っていなかった相手だったので尚更である。

 罵倒されている当人のレオンハルトといえば、どこ吹く風である。顔色ひとつ変えず、騎士たちから目をそらすこともしない。

 そして、出来の悪い教え子が正解を導き出した教師のような笑みを浮かべ、

「静まれえええぇぇ!!!」
「「!!」」

 陸跡魔闘術りくせきまとうじゅつーー威跡いせきはたがしら

 一瞬、空気が、時間が、世界が止まった。

 そう錯覚するほど、誰もが死を覚悟するほどであった。

 誰もが目の前の存在は人間としての、生物としてのーー

 ーー次元が違う。

 そう認めざるを得なかった。

 息もできぬ重圧がその場を支配し、レオンハルトが発した言葉だけが響く。抗うことは許さない、そう言っているかのように音が、耳を通り、脳を支配する。



ーーーーー

 アレクサンダリア1世が編み出した武術『陸跡魔闘術』。当代でこれの使い手は存在しない。

 彼が歩んだ六つの『跡』を、彼なりに解釈し、武術に昇華させたもの。全身に魔力を巡らせ、常軌を逸した鍛錬を積むことで初めて可能となるその武術はーー

 ーー神にすら届く

 そう言われている。

 その中でも、威跡・覇はかなり特殊なものであり、それ自体が武術のていを為してはいなかった。

 アレクサンダリア1世が経験した無数の戦場の中で、彼が追い詰められた戦も少なくない。ごく僅かな味方と大勢の敵。わかりやすい窮地である。

 死すら見えたというその戦で、鬼神の如く戦場を駆ける中、洗練された魔力制御がわずに狂い、体を巡る魔力が体外に溢れてしまう。次の瞬間、敵味方問わず、皆動きが止まってしまったという。

 これが威跡・覇の正体である。

 体を巡る魔力を、あえて放出することで空気中に漂う魔力支配する。ほんのわずかな支配力だが、これにより相手に「敵は人間ではなく、世界そのもの」と感じさせることができる。

 その後も試行錯誤を経て、『陸跡魔闘術』の一つとなった。

 魔力で身を守ることができない者では、アレクサンダリア1世の前に立つこそすら許されていなかった。

 ちなみに、音声に魔力を載せることで相手の脳に直接語りかけるのは、その過程で生まれた副産物に過ぎない。

ーーーーー



 声に魔力を載せながら、レオンハルトは語る。

「貴様らのいう通り! 我々には、はなから逃走などという選択肢は、ない! なんとしてでも戦わねばならん!」

「「……」」

「しかぁし! これは貴様らのちんけな虚栄心を満たすためのものでは、断じてない! 誇りなどという偽りの拠り所を今すぐ捨てろ! そんなものを守る余裕など、我々にはない!」

「「……」」

「我々が守らなければならないは、民だ! ここに住う領民を背にして、我々が逃げることは許されん! そして、負けるのも同じことだ! たとえ戦ったところで、負けては逃走と同じ。領内は蹂躙され、民が苦しむこととなる! お前たちの家族を帝国などに渡していいのか!?」

「いいわけねーだろう!」
「そうだ! そうだ!」
「死に晒せぇ! 帝国の犬どもが!」

「そうだ! いいはずがない! 故に!我々に与えられた選択肢はただ一つ! 戦って、そして勝つことだ! 繰り返そう! 戦って死ぬことで満足するな! そんなのはただの自己満足でしかない! 生きて勝て! 這いつくばってでも勝て! とにかく勝てええぇぇ!」

「「おおうう!」」

「俺に従え! さすれば勝利をくれてやろう! ついて来おおおぉぉぉい!!」

「「おおおぉぉぉ!!」」

 天に届かんとする歓声が巻き起こる。レオンハルトが騎士たちの心を掴んだ第一歩である。


 ◆

 演説の後、レオンハルトを軽蔑していた騎士たちは態度を一変させることとなる。
 それだけ威跡・覇が放つ威圧感が強大なものであり、騎士たち先入観を折るのに十分なものであった。

 しかし、それだけではない。レオンハルトの持つ貫禄、人格的魅力が彼らをそうさせている。マイナスから始まったレオンハルトの印象は、たった一回の演説で確実に好転した。

 これより、再び動乱の世がはじまる。その乱世で一際輝くこととなるレオンハルトが初めて歴史の舞台に登った、後の人々はこの出来事をこう呼ぶ。

 暁の演説、と。

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