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第2章
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しおりを挟む初めて感じる陽の柔らかい粘膜、口内の温度、甘い唾液、重い吐息。
「ぅ、ふぁ……っ」
陽の言う『ご褒美のキス』はただのバードキスのような、唇同士を合わせるだけの可愛らしいものだったかもしれない。でも枢は、頭を撫でながら彼の口内を撫でてあげると、どんな可愛い反応をするのだろうかと見たくなってしまったのだ。
唾液をたっぷり含んだ舌を絡めると、くちゅくちゅと水音が静かな室内に大きく響く。特に陽の部屋は意外と殺風景だからなのか、やけに音が反響して大きく聞こえるのかもしれない。
片手で陽の頭を撫で、片手は彼の細い腰を強く引き寄せていた。最初は肩に置いていた陽の手は次第に枢のシャツを掴んでいて、与えられる『ご褒美』の大きさに耐えているようだった。その証拠に彼の頬は上気して、合わせている唇の隙間からは熱くて甘い吐息、そして瞳はとろとろに蕩けきっていた。
「……っは、ご褒美はキスとか、言うからですよ…」
さすがの陽も、まさかここまでされると思わなかっただろう。先に煽るような喧嘩を売ってきたのはそっちだから、と言うように唾液で濡れた枢の唇をぐいっと拭うと「ありがとう、枢……」と呟かれた低い声に、なんだか腹の底がずくりと重くなる。
あ、ヤバイ。
このままだと……。
「かなめ、おれ…うれしい……きもちよかったし、すごくしあわせ…」
とろとろの顔でふわりと笑う陽を見て、衝動的に彼を抱きしめた。
正直『ご褒美はキスをして』と言われたからって、あんなキスをするつもりはなかったのだ。労わるように陽の背中を撫でると彼は枢にすり寄ってくる。
そんな陽の体温に安心して彼を抱きしめたままベッドに寝転がって目を瞑れば、今にも眠れそうな気がした。
「……枢も、満足した?」
「はい……」
「Playのあとは、一緒に寝ましょうか」
「ん……」
「星先生がよく眠れるおまじないです」
まだお試し1日目だが、陽と相性がよすぎるのかもしれない。たったこれだけのPlayでも満たされて、なおかつ陽と肌が触れ合っていると安心する。
どうしてこんなにも安心するのか分からない。陽と長年パートナーだったような安定感さえあり、ちゃんとPlayをしたあとに同じベッドで眠るのは初めてなのに、疲れ切ってしまった枢を労わるように髪の毛を梳いてくれる陽の指が心地よい。
思えば高校生でダイナミクスの診断をされて以降、ちゃんとしたパートナーを作らずに薬で抑えてきた枢。陽とパートナーになれないなら、どんな人とPlayをしたって満たされないし、意味がない。
だから自分はこれから一生一人で生きていくのだと思っていた。そういう覚悟をしていたのだ。
寝不足になっても、体調が悪くても、不眠症になっても特定のパートナーを作らなかったのは、陽を諦められなかったから。
「ひな……」
「ん?」
「〈Good Boy〉…ありがとう……」
「ありがとう、って…」
「あなたがいないと、おれは……」
こんなに満たされるPlayも、よく眠れる感覚も、初めて知った。
だから――
「Subにありがとうって言うDomなんて、初めて会ったなぁ…」
いつもいつも目の下にクマを作り、昼休みの職員室では船を漕いでいる年下の英語教師。すこぶるかっこいいのに彼は恋人はおろか、パートナーもいなかったらしい。
Play不足でほとんど不眠症になっている枢は先ほどの軽いPlayに満足して、気絶するように眠ってしまった。そんな彼の鼻先をつついてみても、起きる気配はない。うっすらと浮かぶ目元のクマをなぞって、陽は固く閉じられている瞼にキスを落とした。
「おやすみ、枢。いい夢を」
枢の太い腕にがっちりとホールドされている体は寝返りを打つことも難しい。どこにも逃げないのにと苦笑しながら、陽は枢にすり寄って目を閉じた。
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