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9章
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目的の集落までは、丸一日という話だった。
僕はそう聞いていたのだが、実際は半日で走破した。徐々にスピードが上がっていって、気がついたら駆け出していたのである。
足を緩めようものなら横からユウヒが「そんなものかー」とでも言いたそうな顔で見てくるし、とてもではないが後れを取るわけにはいかなかった。
集落についた時にはもう一歩も動けない状態ではあったが、夕刻につけたので一晩ぐっすり休むことができたのは助かった。これが昼前後についていたなら、休む間もなく調査に出なければならなかったかもしれないから、よかったのかもしれない。
翌朝、ユウヒと僕は、集落の人たちから聞いた、問題の獣のいるという地点に向かった。
移動している可能性もあるが、とりあえず調査はそこからになる。
集落の人たちからは、その獣に関しての情報はあまり聞けなかった。見慣れない、みたことがない、としきりに言っていたところから、このあたりには今までいなかった獣であることは確かなようだ。
正確な情報は欲しいが、得体のしれないものには近づかないというのは大事なことだ。こちらから近寄らなければ何らかの犠牲が出ない場合は多く、そのためにいるのが冒険者だからだ。時折、村の力自慢的な若者が無謀にも突っ込んでいって被害が出ることもあり、そのあとに到着しようものなら風当たりが強くて大変面倒なことになる。
それでも、得た情報が役に立てばいいのだが、ほとんどは的外れな情報しか聞くことはできない。逆に、詳細な情報を話す方が当てにできないものだ。思い込み、先入観、そういったもので、見た記憶を上書きしていたりするからだ。
なので、集落で情報が得られなくても、僕たちにやることに変わりはない。獣を見つけ、対処するだけだ。
あまり人の手が入っていない森を、極力音が立たないように気を付けて進む。
とはいえ、ある程度音はどうしてもしてしまうのだが、僕は訓練を受けたのでかなり音を抑えることができる。驚いたことに、ユウヒも同じくらい音を立てずに行動できるのだ。
自分で言うのもなんだが、なみの冒険者にできることではない。
このギルド、マスターであるカリンは言わずもがなだが、ハルといいレインといいユウヒといい、並外れた冒険者がそろいすぎてやしないか? どういう基準で集められたんだろう。偶然というには、少々出来すぎている気がする……。
ふと森の中にそれまでの様相と違う部分を見て取り、僕は足を止めた。
少し先の茂みが……なんだろう、枯れている……? いや。燃えカスか?
黒っぽく見えるのは、距離がまだあるのではっきりとは見えないが、茂みが燃えた後のように見えた。
ユウヒも気が付いたようで、同じ方向を見て眉をしかめている。
それもそのはずだ。
こんな森の中で、火を使うことはまずない。この近くにはあの集落しかなく、誰かが通りすがるような地形でもない。
となれば、あの燃えカスは……。
より慎重に歩みを進め、周囲の草むらの様子を確かめる。
燃えたらしい茂みの近くに、何かが這ったような、不自然な草むらの隙間を発見した。草が倒れている向きからすると、ここから移動していったように思える。
近くで改めて確認すると、やはり茂みが燃えたのは間違いない。周囲に燃え広がらなかったのは、幸運なことだった。
倒れている草の上を身を低くして進む僕の後ろを、同じような姿勢でユウヒもついてくる。
これは……やはり、僕は試されてるのかな。
それからしばらく進むと、少し開けた場所が見えてきた。草が倒れているのも、そちらの方向だ。
草が倒れているということは、体高が低いということだ。それなりの高さのある獣ならば、ここまで草が倒れていることはない。そして、可能性として火を使う……もしくは吹く、ここらあたりでは見慣れない、見たことがない獣。
僕の中ではいくつかの候補があった。
その中でも、当たってほしくない部類に入る獣が、そこにはいた。
「火トカげか……」
冒険者の中で使われる、吐息にに声を乗せる伝声法で、ユウヒに話しかける。心得たもので、ユウヒも同じようにして相槌を返してきた。あまり遠くだと聞こえないが、この距離だと十分に伝わる。
火トカゲといっても、その大きさはかなりある。全体は赤黒い鱗で覆われ、長い尻尾は今は体の前の方でおとなしくしている。いざ戦闘になると、この尻尾が厄介なのだ。今は火トカゲが眠っているから、じっとしてくれているが。
「さて、どうする?」
ここにきても、まだ僕を試すつもりのようだ。僕が対処を誤っても、自分が何とかできる自信があるからだろう。
火トカゲから目を離さず、僕は自分の考えを口にした。
「起きられると厄介だ。一撃で仕留めたい」
ふむ、とユウヒは首を傾げた。
「まだずいぶん距離があるようだけど、気が付かれずにできるかな?」
くそぅ、あくまでも手伝う気はないってことか。
「できるだけ気が付かれないように、進む。気が付かれたら、そこで仕留める」
「それしかないだろうね」
