不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

9話 眷族たち

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 アイリスは、もともと小さな国の小さな村で生まれた。貧しくもなく、かといって豊ともいえない平凡な生活。

 幼いながらもアイリスは、何となく自分の人生はこのまま平凡に終わっていくんだろうなと思った。普通の人と結婚し、普通に子供が生まれ、普通に老いていく。そのことに、何の疑問も持たずにいた。

 しかし、ある日。村を魔物が襲った。

 第一位階の大したことがない魔物だが、平凡な村人は成すすべなく蹂躙されるだけだった。

 アイリスの平凡な夢は、その瞬間に終わったのかもしれない。

 気が付けば、魔物の血だまりの中で、アイリスは一人ポツンと立っていた。手には血塗られた棒きれが握られ、魔物は息絶えていたのだ。

 アイリスは村を救った英雄となった。同時に、村人が恐れる怪物になったのだ。

 アイリスの噂はすぐに広まり、ついには国の騎士団にまで届いた。騎士団長は不思議な人で、才能ある若者と聞くや否や、自らアイリスに会いに来た。

 ーーこの子を、騎士にしたい

 あの日からアイリスを恐れる両親が、その提案を断るはずがない。奇しくも、アイリスの当時の年齢は、家を追われたリオンと同じ8歳。

 かくして、アイリスの平凡な村娘として物語が終わり、平凡な成り上がり騎士物語が始まった。

 平凡な村人たちからすれば、アイリスの力は強大すぎる。しかしいくら才能あっても、騎士の前では等しく子供。

 村で恐れられていた力を隠す余裕もなく、アイリスは騎士の厳しい訓練に放り込まれた。

 だが、アイリスは嬉しかったのだ。アイリスには、周りの騎士たちは皆化け物に見えたのだ。ここは村とは違う。こここそが、怪物である自分の居場所だと。そう喜んでいた。

 しかし、それもつかの間。アイリスの才能はあまりにも眩しかった。

 10年もしないうちにほとんどの騎士を倒し、残るは騎士団長のみ。そんな騎士団長だが、年齢を理由に引退。そして後継者に、アイリスを指名した。

 史上最年少の騎士団長の誕生である。周りは祝ってくれたが、その目は見おぼえるのあるものだった。

 結局、ここでもアイリスは怪物だったようだ。

 かくして、一人寂しい怪物の平凡な成り上がり物語が幕を下ろした。

 物語は終われど、人生は続く。

 アイリスは騎士団長として、見事に勤めを果たしていた。
 怪物だった頃のとげとげしさはなりを潜め、信頼される団長を演じていた。
 友人も部下もでき、そのうち恋人も作り平凡な騎士として生涯を終えるだろう。

 そう思っていた。

 だが、アイリス想いは三度蹂躙された。

 敵国との戦争。撤退戦の最中、敵国の騎士団に急襲を受け、アイリスを残して団は全滅。
 信頼していた友人も、慕ってくれる部下もすべて、その戦で命を落とした。

 敗戦の責任を取り、アイリスは解任。
 騎士団を失った小国は、そのまま戦争に敗れた。
 戦争に敗れた小国は、隣の小国に吸収され、そこそこ小さな国に生まれ変わった。

 後になって分かったことだが、平民上がりのアイリスを目障りに思っていた自国の貴族が敵国に撤退ルートの情報を流していたらしい。その貴族は、新しい国でも重用されたそう。

 初めて聞かされた時は復讐に燃えたが、それも失敗に終わる。
 だが、ボロボロになりながらも、アイリスしぶとく生き残っていた。それだけの力は、アイリスにはあった。

 ーー結局、私はただの怪物。人間のふりなんて、できっこない

 こうして流浪の騎士、刃幕の騎士が生まれた。

 ーー怪物は怪物らしく、するのが一番

 だが、そう思ったのもつかの間。わずか2年後に、アイリスは本物の怪物にである。

 ーーひと振りだった

 いや、そもそも剣を振ってもいなかったかもしれない。
 何も分からない、何も見えない。それほどまでの力の差があった。

 それがアイリスとヨーランの初めての出会いだった。

 その後、アイリスはヨーランに拾われ、アンブロシアに身を寄せることとなった。そしてそこで、本物の化け物たちを目の当たりにし、戦慄と共に安堵を覚えた。

 井戸の中の蛙が、大海を知った瞬間である。

 アイリスがヨーランに拾われて2年が経過すると、ヨーランの5番目の子供、リオンが生まれた。

 その場にアイリスも立ち会っていたが、まるで雷に打たれたかの衝撃を覚えたのだ。

(きゃわわわわわわ!? て、天使!?)

 その瞬間に、刃幕の騎士は死んだのかもしれない。

『アイリス、この子のこと抱っこしてくれる?』

(わわわ、ど、どうしよう!? 私が触れてもいいのかな? 壊れない?)

