不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

11話 成長

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 リオンが5歳の年。

 リオンは既に『オーラ運用初級』及び『剣気運用初級』を習得しており、苦手な『マナ運用初級』に挑戦している。

 アイリスには大量の霊薬をオークションで競り落としてもらい、少しずつ使用している。

 奇跡の大樹がもたらした最初の樹液。
 万病を癒し、不朽の体を形作る神の雫。
 ――エリクシア。

 太古の酒匠が愛した最高の一品。
 幾千年間地下で眠り、大地の龍脈を飲み干した悪魔の一杯。
 ――セーラ酒

 天に最も近い峰に舞い降りた天女。
 姫と星の愛がもたらした純粋な雫は口にした者を不老不死へと誘う。
 ――月若水をちみづ
 
 史上最高の薬師が追い求めた奇跡の薬。
 五種の霊薬からなるそれは天人てんにん五衰ごすいすら跳ね除けるという。
 ――五金散薬ごきんさんやく

 由来などは眉唾なものも多いだろうが、それらに込められている魔力は本物である。

「坊ちゃま、堪えてください!」
「霊薬の力が強すぎです!! 私の方で一部――」
「いけません、アイリス嬢!!」
「で、でも、坊ちゃまが……!」
「分かりませんか? 今、坊ちゃまは第二位階目前です。ここで手助けしては、坊ちゃまの頑張りは全て無駄に……どうか……堪えてください、坊ちゃま!!」
「リオン坊ちゃま……」

 苦しむリオンを見ていられないと、思わず逸れてしまう目をそれでもリオンの方へ向けるアイリス。
 アイリスを窘めながらも、下唇を噛み必死にこらえるリーナ。

 そんな二人の声は、苦痛にもがくリオンの耳には届いていない。

 大量の魔力が体内を駆けまわり、今にもリオンをバラバラに裂こうとしている。
 実際、既に裂かれている部分も多い。しかし、壊れた傍から再生させるハリヴァスの体はそれを許さない。

 無限の破壊と無限の再生が、リオンの小さな体で起こっていた。

(これしき、あの時と比べれば……!!)

 この地獄の苦しみが二時間が続いたころ。
 突然、リオンは苦痛から解放される。

「……はぁ、はぁ、はぁ……終わった、のか?」
「「坊ちゃま!?」」

 痛みから解放され、よろめくリオンを二人はすかさず支える。

「第二位階、おめでとうございます! リオン坊ちゃま!!」
「坊ちゃまぁ!! リオン坊ちゃまあああ!!」

 興奮しか顔つきでリーナはリオンを見つめる。
 一方アイリスはリオンの懐に飛び込み、泣きじゃくっていた。

 感情の表した方は対照的だが、二人共リオンを祝福していた。

 アイリスの頭を撫でながら、リオンは一息つく。

「ふぅ……」
(凄まじい効果だな、霊薬。第二位階になったばかりだというのに、もう第三位階が見えてきた)

 今のリオンの魔力量は、第三位階直前にまで高まっていた。
 ありふれた霊薬の魔力を余すことなく吸収できたおかげだろう。

(これなら、何とか間に合いそうだ)

 ジファとの契約日が、刻一刻と迫っていた。

 ◆

 リオンが6歳の誕生日を迎え、いよいよ契約まであと2年。

 魔力はまだ第二位階だが、着実に増えつつある。
 第三位階に至るのも時間の問題だろう。

 5歳の年でリオンは、苦戦しながらも『マナ運用学初級』を習得。その後、『魔力運用学中級』もようやく終了し、各派生クラスの中級へと進んだ。

 中級ともなれば、そう簡単には習得できない。
 リオンでさえ『魔力運用学中級』を終了させるのに2年の歳月を要した。

 今から始めても、契約までに終わるかギリギリだろう。
 一層厳しくなる訓練。だがリオンはそれを楽しんでいた。

「はぁ、はぁ、はぁ」
「坊ちゃま。本当に剣の修行はなさらなくてもいいんです?」
「はぁ、はぁ、はぁ……あぁ、体作りが最優先だ。だから、剣気ではなく、オーラを優先させた」

 ランニングを続けながら、リオンとアイリスは会話を交わす。
 本来アイリスまで走る必要はないのだが、本人の意思でリオンのトレーニングに付き合っている。

 現在のリオンは、午前中は魔力運用学。午後は体作りの特訓を続けている。

 夕方まで3時間程度体作りをし、夕方から日が暮れるまでひたすら走り込みをする毎日。

 筋繊維が壊れるまで鍛え、倒れるまで走る。
 たらふくご飯を食べ、深夜まで商いの仕事をこなす。
 そして夜は気絶するように眠る。

 オーバーワークにもなりかねない日々だが、生憎リオンの体は特別製。
 これほど無茶をしても、翌日には全て回復している。
 そして無茶をした分、体は強くなる。

(坊ちゃま……本当に、逞しくなられて……!!)

