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第一章 不死鳥契約
13話 鳳凰主
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――アンブロシアの不死鳥契約。
不死鳥の契約者は特定の条件下での不死が約束されている。
まさに至高の力。
当主リカードなら原初の四属性・焔が条件に当たる。
焔の不死鳥と契約を交わしているリカードは、どんな傷を負おうと焔を纏い再生する。
アンブロシア家の血族は契約後、不死鳥の力を極めるべく己が道に突き進む。
故にリカードは、魔法の名門ライフォス家・五塔主の一人『炎魔』を抑え、当代最強の火属性魔法使いとして名を馳せている。
ところで、不死鳥の契約者は完全なる不死か?
答えは否である。アンブロシアにも避けられない死は確かに存在する。
もちろん不死の条件を満たせない場合、アンブロシアの血族でも呆気なく死ぬだろう。
だがそれ以上の死因は、アンブロシアにつきまとう呪いは――寿命である。
それだけは、アンブロシアでも避けられない運命である。
しかし、それを乗り越えた者がいるとしたら?
人類の限界、第九位階を突破した人外ならどうだろうか?
その答えは――
◆
『騒々しい。何の騒ぎ?』
時が静止した。
『ぶわぁ……ねっむ。はぁ、寝覚め最悪』
不死宮の上空から響き渡るその声に、皆が耳を傾けていた。
否、傾けさせられていた。
まるで金縛にでもあったかのように、当主含め全てのアンブロシアが静止したのだ。
『んーざっと百年ぶり、かな? 知らない顔ばっか。あはっ、ウケる』
こんなことができる人間を、当主リカードは知っていた。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありません。クロノス様」
クロノス・アンブロシア。
『時の不死鳥』の契約者にして、アンブロシア最強の一角。
鳳凰主の一人である。
――鳳凰主
死の概念を、寿命の呪いを超越したアンブロシアはいるのかどうか。
その答えとなる存在。
彼ら、あるいは彼女らは人類の限界を突破し、文字通り不死の存在へと昇華した。
永遠にも等しい寿命を手に入れた鳳凰主は等しくアンブロシアの内政から身を引き、自らの趣味へと身を投じる。
彼らと相まみえる機会は、極希。
現在のアンブロシア家では、その存在を目の当たりにしたことがあるのは当主リカードのみ。
今日この日までは。
『へぇー、ボクの「時杭」の中でも話せるんだぁ。あんた、やるね。名は?』
「アンブロシア家当代家長。リカードでございます」
『知らない名だね。テル坊の子か?』
「テルセウス先々代なら、オレの祖父になります」
『ほぇ、もうそんなに経つの? まさに「光陰矢の如し一寸の光陰軽んずべからず」だね。まあ、ボクには関係ないけど』
途端、不死宮の祭壇の前に白髪の少年が現れる。
リオンのそばに立つと、まるで同い年だと思えるほど少年は幼い。
金色の虹彩をちらつかせ、白いオーラを纏いながら少年は進む。
彼こそが、アンブロシア家・鳳凰主。
天上の六座の第二座に身を置く存在。
時の不死鳥の契約者――クロノス・アンブロシアである。
時の不死鳥と契約した彼は、契約時から時が止まっており、姿は八歳のまま。
だがその実は、リカードなどよりもはるかに長い時を生きたアンブロシアの頂点である。
『ソレイヌとノクスの契約者かな? 血気盛んなのは良いけど、契約中はダメだよ』
イリアとウィルヘルムを横切って一言。
そのままクロノスはリカードさえ飛び越え、不死宮の最奥へと足を進める。
瞬間、何もなかったはずの虚空から六つの王座が姿を表す。
その左から二番目。
最もシンプルな純白の玉座の、クロノスは腰を下ろす。
『さぁ、続けな?』
時が、再び動き出した。
◆
クロノスの出現によりウィルヘルムはもちろん、リカードさえも不用意な発言が許されなくなった不死宮。
そんな中で、一滴また一滴とリオンは血液を溢す。
あれからさらに十分が経過する。
静寂そのものと化した不死宮に、クロノスの声が響く。
『ぶわぁ……なるほど。これは確かに、つまらないね。暴れたくなる気持ちもわかるかな』
途端、その場にいる全員の背筋が凍る。
『あと一分。それで終わりにしよう』
「そんな……」
思わず言葉がこぼれるアイリスだが、クロノスは見向きもしない。
『安心しなよ。契約できなかった時はボクの手で殺してやろう。生き恥を晒すことはないさ』
何もないかのようにクロノスはそう告げる。
それはまさに、死刑宣告である。
だがそれを受けて、リオンはニヤリと笑う。
「奇遇ですね。私も丁度、飽きてきた頃だ」
刹那、進行役の老人の手に握られていたナイフは消え、代わりにリオンはそれを握っていた。
「ちまちまとやるのは性に合わないと思っていたところです……!!」
次の瞬間、リオンは自らの動脈を切り裂いた。
「「坊ちゃま……!?」」
溢れ出る鮮血先ほどの比ではない。
10倍、否100倍以上の速度で盃に血が溜まっていく。
だが、それで止まるリオンではない。反対側の手首も掻っ切り、両手を差し出す。
『おや? こりゃ豪快だ』
クロノスも面白がるように前のめりとなり、行末を見届ける。
「坊ちゃま!! それではあまりに出血が……!!」
アイリスとリーナは不安な表情を浮かべるも、二人にできることは何もない。
時が、刻一刻と流れる。
だがそれでも、クロノスの宣言から30秒と経っていない。
時間の流れがひどくゆっくりと感じるのだ。
(クソ……!! これでもまだ、足りないというのか。ジファ!!)
