51 / 108
動乱・生きる理由
第16話 混沌
しおりを挟む空よりも遥か上空。その上空よりも、さらに、さらに上に白い空間が広がっていた。
二人の少年?少女?がそのにはいた。性別はわからないが、二人は全く同じ顔をしていた。
「あ~あ、死んじゃったね」
「死んじゃった~」
「君のお気に入りだっけ? その子」
「そうそう。珍しい子だったからね」
「まあ、確かに。記憶を消しきれない子は今までもいたけど、意識まで消せないのはあの子で二人目だからね」
「今度ここにきたら、ちゃんと消せるかな?」
「さあね。わかんない。僕たちは、ただ役目をはたすだけだからね」
「ねー」
「僕たちは」
「私たちは」
「「ただ見守るだけ」」
「「全ては、輪廻の赴くままに」」
◆
混沌に満ち溢れた戦場。そこへ、ある一行がやってきていた。ライネル領兵たちだ。
先頭を行くのは、シリア。その背中には、レオンハルトの遺体が背負われてた。誰もが、信じられないような表情を浮かべていた。
そんな彼らを、取り囲むのは味方であるはずの兵。
「どういう、ことですか?」
「お前たちには叛逆の容疑がかかっている。身柄を拘束させてもらおうぞ」
「叛逆?」
心ここにあらず、と言う感じのシリア。それでも、この軍の副長としての役割はしっかり果たそうとしている。
「ああ、そうだ。お前たちは帝国と通じーー」
ボワー。
その瞬間、火の海が割れた。
「進めええええ!!」
その向こう側から現れたのは、帝国軍だった。
「ば、馬鹿な!?」
ライネル領兵を取り囲んだ兵士たちも、流石にこれは予想外だっただろう。
火を纏った地獄の兵士とはまさにこのこと。
「進めえ、敵を討ち滅ぼせ!!」
こうして、帝国軍と皇国軍の乱戦が始まった。
◆
帝国軍が現れた理由は至極単純。
「皇帝陛下!?」
帝国軍本陣に帰ったへガンドウルム。未だにうまく煉獄を扱えず、回復が進まない。レオンハルトとの戦闘がトラウマになっているようだ。
「く、クソがっ!」
「へガンドウルム陛下!!」
「……こ、殺せ」
「はい?」
「レオンハルト・ライネルを今すぐ殺せええ!!」
そう怒鳴り散らすへガンドウルム。敗北を初めて経験した子供のようだ。
「彼なら、もう死んでると思うよ」
そうフレデリックは答えるが、
「ならばその首を余の元持ってこい!!」
「しかし、この炎ではーー」
「突っ切れ」
「え?」
「突っ切れえ!! なんとしてもレオンハルトの首を持ってこい!」
「し、しかしーー」
口答えした兵士の首は吹き飛んだ。へガンドウルムの一撃によって。瀕死といえど、大陸最強だった男だ。やはり強い。
「さっさと行かんか!このグズどもがああ!!」
「「「は、はっ!!」」」
結局恐怖には勝てなかった。
「やれやれだ」
そうため息をこぼすフレデリックだった。
◆
三万の兵が突撃を仕掛け、炎の海を抜たせたのはわずか2万。1万もの兵士が、煉獄の炎に焼かれた。
それでもーー
「なんとしても、レオンハルト・ライネルの首を持ち帰る!! 行くぞお」
「「「おおお!!」」」
恐怖の方が勝った。
しかし、その帝国軍の言葉に反応したのは、シリアだ。
「レオンハルト様の、首?」
アメジストの瞳に、影が落ちる。
「ふざけるのも大概にしてください。これ以上私から何を奪うと言うのですか……全軍撤退! ライネル領に帰還する。なんとしても、レオンハルト様を領に送り届けます!」
「「「おおう!!」」」
ただの遺体でも、命をはって守る価値がある、そう皆が思ったのだろう。
◆
帝国軍と皇国軍の乱戦。夥しい数の死体がそこら中に転がっていた。帝国、皇国側の死者はともに万を超えていた。帝国は煉獄の炎に、皇国は同士討ちで、ともに甚大の被害を受けた。
そして、それは教国がわとて同じ。総大将と副将が行方不明。背後からの奇襲で、軍は半壊。残りのものも逃げ惑うばかり。
より多くのものを逃すために、神聖騎士団が殿を務め、そして全滅した。
それを成し遂げた男は、無論元帥のセベリスである。
「なんだってんだ? なんで味方同士で殺し合ってる?」
その答えを持ち合わせるものは、いなかった。代わりに、一通の伝令が舞い込んできた。
その伝令を受けたセベリスは、
「んな!? ば、かな」
驚愕していた。
◆
ライネル領を目掛けて、撤退を図るシリアたち。しかし、その道中は帝国兵に襲われることが多々あった。
そして今もーー
「そいつの首を渡してください」
「断る!」
満身創痍のライネル領兵。それを取り囲むは五千の帝国兵。
「ただの死体ですよ。渡してくれれば、君たちは見逃そう」
「断る!」
「なぜそこまでするのですか? 理解に苦しみます」
「そっちこそ、ただの死体と言う割には随分と必死じゃありませんか」
シリアの言葉に、敵兵士が苦虫を潰したような顔をする。
「皇帝陛下が、ご乱心だ。そいつの首さえられば、きっとも元の皇帝陛下に戻ります! だから、その首をわたせ!!」
「断る!」
「かかれ!!」
命令に従い、一斉にライネル領兵におそいかかる帝国兵たち。
「ただの死体とは……」
「言ってくれるじゃねーか」
「何も知らないくせに」
「ふざけるなよ」
「俺は、妻と子供を救われたんだ。流行病で倒れた妻と子を、あのお方は私財を投じて治してくださった。たとえ遺体でも、ちゃんと領に返さにゃならんのだ!!」
「獣と罵られた私を、あのお方は拾ってくださった。生きる意味を、見出してくれた。ならば、この命! 燃え尽きるまで、あのお方のものだ! かかってこい帝国の犬ども! 豚の餌にしてくれる!」
「僕ら亜人の唯一の生きる場所を与えられたんだ。僕らの帰る場所はいつだってレオンハルト様のそばにある。もう、これ以上奪われてたまるかあ!!」
領兵の心は一つになった瞬間だった。
そして、皆の体に金色の光が灯す。
ーーーーー
これはとある最強の男へのインタビューである。
Q:極大魔法とはなんですか?