 ためらいながらも、アイリスはリオンを懐に抱っこする。

 するとリオンはつぶらな瞳でアイリスを見つめる。そして、その小さな手をアイリスに向かって伸ばす。

 その瞬間、アイリス直感する。

(私は、この方にすべてを捧げるために生まれたのか)

 三度外れたその予感。しかし、今度こそ確かなのだとアイリスは確信していた。

 これが、平凡な村娘が平凡に成り上がり、非凡な道を歩み始めるまでの物語である。
 

 ◆

 アイヒベルク家はアンブロシア家の分家であり、代々教育係を務めてきた一族。

 雛教育はもちろん、契約後に必要となる剣術、魔法、座学の一切を指導する。

 また、契約後の雛鳥はそれぞれの宮殿を持つことになるが、そこで働く人材たちの育成もアイヒベルクの使命。

 そんなアイヒベルク家で生まれたリーナは、アンブロシアの分家らしい才能を見せていた。それこそ、一部の直系にも劣らないほどの才覚を。

 齢20歳にして、第六位階。壁にぶつかって久しいが、その年齢なら第八位階までは確実と言われている。

 ーーアイヒベルクの才女

 リーナの名は、アンブロシア本家にまで届いていた。何人かの直系からの眷族になる誘いが来ていたが、若さを理由に断っていた。

 実際のところ、リーナ本人が仕えるに値しないと判断したのだが。アンブロシアの直系の中でも、自身より優れているのは長女のイリアだけだと、リーナは思っていた。

 そんなエリートコースをひた走るリーナ。第七位階に至れば、すぐにでも眷族騎士の育成係を任されることになっていた。

 リーナも、それを望んでいた。

 しかし、ある日の訓練中にそれは起こった。

「リーナ、少し来なさい」

 そうリーナを呼び止めたのは、リーナの従姉に当たる人だった。何事かとついて行くと、前家長のロルフ・アイヒベルクが待っていた。

 そこで告げられたのは、リオンの教育係として幼鳳宮に赴くように、という人事だった。

 当然、リーナは反発した。

「納得できません!! なぜ、私が雛教育などを!!」
「口を慎みなさい、リーナ。血族の方々の指導こそがアイヒベルクの使命。その他はすべて瑣事に過ぎません。それを履き違えないように」
「ですが!!」

 若く才能あるアイヒベルクにありがちなことだが、雛教育を軽んじている節がある。

 それもそのはず。アンブロシアの雛教育といえど、8歳にも満たない子供の教育だ。進んでいるとはいえ、学園でいえば中等部から高等部の教育に相当する。

 アイヒベルクが教わり、教えるのはそのさらに上。一般的な学園では学ぶことができないような内容。

 世界屈指の教育名門。その誇りをリーナも持っていた。

「……その御勤め、私でなくても構わないと思いますが?」
「いや、貴方でなければならなりません。というより、貴女以外にリオン坊ちゃまの教育係が務まる人材は、このアイヒベルクにはいないのです」
「はい? それはどういう……」
「リオン坊ちゃまを前にしても折れない才能は貴女だけ、ということです」

 それからロルフが口にしたのは到底人間とは思えない、物語の登場人物かと思われるほどの異端だった。

「…………」

 当然、リーナもはじめは信じなかった。なまじ天才と呼ばれただけあって、人間という生物の限界を知っていたのだ。

 だが、ロルフはこう続けた。

「それは貴女自身の目で確かめなさい。ただし一つだけ、よく覚えておきなさい。リオン坊ちゃまと接する時は、常識に囚われてはいけません。いいですね? リーナ、リオン坊ちゃまの指導は貴女に一任します。その意味をよく考えるように」

 そう言われ、半信半疑のままリオンのもとを訪ねたリーナ。

 それほどの才能だというのなら、すぐにでも雛教育を済ませアイヒベルクに戻ろう。そう思っていた。

 しかしーー

「失礼いたします」

 入室した途端、自分の認識が甘かったことをリーナは知ることとなる。

 普通の2歳児はどうか、リーナは知らない。片言で会話し、拙いながらも歩くことができ、追いかけっこや積み木で遊んでいるのかもしれない。

 しかし、目の前にいる幼子は一体なんだろうか。

 椅子に腰かけ、手には万年筆を。机には書類と魔導書が積まれており、今にも書類に何かを書き込んでいる様子だった。

 リーナが入ってくることで手を止め、こちらを静かに見つめている。その年齢にして既に王の風格と漂わせていた。

 不死鳥の血を引くアンブロシアは早熟傾向にあるのは知っているが、ここまでの者は果たしていただろうか。

「お初にお目にかかります。リーナ・アイヒベルクでございます」

 リオンの教育が始まって、リーナはあることに気づいた。

(この方は、既に雛教育の範囲を全て習得したのではないでしょうか?)

 そう思えてならなかった。しかし同時に、それを否定する気持ちも自分の中にはあった。
 
 得体のしれない何かが、ような不気味さがあった。

 そして同時に、教育者としての心が躍った。

(この方は、どこまで成長するのでしょうか?)

 いつの間にかリーナは、その果てを拝めたい。そう思い始めていた。

「リオン坊ちゃま。恐れながら、私の方から一つ提案させてもよろしいでしょうか?」

(雛教育などしている場合ではありません。私はこの方をーー)

 ロルフの命令とは関係なしに、リーナがリオンに深くはまった瞬間であった。
 

 
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