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第6章:記憶と選択
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しおりを挟む――どうしたらいい? どっちから? そもそも俺の治癒能力で解毒できるのか? このままだと二人とも死ぬ、死んでしまう、どうしたら……っ!
「エリアス!」
エリアス目掛けて飛んできた弓矢に気がついていなかった。なす術もなくエリアスもその毒牙に貫かれるかと思っていたが、毒に侵された体を引き摺ってきたバルドが剣を抜いて矢を叩き落とした。そして、倒れているアレクシスの剣を引き抜いて森の中を目掛けて槍のように投げると「ぐぁぁあッ」と悲痛な叫び声が聞こえた。
「バルド、動かないで! 動いたら毒の回りが速くなるから……!」
「死んでも俺はお前を守る。お前とシャロンだけは、絶対に死なせない」
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返すバルドは左目から血を滴らせ、地面に血溜まりを作る。強靭な精神力で保っているだけだろうが、バルドの背中を見るとエリアスの視界は涙で滲んだ。
「かかさま、いたいのいたいの、とんでけーってしなくっちゃ!」
奇跡的に弓矢の攻撃を逃れたカリーナの腕の中から現れたシャロンが、アレクシスの治癒を進めているエリアスの手に小さな手を重ね、もう片方の手はエリアスたちを守るように立ちはだかるバルドの服をぎゅっと握りしめた。
「だいじょうぶだよ、こわくないよ!」
「シャロン……っ!?」
シャロンがニコッと笑うと、エリアスだけではなくアレクシスやバロン、そしてカリーナも白銀の光に包まれた。
その光に反応して再び矢を放つ襲撃者たちだが、白銀の光がバリアのようになっていて全ての矢を跳ね返す。森のほうに跳ね返った矢はそのまま襲撃者たちを襲う攻撃になった。
「ととさま、いたいのいたいのとんでけ~!」
シャロンがそう言うと、エリアスの緑色の光と混ざって今度はバロンとアレクシスの体を包み込んだ。その途端にアレクシスの苦しそうな顔色はスッと良くなり、毒のせいで膝をついていたバルドの体の中からも毒が消えた感覚があったのか、左目を押さえたまま後ろを振り向いた。
「シャロン、お前は……」
「ととさま、だいじょうぶ? まだいたい?」
「いや……痛くないよ、大丈夫だ」
「アレクシスの出血も止まった……毒も消えたみたい……」
出血や毒が治ったと言ってもアレクシスは心臓の近くを射抜かれていて、バルドは左目を失った。アレクシスは一命を取り留めたとしても、いつ目を覚ますか分からないだろう。
「とにかく王宮に帰らないと二人の手当はできない! でも、エイデンたちをどうしたら……っ」
「亡骸は必ず迎えにくる。俺もそろそろ、意識が持ちそうにない……」
「カリーナ、陛下を支えてくれ! 俺はアレクシスを背負う。シャロン、さっき痛いのを跳ね返した時のように綺麗な光を出すことはできる?」
「できる! シャロンにまかせて!」
そう言うとシャロンは両手の拳をぎゅっと握りしめ、バルドの肩に乗るくらいの小さな白銀竜に姿を変えた。まるで神様のように鱗がキラキラと輝いていて見惚れていたのだが、シャロンがくわっと口を大きく開けると先ほどと同じように白銀の光がエリアスたちの周りを囲んだ。
シャロンの竜としての能力は親であるエリアスも計りかねているが、エリアスの能力と合わさった治癒能力と防壁能力が考えられる。白銀の光は敵の攻撃を跳ね返すような防壁で、エリアスの力と合わせた時に出る白んだ緑色の光が治癒能力なのだろう。
そして、竜の姿になったほうが強い能力を使えるのか、エリアスは初めてまともにシャロンの竜化を見た。これからきっと、バルドのように大きな竜へと成長するのだろう。
「御者もやられたか……ッ」
馬車に戻ったはいいが、待機していた御者は二名とも冷たくなって倒れていた。幸い馬には手出しをされていないようで、馬車自体は使えるようだった。
「俺が御者の代わりをする。カリーナ、申し訳ないけど馬車の中でアレクシスの傷口を押さえていてくれないか」
「こ、皇后陛下が自ら馬を操ると言うのですか!?」
「そうしないと間に合わない。アレクシスは一時的に止血をしているだけで、射られた傷は治っていないんだ。バルドも大量に出血をしたからまともに動けない……カリーナ、頼んだ。シャロン、ととさまとかかさまたちを守ってくれるか?」
小さい白銀竜にこつんっと額を合わせると、翼をパタパタさせながらこくりと頷いた。竜の姿で会話をするにはまだまだ練習が必要そうだが、意思の疎通はできているらしい。シャロンの防壁能力で馬車を一台守ってもらい、エリアスは御者席に飛び乗り無我夢中で馬車を走らせた。
「手が空いている医師は手伝ってくれ! 出先で皇帝陛下とアレクシス、それと民間人が襲撃された!」
無事に王宮について、エリアスは血だらけのアレクシスを背負いながら王宮医師のいる塔へ駆け込んだ。大量に出血をして意識を失ったバルドをカリーナと竜になったシャロンが支えながら医務室に入ると、その場にいた医師全員が顔面蒼白になって固まっていた。
「毒矢で襲撃され俺とシャロン皇子の力で解毒と応急処置は行ったが、陛下は左目を貫かれた。陛下は気を失っているから、傷の処置をしてくれ! アレクシスは心臓のギリギリを貫かれているから、今から俺が処置を行う」
「あ、あ、あの……あなたはどなた様でしょうか?」
エリアスが王宮医師として働き始めてすぐにバルドと結婚をしたからか、医師の中にエリアスのことを知る者がいないのかもしれない。負傷したアルバディア帝国の皇帝とその侍従を連れてきたエリアスのほうが怪しく見えているのだ。
ただ、今は詳細に話をしている暇はない。エリアスとシャロンの高い治癒能力で応急処置をしたといっても、一刻も早く処置をしなければならない状況だ。
「俺はこのアルバディア帝国の皇后、エリアス・ストックデイル・アルバディアだ。陛下とアレクシスの命を救えなければ自害する」
皇后の証である金色の指輪を見せながら身分を明かすと医師たちはハッとして、エリアスに深々と頭を下げた。
「シャロン、ここまで守ってくれてありがとう。あとはかかさまが頑張るから、カリーナと一緒に休んでいいよ」
エリアスがそう言うとシャロンは安心したように人の姿に戻り、そのままカリーナの腕の中で眠りについた。医務室の休憩スペースにカリーナたちを移動させ、エリアスはアレクシスを乗せた診察台の前に立って深呼吸をする。二人とも自分の手で処置したいのは山々だが、バルドならアレクシスを優先してくれと言うだろう。
「――二人とも死なせるわけにはいかない」
自分の記憶を戻してほしいとか、アベルの悪事を証言してほしいとか、そういうことではない。ただアルバディア帝国の未来のために必要な二人だから、このまま死なせるわけにはいかないのだ。
「俺と一緒に道を切り拓くんだろ、アレクシス……! こんなところでは死んでも死にきれないぞッ」
懸命に声をかけながら、エリアスは命の灯火を消さないためにも一心不乱に治療を進めた。
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