Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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動乱・生きる理由

第14話 原罪

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 空気が冷え込む。炎があたりにちらついても、空気だけは冷え込んでいった。その理由はレオンハルトにはある。

「その力は、あってはならぬものだ」
「ほう? 煉獄を知っているのか?」

 それに対する返事はなかった。代わりに、レオンハルトは突き進んだ。今まで以上の速さと力で、へガンドウルムに襲いかかる。

「ほう、まだギアを上げられるとは、手加減しておったのか?」

 手加減などしていなかった。それでも、レオンハルトは自らのうちに無意識的にかけていたリミッターが、今外れた。この世からあの忌まわしい力を消すために。

 横に振われた刃が受け止められば、すかさず回転し次の一撃を放つ。 

 縦に振るわけた刃が流されれば、力づくて横なぎを放つ。跨る馬も、主の殺意に当てられたのか、気性が荒くなっていく。

 いつの間にか、周りから人がいなくなっていた。教国兵は巻き込まれないために、ライネル領の兵たちは主の邪魔をしないために。

 こうして、二人の決闘の場を中心に巨大な円が出来上がっていた。

 より激しくなったレオンハルトの攻撃を受け止めきれなくなったのか、へガンドウルムの体に生傷が増えていく。

 しかし、それも一瞬のこと。炎に覆われた傷は、すぐさま消えていった。見るものによっては、再生のようにも見えるが、レオンハルトは違うとわかっていた。

(いつ見ても忌まわしい力だ。傷すらも焼く)

 そう、煉獄の炎は傷すらも焼く。

 概念すら超越したその力は、人の手には余る。これを一番わかっているのは、かつての主人であるレオンハルトだ。

(なんとしても、ここで討ち滅ぼす!)

 戦いが苛烈になっていく。

 陸跡魔闘術ーー戦跡・ほむら

 ひたすら武器破壊を狙い続けるレオンハルトだが、武器を傷つけても、煉獄の炎はそれを焼く。煉獄の炎は武器を伝って、徐々にレオンハルトに迫る。

 しかしーー

 陸跡魔闘術ーー禦跡・よろい

 禦跡・鎧はその炎をかき消す。

(なんだ? 煉獄が通じてないのか? どこまでも規格外な奴め)

 傷がついてもすぐに治るからか、へガンドウルムは余裕があった。とはいえ、互いに決め手を欠いた状態であるのは間違いない。

(魔力切れを狙っているのだが……こいつの魔力量じゃあ一苦労だ。が決まれば勝てるが、タイミングが……)

(ふむ、決め切れんな。長引けば余の勝ちは揺らがんが……それではつまらぬ)

「これでは埒があかんな。仕方あるまい……光栄に思うがいい、レオンハルト・ライネルよ。余の極大魔法を見せてやろう」

 へガンドウルムは激しい剣戟に中で、詠唱を開始した。


『死より出ずる煉獄の炎よ』


 空が割れた。そう表現するのが一番正しいだろう。空の割れ目が、赤黒く染まる。


『天の狭間より舞られよ』


 一滴に水が、天より降り注いだ。否、水ではない。火種だ。


『アダムよ イブよ 罪深き人の子よ 断罪の太陽を地に堕とせ』


 火種は広がっていく。赤黒く広がる火種は、中心に近づけば近づくほど黒く染まっていく。


『愛も 情も 知恵も 萬を焼き尽くさん』


 一際大きな火が舞い上がる。まるで人の顔のようになっていき、震え始めた。笑っているのだ。不気味な笑い声が聞こえるほど、悍ましい物体がそこにはあった。

『原・罪禍炎転』

 その霊言とともに、地上へ近づく断罪の炎。

 それを見たレオンハルトは、重力魔法を伴った一撃でへガンドウルムを吹き飛ばし、身を翻して距離を取ろうとする。

 吹き飛ばされながらも、へガンドウルムは余裕綽々だった。

「逃げても無駄だ。すでに世界は成った」

 その言葉を証明するかの如く、煉獄の太陽は地上に迫る。レオンハルトを目掛けて急降下してくる。流石のレオンハルトもこれは避けられない。

「レオンハルト様あ!!」
「レオ!?」

 遠くにいるはずの二人の少女の声が、レオンハルトに届く。

 ドン!

 重く鈍い音が響き渡る。あたり一面が炎の津波に飲み込まれ、何もかもが焼き尽くされる。とは言ったものの、二人の周りは誰もいないが。

「ヒッヒーーン!!」

 レオンハルトの騎馬の断末魔がヘガンドウルムの耳に届く。これで勝ちを確信したへガンドウルムは、ようやく口を開く。

「『原・罪禍炎転』は人の罪を焼く炎、とは言ったもののただの消え難い炎だ。ただし時間以外にこの炎にトドメをさせるものはいないがな。余も含めて」

 自らの奥義を、いないはずの誰かに語り出すへガンドウルム。

「この力の由来に関係するだろう。かの大帝の炎は四十九日間燃え続けたそうだ。死者の弔いの炎ということだろう。余の炎もそれに因んでおる。故に最強なのだ……ん?」

 陸跡魔闘術ーー禦跡・よろい

(うるせーな、そんなもんわざわざ言われんでもわかってんだよ!)

 陸跡魔闘術ーー動跡・とどろき

 一瞬で間合いを詰めるレオンハルト。刃を振い、ヘガンドウルムに切りかかる。

「なん、だと!?」

 ここにきて、初めてわかりやすく慌てたへガンドウルム。レオンハルトの攻撃を受けようとするが、レオンハルトの狙いはへガンドウルムではなく、その騎馬にあった。

「うお!?」

 馬がやられたことで、体勢を崩したへガンドウルムに一太刀浴びせた。初めての深い傷。しかし、炎に覆われたその傷は瞬く間に修復されるーーー

 のだが……

「ば、馬鹿な! 余の煉獄が!?」

 炎は消え去った。レオンハルトを中心に煉獄の炎は消え去った空間が広がる。

 無論、へガンドウルムの身に纏った炎も綺麗さっぱり消え去った。

陸跡魔闘術りくせきまとうじゅつーー消跡しょうせきうつろ


ーーーーー
 陸跡魔闘術りくせきまとうじゅつーー消跡しょうせきうつろ

 陸跡魔闘術のうちもっとも異質な技。この技は、魔力を消す。自らの魔力を、周囲の魔力にぶつけて、消し去る技。

 かのアレクサンダリア1世も、この技を1度しか使っていない。

 クロイツァの焦土と呼ばれる悲劇は、アレクサンダリア1世が招いたことである。この地にあってはならぬ煉獄の炎を呼び出し、全てを焼き尽くさせた。

 しかし、全てを焼き尽くした炎は、全ての焼き尽くしてもなお燃え続けた。

 アレクサンダリア1世はそれを四十九日間放置した。クラウディア王妃の弔いのために。しかし、それも終わり、この炎の大地をどうしたものかと、重鎮たちは話し合った。

 自らの不手際は自らの手で解決する。そう決めたアレクサンダリア1世が行ったのが消跡・虚である。

 この技は、消費魔力が多い上に戦闘中では使えない。なんせ、魔力を打ち消す領域なのだ。

 それは使用者とて例外ではない。この技を使っているときは、陸跡魔闘術はおろか、魔纏すらもできない。

ーーーーーー

 へガンドウルムの腹部をレオンハルトの黒月に石突きが貫いていた。

 回復は、しない。

「あり、えぬ」
「ありえたのだよ。先輩から忠告だ。その力を過信するな。足元を掬われるぞ。まあ、掬われたあとじゃあ、もう遅いか」

 そういって、レオンハルトは黒月を引き抜く。

「ぐっは!」
「今、楽にしてやろう」

 これ以上苦しめても無益だ。そう思ったレオンハルトは迷うことなくトドメを刺そうとする。これは彼なりの優しさなのだ。

 大陸最強、帝国皇帝などともてはやされた男にしては、随分とあっさりした最後なのではないだろうか、とレオンハルトは思う。

 否、人間の最後は得てしてドラマチックに飾られるものではない。

 どんなに劇的な人生を歩んでも、死ぬ時はあっさりなのだ。

 自分がそうであったように。

 高く振り上げられた黒月は、しかしーー振り下ろされることはなかった。


 代わりにーーー


 レオンハルトの心臓から、一本の長剣が生えた。


「ごめんね。レオ」

(まさか……)

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