A:しらいないよ。学者に聞いて。
Q:極大魔法を使う時はどう言う気分ですか?
A:全能感。この一言に尽きるね。なんたって、極大魔法だからね。天地を操る魔法と言い変えてもいい。自然は我が手中にある。それりゃ全能感に包まれるっしょ。まあ、それが罠なんだけどね。
Q:罠?
A:そりゃ罠でしょ。戦場で余裕ぶっこいてたら一瞬で死ぬからね。
Q:どうやったら極大魔法を使えるのですか?
A:知らないよ、そんなの。でもまあ、ただ一つ言えるのは。
Q:一つ言えるのは?
A:降ってくるんだよ。詠唱が、霊言が。全く知らない言葉が脳裏の浮かんで、それを唱えると魔法が発動する。理由は人それぞれ。小便が漏れそうになって発現した人もいるぐらいだからねぇ。
ーーーーー
ライネル領兵の新しい武器には、藍金の刻印が施されていた。その効能は、魔力の増幅、そして、魔力の共鳴。
本来、極大魔法を放つだけの技量も魔力もない1000人の兵士だが、1000人分の魔力が集まり、奇跡的に共鳴を果たした。
「「「我が身は剣なり 敵を切るさく刃なり」」」
巨大な金色の剣が虚空から突如現れた。
「「「我が身は盾なり 主を守る砦なり」」」
巨大な金色の盾が虚空から突如現れた。
「「「我が忠誠は不変にして 悠久なり」」」
空間が裂け、2本の手ががそれぞれ剣と盾を握る。
「「「永久の騎士よ 我が身元に参られよ」」」」
その両手から騎士が形作られる。上半身は人間、下半身は馬の騎士である。
『熾天騎士』
その霊言と共に、騎士が雄叫びをあげた。自身の誕生を祝うかのように。
『グアアアアアアアああぁ』
その騎士の体のうちには、ライネル領の兵士を全て含んでいた。それほど巨大な、金色のオーラを靡かせた騎士が佇んでいた。
「ば、馬鹿な!?」
「ありえない」
「う、うわあああ」
熾天騎士の蹂躙が開始した。
帝国兵の攻撃は全て金の盾で防ぐ、否、全ての攻撃は金の盾に向かって吸収されていく。
襲いかかる帝国兵を金の剣で切り裂く、否、切り裂いた先には常に敵がいる。
「な、なんで! ちゃんと頭を狙ったのに!」
「うわあああ! それはさっき避けただろうが!」
「む、無理だ。もう終わりだ」
そうやって、熾天騎士は蹂躙を続ける。
一刻と立たぬうちに、帝国兵たちは蹴散らされた。
金色の騎士は、そのままライネル領に向けて駆け出しだ。
そう思われたのだった。
「極大魔法『幻想一刀』」
「「「!!」」」
一つの刃が金色の騎士を襲う。咄嗟に盾で防ぐが、刃は盾をすり抜け、騎士の体をもすりく抜けた。
何も起こらない。そう思った途端、金色の騎士は崩れた。地に伏した1000人の兵士。無事なのはシリア、リンシアだけである。
「心配すんな。ただの魔力切れだ」
「……どうして、なぜあなたがここにいる……セベリス元帥!」
苦虫を噛み潰したような顔をした皇国元帥が、そこにいた。
「勅命だ。レオンハルト・ライネルの首を持ち帰れと」
「「なあ!?」
どうやら、ただでは終わらないらしい。
ーーーーーー
あとがき
状況が複雑になってきましたので、少し整理します
レオンハルト → 死亡?
ライネル領兵 → 帰還を目指す
皇国軍 → 分裂
帝国軍 → レオンハルトの首
セベリス元帥 → レオンハルトの首?
教国軍 → 半壊(神聖騎士団全滅)
まさに混沌!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる