Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

文字の大きさ
48 / 108
動乱・生きる理由

第13話 運命か、因縁か

しおりを挟む


 今から千年前。大陸が一つになる前の物語。

 身分も、財産も、記憶も、何もない少年が、ある少女と出会い、大陸をおさめるまでの物語。

「ねー、君ー。名前なんて言うの?」
「……アレクサンダリア」

 街の隅っこで、二人は出会った。スラム街の一角である。いかにも貴族のお嬢様のような少女と、ドブネズミのように汚れたどこにでもいそうなスラム街の少年。

「アレクサンダリア……うーん、長い! アレクって呼ぶね。わたしクラウディア。よろしくね」
「……クラウディア」

 それは偶然か、必然か。



「私ね、おうちが嫌い」
「……」
「偉くもないのに偉そうにしてる男に、人の苦しみをまるで理解できない女、そんな人たちに育てられた子供。ぜーんぶ、大っ嫌い!」
「……」
「だから、こうしてよく抜け出すの。悪い子でしょ」
「……」
「ねー、なんとか言ってよ。独り言みたいになっちゃったじゃん」
「……逃げれば、いいだろ」
「それがそうもいかないのよ。貴族って面倒だよね。でも、まあ、いいこともあるけどさ」
「……」
「アレクと出会えたんだから」
「っ! ……」
「一人に、しないでね。アレク」

 アレクサンダリアにとってその笑顔は、眩しすぎたのかもしれない。まるで太陽のようだった。

 その太陽の日に毒されすぎたのかもしれない。地の底にいたの少年は、浴びるべきではない日差しをあびて、ひずんでしまった。



「ねー、アレク。これからどこにいくの?」
「……遠いところ」
「そっかあー。じゃあ、もうおうちに帰れないね」
「……ああ」

 盗み出した小型の馬車に、小型の馬。どう考えても、逃げ切れるはずがない。それでも、やってしまったのはきっと、あの太陽のせい。



「このクソガキが!! 手こずらせやがって」
「ぐふ」

 大男たちに囲まれる二人。その中心で、少年は暴行を受けていた。

「やめて! 全部わたしが悪いの! わたし帰るから! だから! アレクにひどいことしないでえ!」

 少女の嘆願は、少年の心を抉る。

「おいおい、お嬢ちゃんよ。あんた一つ勘違いしてるぜ」
「え?」
「俺らの任務はな、あんたを連れ帰ることじゃない。抹殺なんだわ」

 男の言葉は、少年の心に怒りを灯す。

「いやあぁあ!」

 少女の絶叫は、少年の心に陰を落とす。

「わ、わたしはいいから、は、早く逃げて。アレク、巻き込んじゃって、ごめんね」

 少女の涙は、少年の心を黒く染め上げた。

 気づいた時には、全てが終わっていた。少年の頭は、少女の胸の奥に収まっていた。まるで子供をあやかすように、少女は優しい眼差しを向ける。

 あたり一面は血の海。潰れた肉片ばかりが、血の海を漂う。
 原型を留めている死体は、一つもない。

 誰がこの惨状を作ったのかは、言うまでもないだろう。

 少年の頭を撫でる少女の手は震えていた。

 それでもーー

「ありがとう、そして、ごめんなさい」




 少女は成長し、少年も成長した。その歪みは、もうどうしようもないほど、大きく膨れ上がっていた。

 少年は、王になることを決意した。全ては、少女を守るためだ。

 王となり、強い国を作り上げれば、全てを守れると思っていた。少年と少女の故郷の国は、真っ先に滅ぼされた。
 
 当然の報いだ。そう思った。

 少女の両親の最後の言葉ーー

「この悪魔めが! あの時! あの時しっかり殺していれば!! そもそも生まれて来なければーー」

「ああ、神よ。なぜ私に悪魔を授けたのでしょうか。あの悪魔を、今すぐにでもくびき殺したいーー」

 少女にとっての呪いとなった。

 自分が生きていれば、周りが不幸に、そう思った。

 自分が生きていれば、少年も不幸に、そう思ってしまった。




 少女は死んだ夜、少年は全てを焼いた。

ーー俺は太陽、が欲しかった。俺を照らしてくれた、あの太陽に憧れた。憧れたばかりに、失ってしまったのだろう。見てくれよ、クラウディア。今の俺の太陽は、こんなにも黒ずんでいるじゃないかーー

 大統帝アレクサンダリアは大陸最強となった。

 全てを焼き尽くす炎ーー煉獄の炎を手に入れて。




 時は進み、大陸統一が果たされて500年が経過した。

 なんの偶然か、一人の墓泥棒がとある墳墓にたどり着いた。大統帝アレクサンダリア一世が眠っていると噂の墳墓だ。

 なんの偶然か、その墓泥棒は500年もの間に発見されなかった、アレクサンダリア一世の遺体を発見した。

 なんの偶然か、その墓泥はアレクサンダリア一世の血を引くものだった。

 ーー煉獄の炎は、継承されてしまった。

 これが、ルドマリア帝国の誕生秘話である。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...