不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

5話 序列戦

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 リオンの部屋が爆発する2日前。
 ディアークは相変もわらずロルフの講義を受けていた。

「ーー坊ちゃま。ディアーク坊ちゃま。聞いてますか?」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
「はぁ……では、こちらの魔導方程式を解いてみてください。それで本日の講義は終了とします」
「うーん……えぇ、そこまだ習ってないじゃん? 無理難題を出して、オレを帰さない気でしょ」
「こちらは先ほど解説したばかりの単元です。坊ちゃまなら十分解けるはずです」
「むぅ~りぅ~」
「……リオン坊ちゃまは魔導学を2週間前に終えております。弟君に負けたままでよろしいのですか?」
「はあ? また、あいつの話? てかそれ、絶対嘘じゃん。あのチビがそんなんできっこないし。オレを騙して勉強させる気でしょ」
「アイヒベルク名に懸けて、事実でございます。眷族は血族の方に嘘をつけません。家憲の講義お教えしたはずですが」
「あー、うるさいうるさい! もう帰る!」
「あ、坊ちゃま」

 ロルフの制止を振り切って、ディアークは部屋を出る。

 パタン!

 全力でドアを叩きつけるように閉めたのは、ロルフについてくるなという意思表示だろう。

(あぁもう!! うっとうしい!)

 不機嫌なことを隠しもせず、ディアークは自分の部屋に戻る。

「ディアーク坊ちゃま、如何なさいましたか? まだ講義の途中ーー」
「ジゼル!!」
「っは、はい!」
「……あいつを懲らしめろ」
「ど、どなたか坊ちゃまの不興を買いましたか? でしたらすぐに私の方からーー」
「あのリオンとかいうチビに決まってんだろ!! あいつのせいでまたロルフに怒られたんだぞ!!」
「り、リオン坊ちゃまですか? それは……」

 侍女の誰か、もしくはロルフがディアークの不興を買ったのだとジゼルは思っていた。
 しかし、まさか同じく血族のリオンだったとは。

 いくら専属侍女のジゼルでも、ディアークの気分一つでリオンを害することはできない。

「ぼ、坊ちゃま、さすがにそれはーー」
「そうだ!! 父さんの火がいい!! あいつが寝てる間に部屋に火つけてきて! どうせすぐあいつの侍女が助けに入るから、できるだけ短時間で苦しむように!!」
「っ!? 坊ちゃま、それはいくら何でもーー」
「あぁ? オレのいうことが聞けないの? 母さんに言いつけるよ」
「そ、それは……どうかそれだけはご容赦ください」
「大丈夫だって、あんな奴のこと誰も気にしないって母さんも言ってたし。じゃあ、よろしく~」
「…………」

 一人悩むジゼルを置いて、ディアークは玩具置き場へと足を運んだ。
 玩具と戯れるディアークを見て、ジゼルは一層悩まされる。

(末の坊ちゃまだからって、甘やかしすぎなのでは? このままではーー)

 ーーリオンにどんどん先をいかれてしまう

 リオンの噂は幼鳳宮でもかなり広まっており、侍女たちの間では話のタネとなっている。
 その噂の片鱗を耳にするだけで、平凡とは程遠いことはジゼルにもわかる。

(いっそうこれを利用して……)

 ジゼルの脳内を、黒い感情が支配する。

(仕方ありません。坊ちゃまの命令には逆らえませんので)

 そして、己のための言い訳を己に施す。
 それがどんな結果を招くかも知らずに。

 ◆

 リオンの部屋で爆発が起こって3日が経過した。その間、ジゼルは焦りに焦っていた。

(どういうこと!? 私が置いたのはただの遠隔点火装置。あんな爆発が起こる訳がない!)

 もともとのジゼルは暖房器具の動作不良による火災に見せかけるつもりだった。

 それ故、着火装置以外にも暖房器具の魔導回路に仕込みをしてある。詳細を調べられても、魔道具のショートに見えるように。

 しかし、その仕込みも爆発によって粉々に飛び散った。

(そのせいで大事になっちゃったじゃない!!)

 ロルフが調査に乗り出し、本家からも大勢の眷族騎士がやってくる予定だ。
 当主と第一夫人の耳に入っていてもおかしくはない。
 
 だが、今はそんなことは重要ではない。

(落ち着け、落ち着くのよ私。私がリオン坊ちゃまの部屋に入ったのは誰にも見られてないはず。痕跡も仕込みも爆発で消し飛んだ。私が疑われるようなことはーー)

「ジゼル、ちょっといいです?」
「っ!? ア、アイリス?」

 必死自分を落ち着かせていたジゼルの背後から、アイリスは静かに声をかける。普段ならジゼルも気づけただろうが、リオンの件で心を乱したせいで対応が遅れた。

「て、手短に済ませてくれる? ディアーク坊ちゃまを迎えに行かなくちゃなの」
「そうなんです? 偶然ですね」
「偶然?」
「えぇ、私もリオン坊ちゃまの迎えに行くところなので、ご一緒してもよろしいです?」
「リオン坊ちゃまの? なら、一緒なはずないでしょ。今日のディアーク坊ちゃまは魔法実演見学で、第二演習場にいらっしゃるのよ?」
「いいえ、リオン坊ちゃまとディアーク坊ちゃまは今、第一演習場にいらっしゃいますですよ」
「……は?」

