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第21話 ボイスレコーダー
しおりを挟む《有間愁斗―視点》
シャワーを浴び目が覚めて、あの子の名前を思い出した。あの乳は麻莉ちゃんだ。だが何故、俺の家で寝ているのかは思い出せない……まさか家に連れ込んでヤっちゃった?
シャワーを終えた俺は音を立てず脱衣所へ移動。服を着ようと思ったがよく考えたら服は寝室にある。
あの子が起きてたら気不味いから服は昨日のを着て……。
さっき着てた服を手に取ると所々にゲロが付いていた。
うわ、なんだコレ、汚いな。どおりで気持ち悪く感じて風呂に入ったわけだ。
……そう言えば俺、昨日吐いたよな。その時、横に麻莉ちゃんがいて……。
取り敢えず、パンツとシャツは一昨日洋食屋に着て行ったヤツを――、夜しか使っていないから綺麗だ。
《砂月紫陽花―視点》
チャイムを鳴らしても中から音がしない。
電話してみようかな……。
バックからスマホを取り出して電源を入れた。
あれ?昨日送ったLINEに既読が付いている。
昨日は1時くらいにメッセ送ったから寝ちゃったのかと思ったけど……。
今見ると、この写真ほんと恥ずかしい。勘違い女だよね……。有間さん、ちょっとエッチな写真だと喜ぶと思って送っちゃったけど、深夜のテンションってほんと恐い。返信ないし今になって後悔だよ。
LINE見てまた寝ちゃった?
私、合鍵持ってるし勝手に入って起こしちゃおうかな?……隣で一緒に寝ちゃう?ちょっと横になるくらいなら怒られないよね。でもベットで一緒に寝たら襲われちゃうかな……、男の人って朝は硬くなるらしいし。
うーん、どうしよう……。
合鍵くれたってことは勝手に入っても大丈夫だとは思うけど……。よし。
「有間さーん、不法侵入しちゃいますよ~」
そう言ってから私は合鍵で玄関を開けた。
《有間愁斗―視点》
服を着て脱衣所からリビングへ出ようとしたタイミングで玄関のドアがガチャと音を鳴らした。
「有間さーん、不法侵入しちゃいますよ~」
脱衣所の扉の向こうで砂月さんがリビングに入ってくる音が聞こえる。
鍵見付かったのか?
俺は脱衣所の扉に耳を当てた。
「寝てるのかな……、寝室、失礼しますね~……」
寝室には有間さんじゃない人が寝てるんだよ。しかもパンツ一枚で……。
「きゃ!え!?有間さんが女の子に……、TSしちゃったっ!!」
いや、なにその勘違い!?
有間さんここにいるよ!
「あれ……しお」
「麻莉ちゃん……、え!じゃあ……、有間さんと麻莉ちゃんが入れ替わった!?」
「何でそうなるのよ!」
と麻莉ちゃんに突っ込まれた。
◆
その後、脱衣所に隠れていてもすぐにバレると悟った俺は姿を表し、麻莉ちゃんには俺の部屋着を着てもらった。
麻莉ちゃんの服は洗ってベランダに干してあった。
現在俺達はリビングにいる。砂月さんがソファーに座り俺と麻莉ちゃんは床に正座。
砂月さんは黒のTシャツにデニムパンツでバイトスタイルである。午後からバイトだからそのまま行く積りだったのだろう。
「浮気したってことですか?」
砂月さんは悲しそうな顔で呟いた。
「そうなんじゃない?」
麻莉ちゃんが平然と答る。
俺はきつく目を閉じた。
「すまん……」
「酷いよ……」
砂月さんの目からポロポロと涙が溢れる。
ヤバい、まじでヤバい。なんとかしないと!
「うっ……昨日たくさん……大好きって、うっ……えっく……、言ってくれたのに……嘘吐き……」
「そんなこと言ったのぉ~?キモーい」
ああ、言ったよ。恥ずかしいくらい。
麻莉ちゃんが横で茶化すが、泣いた砂月さんを前に俺はそれどころではなかった。
好きな女の涙とは、ここまで破壊力があるものなのか?心臓が締め付けられるような苦しさだ。
「砂月さん……、き、昨日、飲み会にこの子が来て、俺かなり酔っ払って……家に帰った記憶がないんだ……。居酒屋を出た後、駅前ロータリーの縁石に座って、仕事の先輩に一人で帰れるか聞かれたから大丈夫って断ったのは覚えてるんだけど……。浮気したかどうかはわからない。ほんうにごめん……」
「麻莉ちゃん……裸で寝てたし……、絶対に浮気したよ……」
砂月さんは泣きながら呟くように言う。
「まぁ男なんて浮気する生き物だからね。もうこんなヤツ別れちゃいなよ。しおにはあたしがいるじゃん」
麻莉ちゃんは安定のふてぶてしい態度である。
「えっく、うぅ……、麻莉ちゃんとは絶交する。……麻莉ちゃんのバカ」
そう言われて、麻莉ちゃんの顔は青ざめた。
俺は浮気したのだろうか?ヤってたら流石に覚えていると思うが……。服だって脱いでなかったし。
砂月さんは泣きながら。
「うっ……、えっく……有間さんとは、別れたくないよ……。私……、悪いところ直すから、えっく……麻莉ちゃんに行かないで……えっく……」
俺が振るみたいな流れになってるけど、悪いのは俺で普通逆だろ。
「砂月さんに悪いところなんてないよ!俺が好きなのは砂月さんだけで、俺も別れたくない……」
どの口が言ってるんだって話だけど、それくらいしか言えなかった。
暫し沈黙してから。麻莉ちゃんがバックから何かを取り出す。
「はぁー、浮気してないよ。証拠はコレね」
「それは?」
俺が尋ねると麻莉ちゃんはニヤリと笑う。
「ボイスレコーダー。50時間連続録音可能だから昨日の夜から今この瞬間までの会話が全て録音されてる。スマホのアプリで再生できるけど、聞く?」
「聞きたい……」
と呟くように砂月さん
「聞かせたら、あたしと絶交しない?」
「絶交する」
「じゃぁ聞かせない」
「意地悪……、聞いてから考える」
「んー、それでいいよ。愁斗君は大丈夫?かなり恥ずい発言連発してたけど……」
俺は何を言ったんだ?ただ、この状況で選択肢はない。
「再生してくれ」
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