大量の出血と過度なストレスで、リオンは一瞬よろめく。
「「坊ちゃま!?」」
リオンは膝をつくも、盃のふちへつかまり倒れることなく縋り付く。
『うーん、根性があるのはいいけど……どうだかなぁ……はぁ、もういいや。終わり――っ!?』
クロノスが終わりを宣言しようとした瞬間、銀色のオーラがリオンを包む。
「「「っ!?」」」
そんなリオンの背後には、小さな翼が生えていた。
その羽毛は白銀。
一切濁りのない白銀の翼だ。
だが、その翼はあまりにも小さい。
正面からではリオンの背中に隠れてしまうほどの小ささ。
――それでも、契約成功に違いはない。
クロノスのほうをちらりと見るリカード。
するとそこには先ほどまでの穏やかな表情は消え、感情の一切を読み取れない鉄仮面だけがあった。
それを見て一瞬ためらうも、リカードは言葉を発する。
「これをもって、リオンの契約の儀を終了とする。歓呼せよ! 喝采せよ! 新たなアンブロシアの誕生を祝福せよ!!」
リカードの宣言とともに血族は一斉に立ち上がり、眷族は喝采を送った。
だが、すでに限界を迎えたリオンは、そんな声援を聞くことはできない。
「リオン坊ちゃま……!!」
倒れこむリオンのもとへ、アイリスが真っ先に駆け付け支える。
続いてリーナも駆け込む。
「お疲れ様です。坊ちゃま……よく、よく頑張りましたです」
「ご契約、おめでとうございます……!! リオン坊ちゃま」
すでに眷族へ内定している二人は、リオンの契約を心から祝福した。
「よくやった、リオン。アンブロシアの一員としてお前を迎え入れよう」
一歩前へ進み、リカードはリオンに告げる。
「幼鳳宮を出た雛鳥は、本家から三つの援助を受ける習わしとなっているが……今の様子では無理か。後日書類にて――」
「お待ち、ください……父上」
よろめきながらリオンは立ち上がる。
意識はすでに混濁としているが、それでもこれだけは言わなければならない。
「二つ、使わせてください……」
三つある援助の内、二つをこの場で使いたいというリオン。
「アンブロシアが所有する……転移門の使用と、禁書庫への立ち入りを」
その言葉を最後に、リオンは気を失った。
◆
気を失ったリオンはすぐさまアイリスらによって運び出された。
その光景を見届けた血族達はその場にとどまり、思い思いに気持ちを吐き出した。
「兄者。どうみる?」
「どげんもこげんも、論外やろあれは」
「そりゃそうか。あれだけ血を捧げたのにあんな矮小な翼じゃあね。それだけ血が薄いってことかな」
アンブロシア家三男。
序列第四位――アルバート・アンブロシア
アンブロシア家四男。
序列第五位――ベルハート・アンブロシア
二人は第一夫人の子であり、アンブロシア家唯一の双子である。
その容姿は瓜二つであるが、髪色だけは異なっている。
アルバートの方はリカード由来の黒髪であるのに対し、ベルハートの方はイザベル譲りの金髪である。
「ッチ、転移門の方はともかく、禁書庫の立ち入りだと? つくづく生意気な奴め。僕でさえまだ数えるほどしか入ったことないのに……!!」
アンブロシア家六男。
序列第八位――カール・アンブロシア。
双子同様イザベラの子であるが、二人と違いウィルヘルムの信奉者でもある。
ウィルヘルムへの無礼を誰よりも気にしている故、リオンへ敵愾心を剝き出しにしている。
「父上、まさか本当にあいつに禁書庫への立ち入りを許可するおつもりですか? 本家の支援といっても限度ってものがあります!!」
カールの訴えに関しては、リカードも頭を悩ませていた。
――アンブロシアの禁書庫
計六階層からなるそれはアンブロシアの歴史そのものであり、ありとあらゆる事象が収められているという。
むろんその立ち入りは許可制であり、定められた層以外は近づくことすら許されない。
歴史書、剣術本、魔導書などなど。世界最高峰の知識がそろえられている。
中には鳳凰主たちの著書も多く含まれているという。
リカード自身も第五層までしか入ることができず、リオンの立ち入りをどこまで許すかが肝心となっている。
ちなみに、アンブロシアの上位三席は第四層までは足を踏み入れることができる。
その他の血族はまちまちではあるが、概ね第二層どまりである。
閑話休題。
リオンの件でリカードが悩んでいると――
『いいんじゃない? 五階までなら。ボクが許そう』
クロノスがそう言葉を発する。
「よろしいのですか?」
『んー、まあ。五階までなら婆やの許可もいらないし、いいよ』
「……承知いたしました」
クロノスが許可を出した以上、リカードがとやかくいうことは何もない。
しかし、それに納得できない者も。特に、六男のカールは面白くないと感じただろう。
「お、お待ちください!! そんな、たかが第九席が五層までだなんて……!! 前例のないことです。どうかご再考――」
『君の発言を許した覚えないかな』
一瞬で、カールの時が静止する。
『ボクがいいといったんだ。文句は言わせない』
その言葉とともに、クロノスは立ち上がる。
『じゃあ、ボクはこれで帰るよ。バイビー』
そんな軽いノリで、破壊の化身は不死宮を後にする。
不死宮を出た途端、先ほどまで鉄仮面だったクロノスの頬がこれでもかと吊り上がる。
(まさかジファが来るとは……!! 早起きして正解も正解、大正解だ! 前回は逃したけど、今回なら間に合いそうだ)
『烽火連天。獣蹄鳥跡。今回もなかなか……一荒れしそうだね。あはっ』
不死鳥の契約者は特定の条件下での不死が約束されている。
まさに至高の力。
当主リカードなら原初の四属性・焔が条件に当たる。
焔の不死鳥と契約を交わしているリカードは、どんな傷を負おうと焔を纏い再生する。
アンブロシア家の血族は契約後、不死鳥の力を極めるべく己が道に突き進む。
故にリカードは、魔法の名門ライフォス家・五塔主の一人『炎魔』を抑え、当代最強の火属性魔法使いとして名を馳せている。
ところで、不死鳥の契約者は完全なる不死か?
答えは否である。アンブロシアにも避けられない死は確かに存在する。
もちろん不死の条件を満たせない場合、アンブロシアの血族でも呆気なく死ぬだろう。
だがそれ以上の死因は、アンブロシアにつきまとう呪いは――寿命である。
それだけは、アンブロシアでも避けられない運命である。
しかし、それを乗り越えた者がいるとしたら?
人類の限界、第九位階を突破した人外ならどうだろうか?