 走りながらも感涙を流しそうになるアイリス。
 そんなアイリスの胸中を知るはずもなく、リオンは一定の速度で走り続ける。

 しかし直後に、リオンはペースを緩め、足を止める。

「坊ちゃま?」
「客だ」
「??」

 アイリスからタオルと受け取り、リオンは汗を拭きとる。
 
 一刻後。

「りおん兄さま!!」
「セーラお嬢様!! お待ちください。そんなに走っては転んでしまいます!」

 たどたどしい足取りではあるが、リオンの下へ走る少女が一人。

 アンブロシア家四女――セーラ・アンブロシア

 リオンの4つ下の妹である。
 先日契約の儀を済ませ、幼鳳宮を離れたディアークを入れ替わるようにやってきた新しい住人。

「兄さま、兄さま!!」
「申し訳ございません、リオン坊ちゃま。お嬢様、リオン坊ちゃまの邪魔になってしまいます。さぁ、帰りましょう」

 専属侍女がセーラを窘め、セーラが僅かにしょんぼりした顔を見せる。

「いや、構わない。ちょうどトレーニングが終わったところだ。セーラ、おいで。少し遊ぼう」
「ほんとに!? やったぁ、兄さま大好き!!」

 いつもならもう1時間ほど走り込んでいたが、それは言わぬが花だろう。

「兄さま兄さま。しゃがんで」
「ん? こうか?」

 リオンは言われるがままに膝をつき、セーラと目線を合わせる。

 すると、セーラは背後に隠した何かを取り出し、ぽんとリオンの頭に乗せた。

「セーラがつくったの。兄さまにあげる」
「これは、花冠か?」
「じょうずでしょ? えへん」

 胸をはるセーラ。
 その光景にリオンは思わず笑みがこぼれ、セーラの頭に手を乗せる。

「ありがとう、セーラ。大事にする」
「うむ、そうしたまえ」
「……誰に習ったんだ、それ?」
「りおん兄さま!!」
「…………」

 リオンは無言でセーラの専属侍女とアイリスに目を向ける。
 しかし、何故か二人とも目を合わせてくれない。
 アイリスに至っては半笑いである。

「はぁ、今後は言動に気を付けるよ」
「きをつける!!」

 セーラは第二夫人ヨーランの子ではなく、第一夫人イザベラの子であり、いずれはリオンと敵対関係になるかもしれない。

 勿論、アンブロシアでは親が誰であれ争うことは求められるが、それでも第一夫人と第二夫人の子は相容れないことが多い。

(セーラもいつか、アンブロシアに染まるのか……)

 一抹の寂しさを感じながらも、リオンはこの束の間の平和を楽しむことにした。

「アイリス。これを物体保存の魔道具に保存して、私の部屋に飾っておいてくれ」
「リオン坊ちゃまがついに、シスコンに!?」
「喧しい」

 ◆

 光陰矢の如し。
 ついにリオンの契約日まで、残すはあと一日となっていた。

 半年前、リオンは第三位階を突破し、『オーラ運用学中級』、『剣気運用学中級』を終了させた。

 予定よりもかなり駆け足となったが、目標は達成した。

 第三位階を突破してからリオンは、契約へ向けて着々と調整を進めてきた。

 ランクは低いが純粋な霊薬で魔力量を底上げ。
 契約の際に必要となる血液を事前に溜め込んだ。
 
 歳月は立ったがセーラとの関係も良好であり、未だに兄として慕ってくれている。

「兄様、もう行かれるのですか?」
「あぁ。明日の正午までには不死宮に居なきゃいけないからな。正直今出発しても結構ギリギリだ」
「……兄様、私……兄様ほどにはなれないかもしれませんが、私、頑張ります!! また外の世界で、お会いした時に、褒めていただけるように」
「セーラはよくやっている。雛教育も、随分と進んでいるそうじゃないか」

 セーラの頭を撫で、そっと抱き寄せる。
 寒くなり始めた時期ということもあり、両者の間には分厚い服装の壁があるが、それでもセーラの心の音はよく聞こえる。
 
「兄様は、もっと凄かったと、聞いています」
「比べる必要はない。自分なりに頑張ればそれでいい」
「……ふふ、兄様に言われても説得力はありませんね」

 リオンの胸に顔を埋めるセーラ。
 ポツリ、一言。

「行かないでほしい」
「……」
「兄様はきっと、私の知らない間にどんどん先へ行ってしまいます。いつの間にか、私の知らない兄様になっていきます」

 か細い声で、セーラは心境を吐露する。
 リオンはどうすることもできず、ただ立ち尽くす。

 する突然、セーラはリオンを突き放す。

「ごめんなさい兄様。つい弱音を。困らせるつもりはなかったんです」
「…………」
「どうか、お元気で。行ってらっしゃいませ!」

 先ほどの弱々しさをまるで感じさせない凛々しい表情で、セーラはリオンを見送る。

「あぁ、行ってくる」

 リオンの方も振り返り、歩み出す。

「セーラ」

 しかし途中で立ち止まり、振り返らずに一言。
 
「外で待ってる。その時は、俺の知らないセーラを見せてくれ」
「っ!? はい!!」

 そのやり取りを最後に、今度こそリオンは幼鳳宮を立った。

 ◆

 天を駆ける鳳車。
 不死鳥の血を引く亜種――フェニックスが引くその鳳車はアンブロシアの基本的な移動手段である。

 そんな鳳車の中で、リオンは窓から外の風景を眺める。

「はぁ、情けない」

 セーラに『行かないでほしい』と言われた時、リオンも少しだけ心が揺れた。

「結局、妹に背中を押されたわけだ」
「リオン坊ちゃま……」
「っふ、見っともないオチはつけられないな」
 
 いざ、不死鳥契約へ。


 
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