Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

文字の大きさ
50 / 108
動乱・生きる理由

第15話 背信者

しおりを挟む

 リンシアとシリアは炎の中を駆けた。一刻も早くレオンハルトの元に辿り着くために。

 降りかかる炎を、影で、水で防ぎ、突き進んだ。レオンハルトなら必ず生きていると信じているからだ。一箇所だけ、炎が不自然に揺らめく場所があった。

「あそこです! いきましょう」
「……うん」

 しかし、二人の少女が目にしたのはあり得ない光景である。大陸最強が地に伏していた。そのあり得ないに光景にすら目もくれず、二人の少女はただ一点を見つめた。

「レオンハルト様!!」

 すぐさま影移動を使い、レオンハルトの元へ飛んだ。

「レオンハルト様! レオンハルト様! しっかりしてください! レオンハルト様!!」

 その間に、リンシアも距離を詰めて、レオンハルトを背にかばい、下手人と思われる人物に剣を向けた。そして、絞り出した言葉がーー

「……フレデリック!!」

 憎悪の籠った言葉だった。

 そう、レオンハルトの心臓に剣を突き立てたのは、同級生にしてクラスメイトのフレデリックだった。

「思いのほか早かったですね。リンシアさん」

 リンシアの視線を受けても、どこ吹く風のフレデリック。いつもの眼鏡はつけておらず、おかげでその禍々しく光る赤い瞳が惜しげもなく晒されていた。

「……なん、で?」
「さあ、なんでだろうね」
「……フレデリック!!」

 フレデリックに斬りかかろうとするリンシアだが、

「おっと、僕に構ってていいのかな? 愛しの彼がピンチだよ」
「!!」

 その言葉に、リンシアは思わず振り向く。目にしたのは、虫の息のレオンハルトである。心臓がひと突きされたんだ。致命傷なのは間違いない。心臓から止めどなく流れる血は、命の流出に等しい。

 しかし、それも一瞬。すぐさま敵の排除に乗り出そうとするリンシアだが、すでにフレデリックの姿はなかった。

「まだこいつには生きててもらわないといけないのでね。連れていくよぉ」

 いつの間に、と思ったリンシア。

 フレデリックはすでに、リンシアの間合いから離れ、その肩には死にかけの帝国皇帝が乗せられていた。そして、その言葉とともに、身を翻すフレデリック。

 一瞬追うかどうか迷ったリンシアだが、シリアの絶叫がそれを断つ。

「い、いや、レオンハルトさまああああ!!」

 この瞬間を持って、レオンハルト・ライネルの心臓の鼓動は完全に停止した。


 ◆


 皇国軍本陣にて、将たちが集められていた。とはいえ、レオンハルトを含む何人かの貴族は参加していないが。

 誰しもが動揺している。あまりに展開が早すぎるからだ。

 帝国との戦争中に教国が乱入。かと思いきや、自国の軍が増援に来ており、元帥セベリスが先頭をかけていた。逆転したと思われたところで、天上から漆黒の太陽が地に降り立ち、戦場を両断した。

 戦場は横に横断されており、こちら側には教国軍が、向こう側には帝国軍がいた。教国軍も何が起こったかわからず、呆然としてる。

 そんな状態で皇国軍本陣が平穏なはずがない。

「知っておられたのですか!? ハリス候! ならばなぜ言わなかった! おかげで右翼に甚大が被害が出たではないか!?」
「その通り、どのように責任をとるおつもりですか?」
「わかっておる。責任なら戦後にいくらでもとってやろう。この老骨の首ぐらい差し出してやろうじゃないか」
「「「なあ!?」」」

 ハリス候の決意に将たちの方が逆に動揺した。流石にハリス侯爵に首を差し出せとまでいうつもりはなかったのだろう。

「しかし、今我々には、今やらねばならんことがある」
「それは?」
「アグリル子爵よ。前に出よ」
「……は、はっ」
「其方は右翼に配置されたのではなかったか? なぜ今、中央にいる」
「そ、それは、きょ、教国軍の侵攻によりやむなく後退しーー」
「いや、其方は教国軍が現れる前にすでに動いていた。違うか?」
「そ、それは……」
「其方は教国軍が現れるとわかっていたのだ。それはなぜか? アグリル子爵。なぜ其方は教国軍が現れるとわかったのだ?」
「「「……まさか!?」」」
「い、いや」

