44 / 56
第7章:聖なる証人
1
しおりを挟む「――ただいまより、皇后陛下エリアス・ストックデイル・アルバディア様のご意向により第一皇妃アベル・ウィリントン様の裁判を開始いたします」
裁きの間と呼ばれる部屋の中にはエリアスとアベルが向かい合って座っており、その二人を取りまとめる裁判官が一人と、判決を下すための大臣たちが出席していた。
アベルは牢に閉じ込められていたにもかかわらず、久しぶりに姿を見ても痩せ細っていたりやつれている様子はなく、エリアスを地下牢に閉じ込めた時と同じように健康的な姿を見せた。
そして、彼からはどことなく余裕の雰囲気を感じる。何があっても構わない、というような態度で臨んでいる姿勢のアベルをエリアスは冷静に見つめた。
「第一皇妃のアベル様には、皇后陛下を不当な理由で処罰しようとした罪、皇后陛下の殺害の指示疑惑、そして皇帝陛下を含め第一皇子とその側近の殺害指示の疑惑が浮上しております。これらについて何か弁明はございますか?」
「弁明もなにも……確かに皇后陛下を偽物だと勘違いし、牢に閉じ込めてしまったことは事実です。その件についての処分はいかようにも受け入れますが、その他の件に関しましては事実無根です。言いがかりも甚だしい」
裁判長の質問に淡々と答えるアベルは、3年前のエリアスの殺害指示や先日の件に関してはシラを切ることを決めたようだ。アベルの顔に穴が開きそうなほど真剣にエリアスが見つめていても全く動揺の色を見せず、あくまで自分はエリアスを偽物だと勘違いした件のみが事実だと言い張っている。
そんなアベルの態度にエリアスは溜め息をつくが、こうなることは予想していた。
「皇后陛下、何かお話したいことはございますか」
「もちろん。裁判長の言った三つの出来事に関して、第一皇妃が関わっていないとは思えませんから」
「そうおっしゃられるのなら、もちろん証拠をお持ちなんですよね? 皇后陛下」
アベルが挑発的な視線と口調でエリアスに話しかけ、彼の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。そんなアベルの挑発には簡単に乗らないエリアスは、姿勢を正し直して弁明を始めた。
「まず、3年前の皇后殺害指示についてです。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、皇后である俺と皇帝陛下は些細な言い争いをした末、俺が王宮を飛び出しました。それから3年間、失踪したと言われていたと思います」
「お言葉ですが……先日、バルド皇帝陛下は“皇后陛下は出産のために帝都を離れていた”とおっしゃっていましたよ? それは事実とは異なるということでしょうか」
「……3年前に出産をしたのは事実ですが、仕組まれた失踪劇だったのです。第一皇妃から殺害の指示をされた侍女や侍従そして御者の三人が、殺害したと見せかけて逃がしてくれたので今も生きてここにいます。シャロン皇子もそのため助かりました」
「にわかには信じがたいお話ですね。私を陥れるための嘘だと思われます」
「嘘ではありません。この耳でその者たちから話を聞いたのです」
「では、今すぐこの場に連れてきてください。皇后陛下のお話を裏付ける大事な証人ですよね?」
「……話を聞いた後、その者たちは襲撃されて帰らぬ人となりました」
証人がいないと言うとアベルは鼻で笑った。
実はバルドもアレクシスも昏睡状態のままでいまだに目を覚さない。どちらかが起きてくれたらよかったのだが、黒幕と思われるアベルをのうのうと野放しにしておくわけにもいかないのでエリアス一人だけでも裁判を試みたのだ。
バルドもアレクシスも一命を取り留めたが、アレクシスに関しては射抜かれたのが心臓の数ミリ上だったこともあり、損傷によるショック状態が続いているとエリアスは診断した。
バルドは射抜かれた左目は回復しなかったが血を流しすぎたので、体が守りに入っているのだろう。目を失ったことでかなりの高熱が連日続いているが、バルドの体もなんとか保っている状態だ。
だからこそ、その分までエリアスが一人でアベルと戦わなければならない。バルドやアレクシスが目覚めた時には新しいアルバディア帝国の幕開けと言えるような、クリーンな状態にしておくのが『皇后』であるエリアスの役目だと考えた。
「証人はいませんが、証言ならできます」
「証言? 誰のどんな証言か知りませんが、この場に出てこられない者の証言なんて無いのと同じですよ」
「では、言い換えましょう。証人は俺です。アルバディア帝国の皇后、エリアス・ストックデイル・アルバディアが証人となります」
――笑っていられるのも今のうちだ、アベル。
エリアスとアベルの間にはバチバチっと火花が散った。
134
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ(新作についてお知らせ)
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで
Q矢(Q.➽)
BL
僕、吉田 嵐太はレッサーパンダの獣人である。
しかもアルファの勝ち組だ!
どんな女の子やオメガだって、僕の前ではめろめろだ!!
そんな僕がある日、におい惚れした相手とは…。
※本作品は獣人DKカップルのゆるラブオメガバースです。大学生になる終盤まで本格的なえちちシーンは出てきません。
*吉田 嵐太 (α)
私立 岩清水男子高等学校1年 Sクラス
獣種 レッサーパンダ 160/50→??
★さりげなく自己評価が高い傾向あり。
*壱与 瑞希 (ハイスペチートΩ)
私立 岩清水男子高等学校1年 Cクラス
獣種 グリズリー(ハイイログマ)
189/72 →192/74
★嵐太に盲目、育てたい俺のアルファ。
★前提
*純人類と動物の特性を持つ人類が混雑する世界。
*そのうえでオメガバースというα、 β、Ωという性別に別れています。
※オメガバース独自設定含みます。
※スローでゆっくり成長していくレッサー吉田とグリ壱与の恋を、基本ゆるく、時にはヤキモキしながら見守ってくだされば幸いです。
※11/30、本編完結。
多くの皆様にご覧いただき感謝に堪えません。最後まで楽しく書けましたのは皆様のお陰です。
嵐太と瑞希を愛して下さって本当にありがとうございました。
近々、卒業後の2人の生活を描いた短いお話を書きたいと思っております。
本当にありがとうございました(*^^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる