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8章
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ことが起こったのは、一羽の鳥がヒナタのもとに戻ってきてからだった。
ユウヒとアサヒが帰還してきて、少しは村の雑用が減るのかと思ったら、彼らは休養中とのことで、一切村の依頼を手伝おうとはしなかった。
アサヒなどは、手伝いもしないくせについてくるだけはついてきて、手際が悪いだの愛想がないだの笑顔が硬いだの、仕事に関係のないことにまで口を出してくる。鬱陶しいことこの上ない。
しかし、アサヒにしてみれば、しばらく仕事で留守にしていた間に、ヒナタに同居人ができて、しかもそれが男であれば絡みたくなるだろう。だからといって、おとなしくやられっぱなしになるつもりはないが。
僕とヒナタの同居については、アサヒの猛反対があったものの、ほかに部屋が空いてないので続行となっている。
アサヒがならば自分がヒナタと……と言い出したりもしたが、これはヒナタ本人が却下した。
どうしても僕とヒナタの同居をやめさせたいのなら、僕とアサヒが同室になるという案も出たが、こちらはアサヒが激しく拒絶。僕としても承服できる話ではない。
いや、別にヒナタと同室がいいというわけではなく、ただでさえアサヒに絡まれてうんざりしているのに、自室でまで絡まれたくないというか……。
アサヒはそれでも文句を言いたそうではあったが、ユウヒの「マスターの決定である!」の一言でしぶしぶ引き下がってくれた。
それでも、時折恨めしそうな視線を向けてくるから、正直なところ依頼で再びどこかに行ってくれるのならありがたいところだ。
と、思っていたのだが。
「僕も一緒に?」
問いに、ユウヒがにこやかにうなずいた。
なんでも、ここに戻る前に、カリンから頼まれていたのだそうだ。ギルドに帰還して、もし次の依頼が舞い込むようなら、僕を連れて行ってほしい、と。
戻ってきた鳥は、王都のギルドに預けていたもののようで、一通の手紙を運んできていた。その内容は、ここライズの村から東の方にある集落から、緊急の依頼が届いたことが書かれていた。ちょっとめずらしい大型の獣がその村付近に居ついてしまい、小型の草食獣とかを捕食していて、本来それを捕食していた獣たちが集落に現れてきているということだ。
今はまだ大きな影響はないが、被害が出る前に何とかしてほしい、とのことである。
王都のギルドとしてはわざわざ出向くのは面倒くさいが無視することもできないので、手近なところにいるこちらに回してしまえばいいや、といったところか。まぁ、これがカリンの言う持ちつ持たれつの関係なのだろう。このギルドに所属したからには、マスターのやり方には従わなければならない。
僕がユウヒとともに依頼に出かけるということで、居残りはアサヒになった。
これはこれでアサヒは不満そうだったが(僕の無様な様子を見て笑いたかったらしい)、もはや誰も相手にしていなかった。
目的の集落はこの村からさほど離れてはいない。とはいえ、急ぎ足で丸一日くらいか。
出発前に、ハルが武器庫に案内してくれた。ギルドに所属している職人が作ったものや、報酬で得たものなど、たくさんの武器や防具が保管されている。
特定の持ち主が決まっていないものばかりだから、好きなものを選んでいいと言われ、改めて倉庫内を見まわしてみたが、なかなかに壮観である。
ぐるりと見まわしている間に、ヒナタとハルが、あれがいいこれがいいこういう組み合わせはどうだと言い合って、一式をそろえてくれたのだが、これがすごかった。どこから持ってきたの⁉という感じのごつい鎧である。
「いや……僕はこれを着たら歩けないかな……」
というか、歩きたくない。
もちろん、こういうのを好んで着る人がいることも、これらの防御力が必要な場面があることも理解している。
だが、それでも。
僕は着たくない。
僕の不満を汲み取ったのか、今度は布でできた服を手渡された。広げてみると、レースとフリルとビーズが所狭しとちりばめられている。ヒナタとハルが期待に満ちた目を向けてくるが、そでを通さずに突き返す。
次に差し出されたのは猫耳付きの着ぐるみで……って、なんでそんなものまであるの……。
この二人に任せていると、とんでもない格好をさせられそうだな……。
自分で選ぶことにして、置かれている服を見ると、大半はまともな防具に分類されるものばかりだった。ただ、その中にとんでも装備が紛れ込んでいて、油断できないところがあった。一枚一枚広げて確認しないと、一見普通に見えても胸元にアップリケがあったりするのだ。
その中から、なんとか普通そうな服を取り出し(何しろデザインがまともでもサイズが合わないものもあるのだ)、一見にこやかな笑顔ながらもユウヒからは早くしやがれという無言のプレッシャーが感じられるので、その場で大急ぎでごそごそと着替えていると、後ろから小さな声が聞こえた。
「……見えた?」
「うーん……見えないねぇ」
ヒナタとハルだ。……だから尻尾はないって言ってるのに……。そもそも部屋から出ていてほしいとお願いしたのに聞いてもらえなかったのは、そういう目的があったからのようだ。いつか本当にパンツまで脱がされそうだ……。
僕が何とか着替えを終えると、ユウヒからの圧力も一応はおさまった。
選んだのは、厚手のズボンとシャツ、それと内側にポケットがたくさんついているジャケット。あとは目立つ白髪を隠すための帽子。武器は先日も借りた剣を持っていこう。
こんなものかな……。
部屋の出入り口近くの机の上にあったリュックサックを、ハルが渡してくれたので中を見ると、旅に必要そうなものが一通り入っている。