その答えは――
◆
『騒々しい。何の騒ぎ?』
時が静止した。
『ぶわぁ……ねっむ。はぁ、寝覚め最悪』
不死宮の上空から響き渡るその声に、皆が耳を傾けていた。
否、傾けさせられていた。
まるで金縛にでもあったかのように、当主含め全てのアンブロシアが静止したのだ。
『んーざっと百年ぶり、かな? 知らない顔ばっか。あはっ、ウケる』
こんなことができる人間を、当主リカードは知っていた。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありません。クロノス様」
クロノス・アンブロシア。
『時の不死鳥』の契約者にして、アンブロシア最強の一角。
鳳凰主の一人である。
――鳳凰主
死の概念を、寿命の呪いを超越したアンブロシアはいるのかどうか。
その答えとなる存在。
彼ら、あるいは彼女らは人類の限界を突破し、文字通り不死の存在へと昇華した。
永遠にも等しい寿命を手に入れた鳳凰主は等しくアンブロシアの内政から身を引き、自らの趣味へと身を投じる。
彼らと相まみえる機会は、極希。
現在のアンブロシア家では、その存在を目の当たりにしたことがあるのは当主リカードのみ。
今日この日までは。
『へぇー、ボクの「時杭」の中でも話せるんだぁ。あんた、やるね。名は?』
「アンブロシア家当代家長。リカードでございます」
『知らない名だね。テル坊の子か?』
「テルセウス先々代なら、オレの祖父になります」
『ほぇ、もうそんなに経つの? まさに「光陰矢の如し一寸の光陰軽んずべからず」だね。まあ、ボクには関係ないけど』
途端、不死宮の祭壇の前に白髪の少年が現れる。
リオンのそばに立つと、まるで同い年だと思えるほど少年は幼い。
金色の虹彩をちらつかせ、白いオーラを纏いながら少年は進む。
彼こそが、アンブロシア家・鳳凰主。
天上の六座の第二座に身を置く存在。
時の不死鳥の契約者――クロノス・アンブロシアである。
時の不死鳥と契約した彼は、契約時から時が止まっており、姿は八歳のまま。
だがその実は、リカードなどよりもはるかに長い時を生きたアンブロシアの頂点である。
『ソレイヌとノクスの契約者かな? 血気盛んなのは良いけど、契約中はダメだよ』
イリアとウィルヘルムを横切って一言。
そのままクロノスはリカードさえ飛び越え、不死宮の最奥へと足を進める。
瞬間、何もなかったはずの虚空から六つの王座が姿を表す。
その左から二番目。
最もシンプルな純白の玉座の、クロノスは腰を下ろす。
『さぁ、続けな?』
時が、再び動き出した。
◆
クロノスの出現によりウィルヘルムはもちろん、リカードさえも不用意な発言が許されなくなった不死宮。
そんな中で、一滴また一滴とリオンは血液を溢す。
あれからさらに十分が経過する。
静寂そのものと化した不死宮に、クロノスの声が響く。
『ぶわぁ……なるほど。これは確かに、つまらないね。暴れたくなる気持ちもわかるかな』
途端、その場にいる全員の背筋が凍る。
『あと一分。それで終わりにしよう』
「そんな……」
思わず言葉がこぼれるアイリスだが、クロノスは見向きもしない。
『安心しなよ。契約できなかった時はボクの手で殺してやろう。生き恥を晒すことはないさ』
何もないかのようにクロノスはそう告げる。
それはまさに、死刑宣告である。
だがそれを受けて、リオンはニヤリと笑う。
「奇遇ですね。私も丁度、飽きてきた頃だ」
刹那、進行役の老人の手に握られていたナイフは消え、代わりにリオンはそれを握っていた。
「ちまちまとやるのは性に合わないと思っていたところです……!!」
次の瞬間、リオンは自らの動脈を切り裂いた。
「「坊ちゃま……!?」」
溢れ出る鮮血先ほどの比ではない。
10倍、否100倍以上の速度で盃に血が溜まっていく。
だが、それで止まるリオンではない。反対側の手首も掻っ切り、両手を差し出す。
『おや? こりゃ豪快だ』
クロノスも面白がるように前のめりとなり、行末を見届ける。
「坊ちゃま!! それではあまりに出血が……!!」
アイリスとリーナは不安な表情を浮かべるも、二人にできることは何もない。
時が、刻一刻と流れる。
だがそれでも、クロノスの宣言から30秒と経っていない。
時間の流れがひどくゆっくりと感じるのだ。
(クソ……!! これでもまだ、足りないというのか。ジファ!!)
