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第7章
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しおりを挟むどうしてこうも、人生というものは上手くいかないのか。
「産休に入られる保健医の夏生先生の代わりに来ました、日暮です。実は俺の母校でもあり、国語の朝霧先生とは同級生でした。よろしくお願いします」
教職員の前で挨拶をして頭を下げた拍子に、艶のある黒髪がサラリと動く。陽と目が合うと彼・真白は口元に笑みを浮かべてこちらを見ていた。なんだかその視線に耐えられずに思わず俯いてしまう。まさか、彼がこの学校に赴任してくるとは思わなかったのだ。
「陽~!じゃじゃーん、サプライズ~!」
「……事前に連絡くらいしてくれてもよかったんじゃない?」
「それじゃサプライズにならないだろ?驚かせたくてさ。久しぶり」
「うん、久しぶり」
「にしても、もう俺たちがいた時の先生っていないんだな。びっくりしたわ」
「あー…おれが赴任したての頃はいたけどね。みんな転勤していったよ」
「へぇ、そうなんだ」
あぁ、やばい。
後方からの視線が突き刺さって痛い。
振り返って誰の視線か確認しなくても分かる。この視線は学生時代からも感じていた、枢からの視線なのはよく分かっているから。陽からの提案でパートナー関係になった二人だが、最近徐々に距離が縮まっている気がしていた。気がすると言うか、多分縮まっていた。枢がこの学校に赴任してきた頃に避けられていた時よりも彼は随分と陽に歩み寄ってくれるようになったし、パートナーとしても人間としても二人はお互いのことを知って近づいていたのだ。
陽の姉である乙織とその恋人の慧至と会って話をできたのも確実な一歩で、枢に深い考えはなかったかもしれないけれど、家族を紹介してもらえて嬉しかったのが本音だ。
陽が最初『パートナーと恋人は違う』と枢に話したのは、一気にどちらも背負ったら枢がパンクしてしまうかもと思ったから。パートナーとしても恋人としても満足させるのを考えるのは重荷だ、やっぱり無理だと言われてこの関係を解消されるのが怖かった。
でも距離が近づいてきてからは、陽の中でどんどん枢に対しての気持ちが大きくなっていたのだ。だから彼との距離をもっと詰めたいと思い始めていたのに――
「ちなみに、お前の住んでるマンションに俺も住み始めたから」
「……は?嘘でしょ?」
「マジ!陽が住んでる一階上」
「本気で言ってる?」
「うん、本気で言ってる」
真白とは大学時代まで一緒に学生生活を送っていた。就職を機に陽は地元に帰ってきたのだが、真白は当時付き合っている人がいたので大学生活を過ごした地域でそのまま就活をしたのだ。お互い教職員同士なのでなかなか忙しく、就職してから今までほとんど会う機会はなかった。
それに真白は確か付き合っていた人と同棲を始めて、パートナーとしても恋人としても順調だと聞いていた。だからまさか、地元に帰ってくるなんて想像もしていなかったのである。
「恋人は?」
「あー、別れた。お互い仕事も忙しくて段々すれ違っていってさ……仕方ないよな、こればっかりは」
「そっか……知らなかった」
「別れたなんてわざわざ知らせることでもないだろ。これからはこの失恋の傷を陽に癒してもらうつもりだからよろしく!」
そう言って笑う真白の笑顔は無駄に眩しくて、背中に突き刺さる枢の視線は鋭くて痛い。真白が同じ職場となると、昼休みにこっそり枢と会うのも、安寧の地であるマンションで会うのも危険だ。なんせ、いつ真白に会うか分からないのだから。
そしたら次のPlayはいつになる?しばらくできない?
――どうしよう、ちょっと不安かも。
陽はいつの間にか、枢から与えられる熱や甘さに支配されていた。Playができないかもしれない、と不安になるなんて今までの人生の中で初めての気持ちで、どうしたらいいのか分からない。
あぁ、もう。
どうして人生ってこうも上手くいかないんだろうか。
陽は重く重く、深いため息をつくことしかできなかった。
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