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第8章
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しおりを挟むそんな過去の記憶を、昼休みに準備室で思い出していた。
持ってきた昼食はほとんど手がつけられず、授業中もボーっとしてしまい、生徒から授業範囲が違うと指摘をされたほど。今までそんなミスをしたことなかったので、穴があったら入りたい気分だった。
「真白はもう、気にしてないのかな……」
陽のほうからPlayを懇願したのに、やっぱり違うとサブドロップをして困らせてしまってから、真白への接し方が分からなくなって避けていた。でも再会した彼はあの時のことをすっかり忘れてしまったかのように、陽へ接してくれた。もしかしたら他の先生の前だったからかもしれない。
ただ、職場だけではなくマンションまで同じということは、顔を合わせる機会が多いということ。あの時のことを気まずく思っていたら、職場は仕方ないかもしれないが同じマンションに越してくるようなことはしないだろう。真白が気にしていないのなら陽もその気持ちに応えられるよう、あの時のことはお互い水に流す努力をしなければ。
あと、問題なのは枢への説明だ。別に事細かく真白との過去を話さなくてもいいだろうが、彼に黙っているのは何となく嘘をついているようでモヤモヤする。かと言って、別に恋人ではないし、真白とも恋人関係だったわけではないので、話したとしても枢が反応に困るだけかもしれない。
そんなことをぐるぐる考えていると、準備室のドアが控えめにノックされた。
「開いてますよ~……」
生徒かもしれないと思って訪問者が誰なのか確認せずに声をかけると「あの、朝霧先生……」と、枢の声がして反射的に振り向いた。
「うわ、びっくりした!すみません、いきなり後ろから声をかけて…」
「い、い、いえ!まさか星先生だとは思わなくて……」
「……違う人が来る予定でした?」
「え?」
古い机なので、手をつくとギッと鈍い音がする。座っている陽を囲うように枢が覆いかぶさりながら机に両手をついて、あまりの至近距離に陽はドッと心臓が大きく脈打った。美しい『夜』の瞳に見つめられると心臓の鼓動が速くなり、何も考えられなくなる。ふわりと香ってきた枢の匂いにくらりと眩暈がした。
「同じ学校だったので、いつも朝霧先生の側には日暮先生がいたのを知ってます」
「ほ、星先生……?」
「幼馴染で仲がいいのは分かってましたけど…もしかして、日暮先生と付き合ってたとか、日暮先生のことが好きとか、そういうことですか……?」
「えっ?」
「だってあの人、Domですよね?最近、雰囲気で分かるようになってきました。DomとSubの幼馴染って、それ、もう……」
枢の言いたいことが分かって、陽は咄嗟に彼の口元を手で覆った。ちがう、ちがう、やめて。そんなこと言わないで。聞かれなかったから話さなかったと言い訳するのも見苦しいけれど、枢と真白がこんなに直近で会うとは思っていなかったので、ただ過去の話をしなかっただけだ。
でも、枢に真白との過去を話すにはまだ勇気が足りない。
もし軽蔑されたら、もしパートナーを解消されたら――
「……真白は、本当に、ただの幼馴染なんです…。おれのことをDomだと思っていたけど、本当はSubなのを知ってます。ただそれだけ、ですから……」
誤魔化したってなにもいいことなんてないのに、臆病になって話せないことをどうか許してほしい。そんな想いを抱きながら、枢の口元を覆った自分の手の甲に口付ける。机についていた枢の両手は椅子から立ち上がった陽の腰を引き寄せていて、陽の手を優しくどけて枢から唇を奪われた。
「同じマンションだって聞こえました…あまり無理しないでくださいね、朝霧先生」
枢は、真白と同じでどこまでも優しい。
なんだか自分だけが汚く思えて、枢の綺麗な瞳に耐えられず、固く目を瞑った。
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