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第5章
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しおりを挟む陽が白石先生に迫られていたんじゃないか、という話題を出してから彼は何かを考え込むように口をつぐんだ。その様子に、もしかして本当にそうだったのかもしれないという嫉妬にも似た感情と、枢と一緒にいるのに白石先生のことを考えているかもしれない、という焦りに駆られた。
もし後者なら、あまりにも耐えられない。
自分のパートナーが他の人のことを考えているなんて本当に耐えられない、というドロドロとした気持ちが溢れてくる。これがきっと、俗に言う『独占欲』なのだろう。
「……ヒナ。いま何を考えてるの?」
「え?」
「〈Speak〉」
「あ、ま、まって、学校では……っ」
スイッチが入ってしまった枢にコマンドを出され、今は学校だからダメだと首を振っている陽の顎を掴んで目線を合わせた。あまりにもひどいやり方だと言われるかもしれないが、このじわじわと湧き出てくる黒い感情を止められないのだ。
「〈Speak〉」
「い、言われてみれば確かに、白石先生から迫られたこと、あるかもって……」
「いつ?どんな風に?」
「枢が来る前から、飲み会とかで隣を陣取ってきたり、とか……家に行きたいって言われたことも、あるなぁって…」
「俺よりもそっちのほうがたち悪いじゃないですか。自分のことは棚に上げて、俺にだけ怒るのは違うと思うけど?」
「ちが、ごめん、枢を取られたくないと思ったから……まだパートナーになって日が浅いのに、もう解消されるのは嫌だ……っ」
枢のシャツをぐっと掴んで、うるっとした瞳で見つめながら懇願する陽の姿にどきっとした。やっぱり、この話をするタイミングは今ではなかったかもしれない。いや、そもそも、コマンドを出した自分が一番悪いのだが、この顔で次の授業はおろか職員室にだって戻したくない。そんな思いでぎゅっと抱きしめると、陽は枢の肩口に顔を埋めた。
「………いま、ものすごく可愛い顔してるよ、ヒナ…誰にも見せられない。職員室にも帰せないし、そんな顔で生徒に授業なんてさせられないって…」
「そんなの、枢がコマンド出したのが悪い……」
「それはそうだけど……」
肩口に顔を埋める陽の頭を優しく撫でると、彼は小さくすり寄ってくる。細い髪の毛に指を差し込んで梳くと、気持ちいいというように陽の体の力が抜けてくる。準備室の机の上に座っていたが、脱力した陽の体を支えて椅子に座り直し、枢は陽を自身の膝に乗せた。
「正直なことを言うと、あなたが頭の中に白石先生を思い浮かべていそうな気がして、嫌だったんです」
「え……?」
「目の前にあなたのDomがいるのに、他のSubのことを考えるなんて……」
「でも、多分同じSub同士だよ…考えたところで、でしょ」
「それでも嫌なものは嫌ですよ。そもそも、異性のこととか思い浮かべてほしくないですし…」
「じゃあ同性だったらよかたってこと?」
「そういうことじゃないです!だってもう、あなたには――」
俺がいるじゃないですか。
そう言おうとした時、準備室の扉がノックされる。幸いなことにこの準備室は国語教師が使っているということもあり、本棚と分厚い辞書や資料が山積みになっているのでドアの小窓からは奥にいる陽と枢の姿は見えないだろう。
「すみません、朝霧先生いますか?」
白石先生の声が聞こえ、二人は目を丸くして顔を見合わせる。このままいないフリをしてやり過ごしてもいいのだが、「カギ閉めてない……!」という陽の言葉に二人は瞬時に体を離した。
枢は膝に乗せていた陽を椅子に座らせ、自分は大きい体を無理やり机の下に押し込む。筋肉質な自分に机の下はひどく窮屈だし、陽が白石先生にバレないように足をねじ込んでくるので更に圧迫された。
「あー、ど、どうぞ!」
陽の声を合図にガラリとドアが開く音がする。
シンとしている室内に自分の心臓の音が聞こえているんじゃないか――そう思いながら、枢は心臓を抑えながらぎゅっと目を瞑った。
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