不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

12話 不死鳥契約

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 アンブロシア家の本拠地は大陸最北端に位置するミュートス山脈。

 無数にそびえる巨峰の頂点に、不死鳥たちの宮殿がある。
 リオン達が住んでいた幼鳳宮。
 当主リカードが治める灼炎宮。
 アンブロシア家における後宮に当たる月ノ都。
 他の血族も各々の宮殿を有しており、基本そこから出ることはない。

 だが、それでも皆が一堂に集う場はある。
 
 ――雛鳥の不死鳥契約。

 初代当主の不死宮で行われるのが慣例となっているその行事には、当主含め血族は一堂に会する。

 上座には当主リカード。
 第一夫人イザベラと第二夫人ヨーランはその脇を固め、以後序列順に血族が着座していた。

 その中でもとりわけ凄まじい覇気を纏う人物が三名。

 アンブロシア家長女。
 第一席イリア・アンブロシア。
 
 アンブロシア家長男。
 第二席ウィルヘルム・アンブロシア。

 アンブロシア家次男。
 第三席ヨルク・アンブロシア。

 を除いた現アンブロシア家三強である。
 
 ウィルヘルム、ヨルクは共に人類の限界・第九位階に到達しており、その場に座るだけで空気が一段も二段も重く感じさせる。

 一挙手一投足が破壊の権化であり、吐息だけで場の気温をも変化させる。

 そんな二人よりもさらに上座に座るのが――

 ――アンブロシア家序列第一位イリア・アンブロシア。

「二人とも、そう怖い顔をするな。弟との初対面だろ?」
「黙れ。貴様の家族ごっこに俺を巻き込むな」

 当主リカード譲りの黒髪と、第一夫人イザベラ譲りの赤い虹彩。
 鋭い目つきで視線を一点固定したまま微動だにしない尊大な男ーーウィルヘルムはいかにも面倒そうに膝を組み着座していた。

「家族ごっことは心外だな。私は二人共家族だと思っているぞ」
「心にもないことを」
「本心さ」

 上位二人の会話に、下位のアンブロシアは肝を冷やす。
 ただの会話でも、二人は無意識に言霊を使っている。この場にいる弱者が居れば、それだけで意識を失っているだろう。

 実際、第十席のディアークは既に脳が揺らされ、意識が混濁としつつある。だが、そんな二人をたしなめられるはずもなく、皆口を噤んでいた。

 一人を除いて。

「二人ともその辺に。弟たちが委縮する」
「俺に弱者に気遣えと? いつからお前は俺に命令できる立場になったんだ、ヨルク」

 アンブロシア家第三席ヨルク・アンブロシア。
 最上位の二人に次ぐ、アンブロシア家のNo.3。

 第二夫人ヨーランの血を引く彼は、イリア同様青みかかった銀髪をしているが、瞳は当主とも第二夫人とも異なり灰色かかっている。

 ウィルヘルムとは異なり、足を組むことなく開き、そんな両膝に肘を乗せて前のめりに座っていた。
 
「別に。ただ、目立ちたがりもほどほどにして欲しい。今日の主役は僕たちじゃない」
「笑わせる。たかが八男の契約日に主役を論じるとは」
「リオンはまだなの?」
「俺を閑卻するとはいい度胸だ。貴様の墓には『弁別なき匹夫』と書記そう」

 身を微動だにさせず、魔力のみ高ぶらせるウィルヘルム。
 途端、不死宮が揺れる。
 応じるようにヨルクもオーラを身に纏う。

 僅かな所作で、山頂の気流さえ変化する。少しの衝突だが、天変地異の形相を呈していた。

 それでも当主リカードはそれを止めない。
 これがアンブロシアなのだ。

「あわわわわ」

 揺れる不死宮にディアークはあたふたする。すぐにでも逃げ出したいが、失礼に当たることを恐れ何とか堪える。
 こういった場に遭遇するのが初めてのせいで、どう対処すべきか分からないのだ。

 しかし他の兄妹たちは慣れているようで、表情を一切変化させずにオーラを纏う。

「はっはっは。発言がいちいち小物臭いぞ、ウィルヘルム。部屋に籠ってるおかげで小難しい言い回しを覚えたか?」

 イリアに至っては、ウィルヘルムを煽り出す始末。
 
 事態はまさに一触即発。

 だがそこで、不死宮の門が開かれる。

「随分と、物騒な雰囲気ですね。お待たせしてしまったかな?」

 八歳とは思えない言動。
 この場にも恐れず足を踏み入れる度胸。
 噂を以上だと、イリアはニヤリと頬を歪ませる。

 アンブロシア家八男。
 序列第九位――リオン・アンブロシア、入室。
 
 リオンが入室した途端、不死宮は金色の炎に包まれる。
 焔の不死鳥・リカードの力である。

 焔の道はリオンを祭壇の中央へと誘い、ここでようやく当主リカードは言葉を発する。

「始めよう」

 その一言だけで、ウィルヘルムを含む血族たちは口を噤むほかなかった。

 ◆

 不死鳥契約。

 アンブロシアの血を呼び水に、世界の裏側に住まう不死鳥を現世に呼び出す儀式。
 
 不死鳥以外でも契約の儀式は広く用いられており、ハリヴァスの龍騎士団などは異界より竜を召喚し契約を行う。

 だが、不死鳥契約ほど特別な血を求めるものはない。

「只今より、アンブロシア家八男。序列第九位。リオン・アンブロシア様の契約の儀を執り行う」

 進行役の老人がそう口にすると、漆黒の器を持った黒装束の集団が不死宮へと入る。

 器は計13個。そのうち12個は同じ大きさだが、先頭の男が持つ器だけ一際大きく、盃のような形状をしていた。

凰盃おうはいを13個とは。生意気な」

 ウィルヘルムが忌々しそうにそう漏らす。

 十三個の器には、赤黒い液体がたっぷりと注がれていた。
 リオンの血である。
 事前に魔道具によって状態が保存された新鮮な血液。
 不死鳥契約ではそれらを用いて召喚陣を描くのだ。

 器の数は契約者自身で選択できるが、当然数が増えれば増えるほど必要な血液は増え、契約者の負担が増える。

 だがメリットもある。

 血が多ければ多いほど、不死鳥が住まう世界との通り道は広がる。すなわち、より多くの不死鳥の目に留まるということ。
 故に盃の数が増えれば触れるほど、自らの才能の自信がある現れとされている。

 ウィルヘルムの契約では盃が9個、イリアの契約では盃が12個用いられた。

 リオンはそれをさらに上回る13個。
 
 もちろん目に留まるだけでは意味はない。
 だが、才ある者には不死鳥たちも喜んで契約を結ぶ。
 かつては一人の契約者を巡り、不死鳥同士で争いにまで発展したこともある。

 閑話休題。

 黒装束の集団は粛々と召喚陣を完成させていき、先頭の男は空っぽとなった盃を召喚陣の中央へ置いた。

 瞬間、黒装束の集団は霧と化して姿を消す。
 それが合図となり、リオンは召喚陣の中央へと足を進める。

 始めに掛け声した老人は小さなナイフを取り出す。

「リオン・アンブロシア様。準備は宜しいか?」
「あぁ」

 左手を差し出すリオン。
 すると老人はリオンの人差し指を切り裂き、そこから熱気を伴う鮮血が溢れる。
 傷が塞がらないよう指を剣気で傷つけなら、リオンは器に血液を注ぎ込んだ。

 ポタ、ポタ、ポタ。

 待つこと数分。しかし、何も起こらない。
 さらに待つこと数分。だが、やはり何も起こらない。

 場の雰囲気は、徐々に不穏なものへと変化していく。

 ヨーランの表情はどんどん暗くなり、リカードの顔つきも徐々に厳しいものへと変化する。
 
 リーナは信じられないと言わんばかりに目を見開き、アイリスは手で口を塞ぎ震えていた。
 
 上座からは、ウィルヘルムが虫けらを見るような目をリオンを見下ろす。

 ポタ、ポタ、ポタ。

 滴り落ちる雫の音だけが不死宮に響く。
 
 まさに、静寂の空間。

「とんだ無駄足だったな」

 その静寂を切り裂いたのは、ウィルヘルムの声だった。

「もう良いだろ。終いだ」

 立ち上がり、その場を離れようとするウィルヘルム。

 儀式は失敗だ。そう言いたいのだろう。

 儀式に失敗した者はアンブロシアではない。アンブロシアでない者には毛虫ほどの興味も示さない。

 それがウィルヘルムという男である。

「お待ちください、です!!」

 不死宮内に響き渡るほどの怒号。
 皆が声の主に視線を集める。
 
 思わずそう叫んだのは、リオンの侍女・アイリスである。

「まだ、儀式は終わってないです!! リオン坊ちゃまなら必ず――」

 リオンを思っての行動だ。私欲は一切混じっていない純粋な感情だった。
 しかし、それはいけない。
 ここはアンブロシアなのだ。

「貴様。誰が発言を許した?」
「っう!?」

 刹那、不死宮に闇が訪れた。
 光の一切が失われた完全な闇である。

「っあ」
「逝ね。虫が」

 全ての闇がまるで意思を持ったかのように、一斉にアイリスに襲い掛かる。
 夜の帝王が放つ一撃。第六位階程度のアイリスには防ぐことも、避けることも許されない。
 ただ、死ぬことが許される。

 しかし――
 
「黙れ、ウィルヘルム」

 一瞬、瞬きにも満たないほどだが闇が揺らぐ。その揺らぎを突くように、銀色の剣気が襲う。
 少しだけ、夜が晴れる。

 リカードでも、ヨーランでも、イリアでもない。

 誰もが目を疑うその光景は、一人の少年によって作り出された。
 
 契約の主、がウィルヘルムに牙を剥いたのだ。

「出しゃばるな。今は私のターンだ」

 不死宮は静まり返る。
 途端、不死宮が揺れ悍ましい魔力が場を支配する。
 先ほどよりも遥かに濃い闇が、不死の宮殿を包み込んだ。

 ――『夜の不死鳥』の顕現である。

 血族は皆自身の身を守るためにオーラを纏う。
 一部の守護騎士さえ息ができず膝をつく。
 
「三寸の舌に五尺の身を滅ぼす。放言には責任が伴うぞ、小僧」

 契約中だろうとお構いなし。
 この場でリオンを殺すことにウィルヘルムは何のためらいもないだろう。

 だが――

「くっくっく、ははははは。いやはやさすがは私の弟だ。肝が座ってる」
「ッチ、貴様」
「まあそうくなウィルヘルム。部屋に籠りすぎたせいで気まで短くなったか? だからもっと陽を浴びろと言ったのだ。どれどれ、私が手伝ってやろう」

 夜を振り払うように、眩しい太陽が不死宮を照らす。

 ――『太陽の不死鳥』の顕現である。

「リオンはまだ諦めていない。最後まで見届けろ、ウィルヘルム」
「指図するな、イリア。そこを退け。さもなくば、貴様もここで殺すぞ」
「できもしないことを吠えるな。お前こそその放言の責任は取れるのか?」

 一触即発。
 第一席と第二席の衝突だ。
 その余波だけで死人が出かねない。

 さすがのリカードも止めに入ろうとしたその瞬間――

『騒々しい。何の騒ぎ?』

 が、静止した。

 
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