ユウヒからの無言の圧力も増してきているので、それをもって出発することにした。
ユウヒとアサヒが帰還してきて、少しは村の雑用が減るのかと思ったら、彼らは休養中とのことで、一切村の依頼を手伝おうとはしなかった。
アサヒなどは、手伝いもしないくせについてくるだけはついてきて、手際が悪いだの愛想がないだの笑顔が硬いだの、仕事に関係のないことにまで口を出してくる。鬱陶しいことこの上ない。
しかし、アサヒにしてみれば、しばらく仕事で留守にしていた間に、ヒナタに同居人ができて、しかもそれが男であれば絡みたくなるだろう。だからといって、おとなしくやられっぱなしになるつもりはないが。
僕とヒナタの同居については、アサヒの猛反対があったものの、ほかに部屋が空いてないので続行となっている。
アサヒがならば自分がヒナタと……と言い出したりもしたが、これはヒナタ本人が却下した。
どうしても僕とヒナタの同居をやめさせたいのなら、僕とアサヒが同室になるという案も出たが、こちらはアサヒが激しく拒絶。僕としても承服できる話ではない。
いや、別にヒナタと同室がいいというわけではなく、ただでさえアサヒに絡まれてうんざりしているのに、自室でまで絡まれたくないというか……。
アサヒはそれでも文句を言いたそうではあったが、ユウヒの「マスターの決定である!」の一言でしぶしぶ引き下がってくれた。
それでも、時折恨めしそうな視線を向けてくるから、正直なところ依頼で再びどこかに行ってくれるのならありがたいところだ。
と、思っていたのだが。
「僕も一緒に?」
問いに、ユウヒがにこやかにうなずいた。
なんでも、ここに戻る前に、カリンから頼まれていたのだそうだ。ギルドに帰還して、もし次の依頼が舞い込むようなら、僕を連れて行ってほしい、と。
戻ってきた鳥は、王都のギルドに預けていたもののようで、一通の手紙を運んできていた。その内容は、ここライズの村から東の方にある集落から、緊急の依頼が届いたことが書かれていた。ちょっとめずらしい大型の獣がその村付近に居ついてしまい、小型の草食獣とかを捕食していて、本来それを捕食していた獣たちが集落に現れてきているということだ。
今はまだ大きな影響はないが、被害が出る前に何とかしてほしい、とのことである。
王都のギルドとしてはわざわざ出向くのは面倒くさいが無視することもできないので、手近なところにいるこちらに回してしまえばいいや、といったところか。まぁ、これがカリンの言う持ちつ持たれつの関係なのだろう。このギルドに所属したからには、マスターのやり方には従わなければならない。
僕がユウヒとともに依頼に出かけるということで、居残りはアサヒになった。
これはこれでアサヒは不満そうだったが(僕の無様な様子を見て笑いたかったらしい)、もはや誰も相手にしていなかった。
目的の集落はこの村からさほど離れてはいない。とはいえ、急ぎ足で丸一日くらいか。
出発前に、ハルが武器庫に案内してくれた。ギルドに所属している職人が作ったものや、報酬で得たものなど、たくさんの武器や防具が保管されている。
特定の持ち主が決まっていないものばかりだから、好きなものを選んでいいと言われ、改めて倉庫内を見まわしてみたが、なかなかに壮観である。
ぐるりと見まわしている間に、ヒナタとハルが、あれがいいこれがいいこういう組み合わせはどうだと言い合って、一式をそろえてくれたのだが、これがすごかった。どこから持ってきたの⁉という感じのごつい鎧である。
「いや……僕はこれを着たら歩けないかな……」
というか、歩きたくない。
もちろん、こういうのを好んで着る人がいることも、これらの防御力が必要な場面があることも理解している。
だが、それでも。
僕は着たくない。
僕の不満を汲み取ったのか、今度は布でできた服を手渡された。広げてみると、レースとフリルとビーズが所狭しとちりばめられている。ヒナタとハルが期待に満ちた目を向けてくるが、そでを通さずに突き返す。
次に差し出されたのは猫耳付きの着ぐるみで……って、なんでそんなものまであるの……。
この二人に任せていると、とんでもない格好をさせられそうだな……。
自分で選ぶことにして、置かれている服を見ると、大半はまともな防具に分類されるものばかりだった。ただ、その中にとんでも装備が紛れ込んでいて、油断できないところがあった。一枚一枚広げて確認しないと、一見普通に見えても胸元にアップリケがあったりするのだ。
その中から、なんとか普通そうな服を取り出し(何しろデザインがまともでもサイズが合わないものもあるのだ)、一見にこやかな笑顔ながらもユウヒからは早くしやがれという無言のプレッシャーが感じられるので、その場で大急ぎでごそごそと着替えていると、後ろから小さな声が聞こえた。
「……見えた?」
「うーん……見えないねぇ」
ヒナタとハルだ。……だから尻尾はないって言ってるのに……。そもそも部屋から出ていてほしいとお願いしたのに聞いてもらえなかったのは、そういう目的があったからのようだ。いつか本当にパンツまで脱がされそうだ……。
僕が何とか着替えを終えると、ユウヒからの圧力も一応はおさまった。
選んだのは、厚手のズボンとシャツ、それと内側にポケットがたくさんついているジャケット。あとは目立つ白髪を隠すための帽子。武器は先日も借りた剣を持っていこう。
こんなものかな……。
部屋の出入り口近くの机の上にあったリュックサックを、ハルが渡してくれたので中を見ると、旅に必要そうなものが一通り入っている。
ユウヒからの無言の圧力も増してきているので、それをもって出発することにした。
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