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第2章:平穏と過ち
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しおりを挟む「ととさま、かかさまはお肉よりお魚さんがすきだよ?」
「シャロンの意見を聞いてやりたいが、倒れてしまったから肉を食べて精をつけねば。そうは思わないか?」
「そっかぁ。シャロンもお肉いっぱいたべたら、ととさまみたいに大きくなる?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれん」
「えー!」
「ふ。シャロンはよく食べてよく寝たらいいだけだ」
キッチンから聞こえる楽しそうな会話と、肉の香ばしい匂い。そう言えば今日はヴラドが狩りをして肉と魚を持って帰ってきてくれた気がする。
そんなことを思い出しながらぼんやりと目を開けると、見慣れた天井がエリアスの視界に広がった。
「あれ、家……?」
「あ、かかさま起きた!」
「シャロン、かかさまが起き上がるのを手伝ってやってくれ」
「はぁーい!」
目覚めたばかりだからか、まだ頭がくらくらする。そんなエリアスを支えるように、小脇からシャロンが顔を出してにぱっと微笑んだ。
「かかさま、だいじょうぶ?」
「シャロン……」
「ととさまがだっこでお家まではこんだの! あとねぇ、ごはんもシャロンが一緒につくったよ!」
エリアスはどうやらリビングのソファに寝ていたらしい。シャロンが起き上がるのを手伝ってくれて、後ろにあるキッチンを見やると朝と同じようにヴラドが立っていた。
「体調は?」
「たいちょう……」
「無理をさせた。気を失ってしまったから運んだんだ」
「むりを……?」
「……まさか、なかったことにしようとしているのか?」
キッチンからソファに近づいてきたヴラドが、汗で濡れた前髪を掻き分けてエリアスと目を合わせる。しばらくは何の話をされているのか分からなかったが、ハッと我に返った。
「ちょ、ちょっと待って! いやいや、待って!」
「別に、何も急かしてはいないが」
「かかさま、どうしたのー?」
「いやっ、えっと、うわぁぁぁっ」
全てを思い出したエリアスは顔を真っ赤に染め、ブランケットの中に身を隠す。診療所でヴラドとプレイをして、お互いに精を吐き出すような行為をしてしまったことなんてどうせなら思い出したくなかったと、今更羞恥心に襲われた。
「そんなに恥ずかしがっても、過ぎたことは仕方ないだろう。受け入れて前に進め」
「そっ、そっちはそうかもしれないけど! 俺にとってはまだ受け入れられないことなんだよ!」
「難儀な性格だな、まったく。受け入れてしまえば楽なものを」
「かかさま、ととさまと何かあったの? ケンカはメッ!だよ?」
「け、ケンカじゃない、けど……」
シャロンがブランケットの中に入り込んできて、赤い顔をしているエリアスの頬を撫でる。シャロンがいるのに、シャロンの親なのに、欲望に勝てない獣のような自分が恥ずかしく思えた。
ぎゅっと小さな体を抱きしめると「きゃはは!」と嬉しそうな声をあげる小さな竜の子供が可愛くて仕方がない。この子だけは色んな運命に翻弄されないでほしいと願いながら、柔らかい頬にキスを贈った。
「懺悔はそろそろいいか? 腹が減って死にそうなんだ」
「う……」
「食べてくれ。俺の好きな料理で申し訳ないが、お前のために作った」
テーブルに並んでいるのは肉の煮込み料理とサラダ、それに温かいスープと焼きたてのパン。きちんと三人分の料理が用意されていて、なぜだかエリアスの胸はきゅうっと締め付けられた。
「た、食べるけど、うん……お腹空いてるから食べるけど!」
「なに、ふはっ、なんだその言い訳は……はは!」
――あり得ない、意味分かんない、なんで?
初めて見たヴラドの無邪気に笑う顔にドキッとして、そのまま鼓動が早くなる。エリアスの頭の中にはまた『懐かしい』という言葉が当てはまりそうな感情が溢れてくるが、なぜヴラドにこんな感情を抱くのかは理解できなかった。
「ただ焼くよりも煮込みのほうが食べやすいだろ? しっかり食べて、今度は倒れない体を作らないとな」
「……気を失ったの、おれのせいじゃないし……そっちが悪いし……」
「聞こえてるぞ。だから罪滅ぼしとして食事を作ったんじゃないか」
「まるで食事を作れば何してもいいだろ、って聞こえるけど?」
「……口うるさくて可愛くないことばかり言う男はモテないぞ、エリアス」
「は、はーっ!? 別にモテなくてもいいですよーだッ」
なんて子供のような言い争いをしていると、案の定シャロンから「ととさまとかかさま、なかよしだねぇ」と嬉しそうに言われた。
「仲がいいわけじゃないよ、嫌いだからケンカしてるの!」
「かかさま、ととさまのこと嫌いなの?」
「……高い声でそのセリフ言っても、全くシャロンとは似てないから」
「バレたか。かかさまは怒ったら怖いなぁ、シャロン。ととさまを慰めてくれないか?」
「ととさま、かわいそうだねぇ」
「もう、シャロンっ! そっちの味方しないで!」
シャロンだけはいつまでもエリアスの味方でいてくれると思っていた。だがヴラドの登場により、なぜか懐いてしまったシャロンはヴラドの味方もするようになってしまった。
シャロンの気持ちとしてはエリアスとヴラドが仲良くしてほしい、という意味なのだろう。でもエリアスはあんな痴態を晒してしまった手前、素直になるのも恥ずかしいのだ。
「それで、文句はいいから味の感想くらい言ったらどうだ?」
野菜と一緒に煮込まれた猪肉はフォークで触れただけでホロっと崩れ落ちる。柔らかい肉を口に頬張ると、中まで味が染みているホロホロの肉に文字通り頬が落ちそうだった。
「お、おいしい……こんなに美味しい料理、食べたことない」
「……そうか、それはよかった」
ヴラドの要望通り料理の感想を言ったのに、彼は一瞬泣きそうな顔をして微笑んだ。
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