 ここにいる将軍や貴族たちも猛者ばかり。ここまで言われた気づかないほどのアホはいない。

「帝国側の内通者は、其方だ。其方が我が軍の情報を帝国に流していたのだ! アグリル子爵、いや、裏切り者のアグリルよ!!」
「そ、そんな! お待ちください。そもそもなんの根拠にそんなことを!! わしは確かに軍を中央に動かしたが、それは教国とは無関係じゃ!」
「言い訳は後で聞く。まずは身柄を拘束させてもらうぞ」
「お、お待ちを! ……そ、そうだ! 奴だ! あのレオンハルトなるものこそが真の裏切り者ですぞ! その証拠に、今この場におらぬのではないか!? 全指揮官が集められたこの場になぜ奴は現れない! 我らの報復を怯え、逃げたに違いありません! そんな小物と比べ、わしはちゃんとこの場にいた! これこそが、裏切り者ではない証明ーー」

 その続きの言葉は出てこなかった。

 なぜなら、その口には一本の槍が突き刺さったのだ。

「その薄汚い口を閉じなさい。聞くに耐えません」

 槍を投げたのはマーサラ侯爵である。アグリル子爵を一撃のもと葬り去った。その行動に、他の将軍たちも目を点にする。

「どういうつもりだ? マーサラ候」
「薄汚いネズミをを処分しただけですよ。総大将」
「まだ奴には聞かねばならんことがあった」
「聞く必要などありません。裏切り者は、そこで串刺しになっているのがお似合いです」
「……」

 ハリス候は顔をしかめる。しかし、それ以上の追求はしなかった。代わりに、気になる点を他のものに尋ねた。

「そういえば、ライネル子爵の姿が見当たらんな。誰か、知らぬか?」
「「「……」」」

 沈黙が広がる中、ひとりの青年が恐る恐る声を上げた。

「……恐れながら、総大将。ライネル子爵は、本部からの指示で殿を務めたのでは?」
「な!? ワシはそんな指示を出しておらんぞ!」
「私ですよ。彼に死ねと命じたのは」

 そう発言したのは、マーサラ侯爵。

「……マーサラ候、どういうつもりだ?」
「どうもこうもありませんよ。邪魔者を処分しただけです……やれ!」
「「「なぁ!?」」」

 見張りの兵士たちが一気に豹変した。手に持った槍を使い、司令官たちの胸を貫いた。即死である。

 生き残ったのは、マーサラ侯爵、ハリス侯爵、シュヴァルツァー公爵の3名のみ。その3名も返り血に塗れているが。

「どういうつもりだ!? マーサラああ!!」
「そのセリフはさっき聞きましたよ。総大将殿」
「裏切ったな! 貴様あぁ!」

 ハリス候は怒鳴り声をあげる。普通なら、兵士の誰かが駆けつけるのだが、生憎この周りはマーサラ侯爵がひと払いを済ませていた。

「貴様! こんなことして、ただで帰れると思っておるのか?」
「ええ、思いますよ」
「戯言を。ここは我が軍の本陣。貴様を取り囲むのは3万の大軍だぞ!」
「ええ、でも、その全てが私の敵とは限りませんがね」
「なんだと?」

 言葉を返すよりも先に、マーサラ侯爵は駆け出した。天幕の外を目掛けた一直線に。

「ま、待てえ!」

 追いかけようとするハリス候を見張りの兵士がはばかる。

 天幕の外に逃げ出したマーサラ侯爵は、もっとも兵士の集まる地へと走った。

「ま、マーサラ候爵!? ど、どうなさいましたか!?」
「は、ハリス候が裏切った!!」
「「「なぁ!?」」」

 そう叫んだのだった。

「全軍に通達せよ!! ハリス侯爵がライネル子爵と組み、我らを裏切ったのだと。もはや生き残る司令官は私だけだ! 急げ、急いで伝令を回せ!!」

 兵士たちは動揺した。しかし、それでも伝令を送るものがいた。マーサラ侯爵が事前に仕組んでいた兵士たちだ。

「ふざけるなああああ!!」

 そう叫んで出てきたのは、ハリス侯爵とシュヴァルツァー公爵である。見張りの兵士を全て切り殺し、ここまでやってきた。

 返り血に塗れたその姿は、まさに鬼神。その姿を見れば、誰もがハリス侯爵が司令官たちを殺したと思うだろう。

「裏切り者は貴様だ! マーサラ!」
「皆のもの、マーサラ侯騙されるな。奴こそが裏切り者。この私が証人だ」

 公爵と侯爵が揃えてこんなことを言うのだ。当然兵士たちは戸惑う。

「惑わされるな!! シュヴァルツァー公はあの裏切り者、ライネル子爵の父親だ! 二人して私を陥れようとしているのだ!」

 そんなことを叫ぶマーサラ侯爵。

 どよめく戦場はさらに混沌に包まれる。皇国軍内で、二つの伝令が走らされた。

 ーーハリス侯爵が裏切った。

 ーーマーサラ侯爵こそが裏切り者だ。

 判断は、兵士たちに委ねられた。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...