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第3話 自己紹介をする

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《有間愁斗―視点》

 ミニストップの駐車場に車を停めて。

「飲み物でも買ってるよ。何がいい?」
「えっと……水がいいです、……では行ってきます」
「ああ、うん。ゆっくりでいいからね」

 車から降りた彼女は小走りでマンションへ向かった。
 このまま帰ってこない、なんてないよな。

 今日待ち合わせした駅は俺がいつも行くスーパーの近くで、今いるミニストップも近い。そして俺の家も近所だ。
 電車で来ると思って駅で待ち合わせにしたが、まさかご近所だったとはな。

 俺は外に出て自分の車を見詰める。

 初めて女の子を乗せてしまった。やはりあのアプリ、本物なのかもしれない。
 ただそうなると逆に頑張らないといけない気がする。なるべく楽しんでもらわないと。アプリで洗脳し嫌々付き合わせるって、ちょっと良心が痛む。
 彼女の顔、素っ気ないというか無表情だった。まぁいつもクールな感じだが……、俺に彼女を楽しませることができるのだろうか?

 それと、デートが終わったらアプリをアンインストールしよう。もし本物なら今日の彼女の記憶は消えてしまうが、それで良いだろう。
 ずっと傀儡するなんて俺にはできないし、いつかスマホが壊れたら取り返しのつかないことになる。

 そんなこと考えているとあの子が戻ってきた。

 肩口まで鎖骨の見える胸元の広い白シャツに細いサスペンダー付のベージュ色のスカート。肩とウエストが細いからそのコーデがよく似合っている。
 髪はバイトの時はいつも後ろで縛っているが、今日は下ろしていて、セミロングでストレートの柔らかそうな黒髪が背中まで伸びている。そして今日はちゃんと化粧している。化粧すると更に大人っぽくなってヤバい。
 滅茶苦茶可愛いな。マジでどうなってんだよこの可愛さ。

 足元を見るとサンダルがスニーカーに変わっていた。バッグも手持ちの小さいやつから肩掛けの少し大きいものになっている。

 彼女は俺の座る運転席の前を足早に通り過ぎ、助手席側に回って扉を開けた。

「すみません。お待たせしました」
「うんん、全然大丈夫。靴変えたの?」
「歩き難くと思いまして。あ!えっと、後ろに座った方がいいですか?」
「後部座席?あ、いや助手席でいいよ。あと、これ」
 と俺は500ミリのペットボトルを彼女に手渡した。

「ありがとうございます……。あ、お金……」
「いやいや、そんなのいらないよ。じゃ出発するね」
「はい……、あの、ありがとうございます」

 相変わらず表情が硬い。
 取り敢えず自己紹介くらいしといた方がいいよな……。




《砂月紫陽花―視点》


 運転も普通で基本的に安全運転。これなら安心して乗っていられる。
 変なところに連れ込まれたらどうしようと、少し心配していたけどカーナビ通り目的地に向かっている。大丈夫よね……。

 この人の名前も歳も知らないのよね。見た目は20代前半って感じだけど実は40歳くらいだったらもうお父さんじゃん!まぁいくらなんでもそれはないか……。それに彼女いないって言ってたけど、でも以前、仲良くなった人もいないって言ってて、嘘だった。

 暫く無言で走って信号待ちのタイミングで。

「あの」「ところで」

 お互い同時に口を開いた。

「あの……、先に言ってください」
「あ、ああ、よかったら俺の自己紹介してもいいかな?」
「え!?はい、お願いしますっ!」

 今名前と歳、聞こうと思っていたから食い付いてしまった。は、恥ずかしい。

「俺、名前は有間愁斗《ありましゅうと》って言います」

「はい」

 ありましゅうとさんね。ありまさん。よし覚えた。

 で? ん? え? それだけ?
 もっと他に言うことあるよね?

「とと、歳はいくつなんですか?」
「25歳だよ」
「私より7つ上ですね」

 良かった!お父さんじゃなくて……、でも結構年上なのね。
 私みたいな年下で大丈夫かな?ロリコンなら大丈夫だと思うけど?ロリコンなんですか?

「えっ!18歳ってことは、もしかして高校生!?」

「違いますよ。誕生日10月ですから。高校生がよかったですか?」
「いやまさか。高校生じゃなくてよかったよ……」
「高校生だったら犯罪でしたね?」
「ははは、確かにね……。急いで引き返してた」

 焦る姿が面白くて少し笑ってしまった。

「俺は6月生まれだから学年だと6こ違うのか……、歳上だけど気は使わなくていいからね。全然タメ口でいいし。ちょっと小バカにしてもいいからさ」

 それ逆にハードル高いよ!
 有間さんは運転しながら楽しそうに話す。雰囲気は悪くないかな。

「じゃぁ今は学生?」
「はい。短大に通っています」
「そうなんだ。俺は工場で設備設計とかメンテの仕事してるんだ」
「理系なんですね?」
「そだね。工業高校、工業大学で仕事も機械いじり。ははは……」
「出会いなさそうですね」
「そうなんだよ。女子とグループで遊ぶことはあったけど、基本、周りはバイクや車が恋人みたいな男ばっかりで女っ気なかったなぁ」
「ふーん」

 本当に彼女いなそうね。

「君は短大でどんな勉強してるの?」

 君?

「保育士の授業を取ってます……あの、私の名前、砂月紫陽花《さつきしおか》って言います」
「さつき…しおか、名字が名前みたいな……」
「あっ、それよく言われます。さつきちゃんって名前だと思ってたとか、ふふふ」
「うんうん。名字しか知らなかったらそうなりそう。しおかって珍しいけど、どんな漢字なの?」
「紫陽花《アジサイ》って漢字です」
「アジサイって紫、太陽の陽、花だっけ……」
「合ってます」
「へぇーめっちゃいい名前じゃん!砂月さんの親、センスいいね!」

 そんな良い名前かなぁ?まぁ珍しい名前かもしないけど。

「お父さんが付けたんですよ」
「お父さんのセンスえっぐ!天才だなぁ~」
「えっと、バカにしてますか?」
「いやいや、してないって!本当に可愛い名前だと思ったから」
「ぷ、ふふふ。そうですか。あの、普通ですよ。うちのお父さん」

 可愛い名前って言われた。それに親を褒められるのは悪い気がしない。

 車は高速道路に入る。ここまで渋滞はなく順調に進んでいる。

 それから私達はお互いの会社や学校の話なんかをした。
 有間さんの話しには悪口や嫌味がなく、聞いていて心地よかった。私の話もちゃんと聞こうとしてくれて話易い。



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