 アイリスが何を言っているのか理解できないジゼル。
 しかし、嫌な予感だけが全身を覆うように纏わりついてくる。

 結局ジゼルは、アイリスに言われるがまま同行し、第一演習場までやってきた。
 するとそこにはアイリスの言う通り、リオンとディアークが対峙していた。

「ディアーク坊ちゃま!?」
「ジゼル!? た、助けて!」

 ただならぬ気配を感じ取ったジゼルは、すぐさま駆け出そうとするがーー

「動くな」

 ジゼルの首には剣が、左頬には手袋をはめた掌が向けられていた。
 剣はアイリス。
 そして、掌を向けているのはリーナだった。

「リーナ殿、何の真似ですか?」
「何の真似? それは私のセリフです」
「っ!? 何が目的か分かりませんが、それを退けなさい。ディアーク坊ちゃまの前で無礼な行動は慎むように」

 ジゼルの身から、オーラが滾る。
 場合によっては無理やり突破するつもりだろう。
 それに応じるようにアイリスも剣気を発現させ、リーナはマナを纏わせる。

 まさに一触即発。

「やめろ、二人とも。序列戦の前に立会人をスクラップにするつもりか?」

 しかし、それをリオンが止める。
 リオンの命令に従いアイリスは剣を引き、リーナも掌を下ろす。

「じょ、序列戦?」
「あぁ、そちらの保護者も来たところで、そろそろ始めるか」
「お、お待ちください!! なぜ、序列戦をすることになったのです!? ディアーク坊ちゃまはまだ契約前です!」
「私も契約前だから問題ない」

 ーー序列戦

 アンブロシアの血族は、明確な序列によって上下関係が定められている。
 家門内における権限、予算額、立ち入り区域などなど、序列が高いものほどよりアンブロシアの権力を享受できる。

 そして、現在幼鳳宮にいるリオンとディアークは当然序列最下位。

 序列第九位ーーディアーク・アンブロシア
 序列第十位ーーリオン・アンブロシア

 その序列を覆すのが、序列戦なのである。

「ですが、幼鳳宮での序列戦などーー」
「前例ならあるぞ。アンブロシアに仕えるならきちんと調べておけ」

 リオンとディアークの間に立つロルフが、一歩前に出る。

「リオン坊ちゃまのおっしゃる通りです。18年前、イリアお嬢様が幼鳳宮にて双子のお二方を下して、序列三位の座を獲得されています」

 アンブロシア家長女ーーイリア・アンブロシア。

 僅か23歳の若さで第八位階に到達したアンブロシアきっての天才。
 決して覆すことができないと言われた位階の差を覆し、序列第一位だった長男を下した現序列一位。

「当時は双方の保護者、つまり専属侍女立ち合いのもとでの決闘でしたので、ジゼル嬢、貴女にこうして来ていただいたわけです」
「で、ですが当主立ち合いでない序列戦は拒否することができるはずです!! こうやって坊ちゃまに序列戦を強要するのは家憲違反です」

 ジゼルの主張も正当なものである。序列戦といえど、いついかなる時でも行えるわけではない。
 両者の合意、もしくは当主命令でなければ正式に効力を発揮しない。つまり、小細工は許されないというわけだ。

 しかしーー

「ほぉ? 家憲違反とな? だったら、幼鳳宮で私を害そうとしたお前たちは何違反なのだ?」
「っ!?」

(バレた!? いつから? いや、そもそもなぜ? 私は痕跡を一切残さなかった。だとしたら、ブラフか張ったりーー)

「張ったりなどではないぞ。疑うならロルフ先生に聞いてみると言い」
「……ジゼル嬢、これは大罪です。一眷族候補が、アンブロシアの血族に害を及ぼしたのです。本来であれば、ワタシが責任をもって貴女を速やかに処分しなければなりません」
「っ!?」

 ロルフの脅しではなく、本物の殺気をジゼルにぶつける。

 以前の小競り合いとは違い、第八位階の本気の殺気はジゼルにも耐えられないものだった。

「お、お許しを!! わ、私はただ、坊ちゃまの意に従っただけでーー」
「見苦しいですよ、ジゼル殿。アイリス殿の件ではありませんが、いくらディアーク坊ちゃまの命令といえど、主人の名誉を傷つけたのは貴女です。命をもって償うのが筋でしょう」
「っうぅ……」

 ロルフに続いて、リーナも傍でジゼルを威圧する。
 やはり、アイヒベルクの一族というべきか。

 場を支配する空気に、ディアークもジゼルも完全に委縮してしまっている。
 この場を変えられるのは、もはやリオンだけである。

「二人とも、そう脅してやるな。私はそんなことを責めるために兄上を呼び出したわけではない」
「リオン坊ちゃまがそうおっしゃるのなら」
 
 まるで示し合わせたかのように、ロルフとリーナの殺気は霧散する。

「さて、兄上、ここからが本題です」
「……ほ、本題って何だよ」
「序列戦を受けてください。そうすれば、今回の件で私から父上に奏上することはありません」
「「っ!?」」
「勿論、アイリスとリーナにも事実の一切を伏せてもらいます。二人とも」
「坊ちゃまの仰せのままに」
「右に同じく」

 指名されたアイリスとリーナは、静かに一礼する。

「さあ、どうしますか? あ・に・う・え」

 この場でリオンの提案をディアークとジゼルが断る勇気などあるはずもなく、リオンとディアークの序列戦が決定した。


 
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