大量の出血と過度なストレスで、リオンは一瞬よろめく。
「「坊ちゃま!?」」
リオンは膝をつくも、盃のふちへつかまり倒れることなく縋り付く。
『うーん、根性があるのはいいけど……どうだかなぁ……はぁ、もういいや。終わり――っ!?』
クロノスが終わりを宣言しようとした瞬間、銀色のオーラがリオンを包む。
「「「っ!?」」」
そんなリオンの背後には、小さな翼が生えていた。
その羽毛は白銀。
一切濁りのない白銀の翼だ。
だが、その翼はあまりにも小さい。
正面からではリオンの背中に隠れてしまうほどの小ささ。
――それでも、契約成功に違いはない。
クロノスのほうをちらりと見るリカード。
するとそこには先ほどまでの穏やかな表情は消え、感情の一切を読み取れない鉄仮面だけがあった。
それを見て一瞬ためらうも、リカードは言葉を発する。
「これをもって、リオンの契約の儀を終了とする。歓呼せよ! 喝采せよ! 新たなアンブロシアの誕生を祝福せよ!!」
リカードの宣言とともに血族は一斉に立ち上がり、眷族は喝采を送った。
だが、すでに限界を迎えたリオンは、そんな声援を聞くことはできない。
「リオン坊ちゃま……!!」
倒れこむリオンのもとへ、アイリスが真っ先に駆け付け支える。
続いてリーナも駆け込む。
「お疲れ様です。坊ちゃま……よく、よく頑張りましたです」
「ご契約、おめでとうございます……!! リオン坊ちゃま」
すでに眷族へ内定している二人は、リオンの契約を心から祝福した。
「よくやった、リオン。アンブロシアの一員としてお前を迎え入れよう」
一歩前へ進み、リカードはリオンに告げる。
「幼鳳宮を出た雛鳥は、本家から三つの援助を受ける習わしとなっているが……今の様子では無理か。後日書類にて――」
「お待ち、ください……父上」
よろめきながらリオンは立ち上がる。
意識はすでに混濁としているが、それでもこれだけは言わなければならない。
「二つ、使わせてください……」
三つある援助の内、二つをこの場で使いたいというリオン。
「アンブロシアが所有する……転移門の使用と、禁書庫への立ち入りを」
その言葉を最後に、リオンは気を失った。
◆
気を失ったリオンはすぐさまアイリスらによって運び出された。
その光景を見届けた血族達はその場にとどまり、思い思いに気持ちを吐き出した。
「兄者。どうみる?」
「どげんもこげんも、論外やろあれは」
「そりゃそうか。あれだけ血を捧げたのにあんな矮小な翼じゃあね。それだけ血が薄いってことかな」
アンブロシア家三男。
序列第四位――アルバート・アンブロシア
アンブロシア家四男。
序列第五位――ベルハート・アンブロシア
二人は第一夫人の子であり、アンブロシア家唯一の双子である。
その容姿は瓜二つであるが、髪色だけは異なっている。
アルバートの方はリカード由来の黒髪であるのに対し、ベルハートの方はイザベル譲りの金髪である。
「ッチ、転移門の方はともかく、禁書庫の立ち入りだと? つくづく生意気な奴め。僕でさえまだ数えるほどしか入ったことないのに……!!」
アンブロシア家六男。
序列第八位――カール・アンブロシア。
双子同様イザベラの子であるが、二人と違いウィルヘルムの信奉者でもある。
ウィルヘルムへの無礼を誰よりも気にしている故、リオンへ敵愾心を剝き出しにしている。
「父上、まさか本当にあいつに禁書庫への立ち入りを許可するおつもりですか? 本家の支援といっても限度ってものがあります!!」
カールの訴えに関しては、リカードも頭を悩ませていた。
――アンブロシアの禁書庫
計六階層からなるそれはアンブロシアの歴史そのものであり、ありとあらゆる事象が収められているという。
むろんその立ち入りは許可制であり、定められた層以外は近づくことすら許されない。
歴史書、剣術本、魔導書などなど。世界最高峰の知識がそろえられている。
中には鳳凰主たちの著書も多く含まれているという。
リカード自身も第五層までしか入ることができず、リオンの立ち入りをどこまで許すかが肝心となっている。
ちなみに、アンブロシアの上位三席は第四層までは足を踏み入れることができる。
その他の血族はまちまちではあるが、概ね第二層どまりである。
閑話休題。
リオンの件でリカードが悩んでいると――
『いいんじゃない? 五階までなら。ボクが許そう』
クロノスがそう言葉を発する。
「よろしいのですか?」
『んー、まあ。五階までなら婆やの許可もいらないし、いいよ』
「……承知いたしました」
クロノスが許可を出した以上、リカードがとやかくいうことは何もない。
しかし、それに納得できない者も。特に、六男のカールは面白くないと感じただろう。
「お、お待ちください!! そんな、たかが第九席が五層までだなんて……!! 前例のないことです。どうかご再考――」
『君の発言を許した覚えないかな』
一瞬で、カールの時が静止する。
『ボクがいいといったんだ。文句は言わせない』
その言葉とともに、クロノスは立ち上がる。
『じゃあ、ボクはこれで帰るよ。バイビー』
そんな軽いノリで、破壊の化身は不死宮を後にする。
不死宮を出た途端、先ほどまで鉄仮面だったクロノスの頬がこれでもかと吊り上がる。
(まさかジファが来るとは……!! 早起きして正解も正解、大正解だ! 前回は逃したけど、今回なら間に合いそうだ)
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