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動乱・生きる理由
第13話 運命か、因縁か
しおりを挟む今から千年前。大陸が一つになる前の物語。
身分も、財産も、記憶も、何もない少年が、ある少女と出会い、大陸をおさめるまでの物語。
「ねー、君ー。名前なんて言うの?」
「……アレクサンダリア」
街の隅っこで、二人は出会った。スラム街の一角である。いかにも貴族のお嬢様のような少女と、ドブネズミのように汚れたどこにでもいそうなスラム街の少年。
「アレクサンダリア……うーん、長い! アレクって呼ぶね。わたしクラウディア。よろしくね」
「……クラウディア」
それは偶然か、必然か。
◆
「私ね、おうちが嫌い」
「……」
「偉くもないのに偉そうにしてる男に、人の苦しみをまるで理解できない女、そんな人たちに育てられた子供。ぜーんぶ、大っ嫌い!」
「……」
「だから、こうしてよく抜け出すの。悪い子でしょ」
「……」
「ねー、なんとか言ってよ。独り言みたいになっちゃったじゃん」
「……逃げれば、いいだろ」
「それがそうもいかないのよ。貴族って面倒だよね。でも、まあ、いいこともあるけどさ」
「……」
「アレクと出会えたんだから」
「っ! ……」
「一人に、しないでね。アレク」
アレクサンダリアにとってその笑顔は、眩しすぎたのかもしれない。まるで太陽のようだった。
その太陽の日に毒されすぎたのかもしれない。地の底にいたの少年は、浴びるべきではない日差しをあびて、ひずんでしまった。
◆
「ねー、アレク。これからどこにいくの?」
「……遠いところ」
「そっかあー。じゃあ、もうおうちに帰れないね」
「……ああ」
盗み出した小型の馬車に、小型の馬。どう考えても、逃げ切れるはずがない。それでも、やってしまったのはきっと、あの太陽のせい。
◆
「このクソガキが!! 手こずらせやがって」
「ぐふ」
大男たちに囲まれる二人。その中心で、少年は暴行を受けていた。
「やめて! 全部わたしが悪いの! わたし帰るから! だから! アレクにひどいことしないでえ!」
少女の嘆願は、少年の心を抉る。
「おいおい、お嬢ちゃんよ。あんた一つ勘違いしてるぜ」
「え?」
「俺らの任務はな、あんたを連れ帰ることじゃない。抹殺なんだわ」
男の言葉は、少年の心に怒りを灯す。
「いやあぁあ!」
少女の絶叫は、少年の心に陰を落とす。
「わ、わたしはいいから、は、早く逃げて。アレク、巻き込んじゃって、ごめんね」
少女の涙は、少年の心を黒く染め上げた。
気づいた時には、全てが終わっていた。少年の頭は、少女の胸の奥に収まっていた。まるで子供をあやかすように、少女は優しい眼差しを向ける。
あたり一面は血の海。潰れた肉片ばかりが、血の海を漂う。
原型を留めている死体は、一つもない。
誰がこの惨状を作ったのかは、言うまでもないだろう。
少年の頭を撫でる少女の手は震えていた。
それでもーー
「ありがとう、そして、ごめんなさい」
◆
少女は成長し、少年も成長した。その歪みは、もうどうしようもないほど、大きく膨れ上がっていた。
少年は、王になることを決意した。全ては、少女を守るためだ。
王となり、強い国を作り上げれば、全てを守れると思っていた。少年と少女の故郷の国は、真っ先に滅ぼされた。
当然の報いだ。そう思った。
少女の両親の最後の言葉ーー
「この悪魔めが! あの時! あの時しっかり殺していれば!! そもそも生まれて来なければーー」
「ああ、神よ。なぜ私に悪魔を授けたのでしょうか。あの悪魔を、今すぐにでもくびき殺したいーー」
少女にとっての呪いとなった。
自分が生きていれば、周りが不幸に、そう思った。
自分が生きていれば、少年も不幸に、そう思ってしまった。
◆
少女は死んだ夜、少年は全てを焼いた。
ーー俺は太陽、が欲しかった。俺を照らしてくれた、あの太陽に憧れた。憧れたばかりに、失ってしまったのだろう。見てくれよ、クラウディア。今の俺の太陽は、こんなにも黒ずんでいるじゃないかーー
大統帝アレクサンダリアは大陸最強となった。
全てを焼き尽くす炎ーー煉獄の炎を手に入れて。
◆
時は進み、大陸統一が果たされて500年が経過した。
なんの偶然か、一人の墓泥棒がとある墳墓にたどり着いた。大統帝アレクサンダリア一世が眠っていると噂の墳墓だ。
なんの偶然か、その墓泥棒は500年もの間に発見されなかった、アレクサンダリア一世の遺体を発見した。
なんの偶然か、その墓泥はアレクサンダリア一世の血を引くものだった。
ーー煉獄の炎は、継承されてしまった。
これが、ルドマリア帝国の誕生秘話である。
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