ユウヒも頷いたので、作戦ともいえない作戦を決行することになった。
僕はそう聞いていたのだが、実際は半日で走破した。徐々にスピードが上がっていって、気がついたら駆け出していたのである。
足を緩めようものなら横からユウヒが「そんなものかー」とでも言いたそうな顔で見てくるし、とてもではないが後れを取るわけにはいかなかった。
集落についた時にはもう一歩も動けない状態ではあったが、夕刻につけたので一晩ぐっすり休むことができたのは助かった。これが昼前後についていたなら、休む間もなく調査に出なければならなかったかもしれないから、よかったのかもしれない。
翌朝、ユウヒと僕は、集落の人たちから聞いた、問題の獣のいるという地点に向かった。
移動している可能性もあるが、とりあえず調査はそこからになる。
集落の人たちからは、その獣に関しての情報はあまり聞けなかった。見慣れない、みたことがない、としきりに言っていたところから、このあたりには今までいなかった獣であることは確かなようだ。
正確な情報は欲しいが、得体のしれないものには近づかないというのは大事なことだ。こちらから近寄らなければ何らかの犠牲が出ない場合は多く、そのためにいるのが冒険者だからだ。時折、村の力自慢的な若者が無謀にも突っ込んでいって被害が出ることもあり、そのあとに到着しようものなら風当たりが強くて大変面倒なことになる。
それでも、得た情報が役に立てばいいのだが、ほとんどは的外れな情報しか聞くことはできない。逆に、詳細な情報を話す方が当てにできないものだ。思い込み、先入観、そういったもので、見た記憶を上書きしていたりするからだ。
なので、集落で情報が得られなくても、僕たちにやることに変わりはない。獣を見つけ、対処するだけだ。
あまり人の手が入っていない森を、極力音が立たないように気を付けて進む。
とはいえ、ある程度音はどうしてもしてしまうのだが、僕は訓練を受けたのでかなり音を抑えることができる。驚いたことに、ユウヒも同じくらい音を立てずに行動できるのだ。
自分で言うのもなんだが、なみの冒険者にできることではない。
このギルド、マスターであるカリンは言わずもがなだが、ハルといいレインといいユウヒといい、並外れた冒険者がそろいすぎてやしないか? どういう基準で集められたんだろう。偶然というには、少々出来すぎている気がする……。
ふと森の中にそれまでの様相と違う部分を見て取り、僕は足を止めた。
少し先の茂みが……なんだろう、枯れている……? いや。燃えカスか?
黒っぽく見えるのは、距離がまだあるのではっきりとは見えないが、茂みが燃えた後のように見えた。
ユウヒも気が付いたようで、同じ方向を見て眉をしかめている。
それもそのはずだ。
こんな森の中で、火を使うことはまずない。この近くにはあの集落しかなく、誰かが通りすがるような地形でもない。
となれば、あの燃えカスは……。
より慎重に歩みを進め、周囲の草むらの様子を確かめる。
燃えたらしい茂みの近くに、何かが這ったような、不自然な草むらの隙間を発見した。草が倒れている向きからすると、ここから移動していったように思える。
近くで改めて確認すると、やはり茂みが燃えたのは間違いない。周囲に燃え広がらなかったのは、幸運なことだった。
倒れている草の上を身を低くして進む僕の後ろを、同じような姿勢でユウヒもついてくる。
これは……やはり、僕は試されてるのかな。
それからしばらく進むと、少し開けた場所が見えてきた。草が倒れているのも、そちらの方向だ。
草が倒れているということは、体高が低いということだ。それなりの高さのある獣ならば、ここまで草が倒れていることはない。そして、可能性として火を使う……もしくは吹く、ここらあたりでは見慣れない、見たことがない獣。
僕の中ではいくつかの候補があった。
その中でも、当たってほしくない部類に入る獣が、そこにはいた。
「火トカげか……」
冒険者の中で使われる、吐息にに声を乗せる伝声法で、ユウヒに話しかける。心得たもので、ユウヒも同じようにして相槌を返してきた。あまり遠くだと聞こえないが、この距離だと十分に伝わる。
火トカゲといっても、その大きさはかなりある。全体は赤黒い鱗で覆われ、長い尻尾は今は体の前の方でおとなしくしている。いざ戦闘になると、この尻尾が厄介なのだ。今は火トカゲが眠っているから、じっとしてくれているが。
「さて、どうする?」
ここにきても、まだ僕を試すつもりのようだ。僕が対処を誤っても、自分が何とかできる自信があるからだろう。
火トカゲから目を離さず、僕は自分の考えを口にした。
「起きられると厄介だ。一撃で仕留めたい」
ふむ、とユウヒは首を傾げた。
「まだずいぶん距離があるようだけど、気が付かれずにできるかな?」
くそぅ、あくまでも手伝う気はないってことか。
「できるだけ気が付かれないように、進む。気が付かれたら、そこで仕留める」
「それしかないだろうね」
ユウヒも頷いたので、作戦ともいえない作戦を決行することになった。
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