【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第1章

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一度勢いよく閉じた本をまたチラリと見てみるが、先程の睦み合っている絵は見間違いではなく現実で、めくった手がぷるぷる震えた。

「な、な、なんて破廉恥な……っ!」

裸の男同士が睦み合っている扉絵に心臓が口から飛び出そうな思いだったが、ドキドキしながらその先のページをめくってみる。

すると、物語はあるオメガとアルファが幼少期に出会い、運命の番だと分かるシーンから『エーデ』という物語はスタートしていた。

『まるでノエルとレイみたいね』
「………そう?」
『そうでしょう。二人だって幼い頃に出会ってから運命の番だって分かったわ』
「それはそうだけど…」

運命の番であるオメガとアルファのラブストーリーなんてそこら辺に山ほど転がっている。だからみんな、運命の番というものに憧れているのだ。

でも、ステラの言うように、この話の元はノエルとレイシスの出会いによく似ている。ただこの絵本のようにお互いを激しく求め合ったり、婚約中にもかかわらず肌を合わせる行為をするなんて二人はしたことがないのだ。

なんせ、王族や貴族は婚約中の性交渉は御法度だとされている。特にオメガは国の宝とも言えるので結婚するまでは純潔を守らなければならず、もし婚前交渉をしたのが公になれば出家し、誰とも番になることなく教会でその一生を終えることになるのだ。

まさしく『神様』のために、その一生を捧げることになる。

「それにしたって、さすがにこれは……俺とレイシス様は一切こんなことしてないし、モデルではないと思うけどね」
『そうかしら?でも主人公のオメガは銀髪にヴィオクイーン色の瞳よ』
「いや、オメガは金髪か銀髪かしかいないんだから…必然的にそうなるでしょ。それがたとえ俺がモデルじゃなくてもさ」
『まぁ、そうね。ノエルとレイはこんなに情熱的な恋人同士じゃないもの』
「……だね」

オメガのドールとアルファのシス、二人の恋物語は一巻から胸焼けしそうなほど甘く激しくお互いを求め合う物語だった。

なんの自慢にもならないが、ノエルとその婚約者であるレイシスは運命の番とは名ばかりで、激しくお互いを求め合うなんてことはない。

ただお互いの邪魔にならないように極力関わらず、話しかけず、何かの行事の時だけ婚約者の役割を果たす。レイシスは大体、学園でも王宮でもイヴァンの側にいるのでノエルと時間を過ごしたことはほとんどないのだ。そりゃあ、結婚しても会話がない冷めた夫夫になるも当たり前である。

「まぁ、こんな話を読んだらみんな運命の番に期待をするし、いいカップルになるんだろうなって思うよね……」
『……ノエル?ねぇ、あなたどうしちゃったの?』
「え?」
『なんだかいつものノエルと違う気がするわ。私の気のせい?』

妖精は色んなことを助けてくれる存在だが、ステラは特に頭がいいし勘も鋭い。だからと言ってこの意味が分からない話をしたところで彼女が信じてくれるとも限らないし、何よりもノエルがレイシスとの婚約を白紙に戻そうとしていると知られたら終わりだ。

なぜかと言うと、ステラはノエルとレイシスが結婚をして幸せな夫夫になってほしいと願っているからだ。

ノエルが過去に戻る前、レイシスと結婚しても幸せな結婚生活は送れなかったノエルの側にいてくれた彼女は、一緒に生まれたオメガの『幸せ』が主食なのにそれを何年も得られなかった。

そしてノエルが攫われる直前、ステラは妖精としての輝きを失い、眠りにつくように命の灯火が消えたのだ。きっと彼女はノエルが息絶えることを察していたのかもしれない。

だから、今ノエルの側で笑ってくれているステラを幸せにするにも、レイシスと結婚して同じ道を歩むべきではないと思うのだ。

そのために、神様が用意してくれたチャンスなのだろうから。

「ステラの気のせいだよ。なんだか急に小説を書いてみたくなって……最近流行ってるっていうこの絵本を読んでみようと思っただけ」
『ふぅん……。ノエルが小説を書くの?』
「うん。どう思う?」
『どんな小説?』
「幼馴染のオメガとアルファの恋物語かな」
『おさななじみ……イヴァンとレイみたいね』

彼女は本当に、勘が鋭い。

これ以上話しているとボロが出てしまうと思い、ステラには侍女達の噂話の収集に出掛けてもらった。

「気をつけないとな……でもステラに"魅了魔法"をかけてもらわないと」

昔から趣味として二人の妄想小説を書いてきたけれど、これを誰かに読ませたりしたことはない。趣味で書いていたと言ってもまるっきり素人の小説がすぐに売れるわけないし、多くの人に読まれるのは難しいことなのだ。

そのために、原稿を書き上げたらステラに魅了魔法をかけてもらい、色んな人が手に取るような細工をしないといけない。

オメガ以外の人間は大体が魔法を使えるけれど、人間が扱う魔法より妖精の魔法のほうが強力だし効き目が段違いだ。だからこそ妖精に魔法を頼むときは注意しないといけないけれど、今のノエルには必要なことだろう。

「ノエル様、失礼します。あの、レイシス様がいらしておりますが……お通ししてもよろしいでしょうか?」
「………は!?」

ドアの外から聞こえてきたルナの声にぎょっとする。レイシスがヴァレンタイン家を訪れたのは片手で足りるほどで、滅多に訪ねてくることなんてないのに。

「な、な、何の用で!?」
「ノエル様が学園をお休みされたので、よく効く薬草をお持ちくださったようです。お昼の休憩時間を使って訪ねてきてくださったとのことです」
「えぇ……」

なんの気まぐれか、体調不良だと嘘をついて学園を休んだノエルの見舞いに来たらしい。

ノエルは持っていた本を慌ててベッドの下に投げ入れ、あたかも体調が悪いと装うようにベッドに潜り込んだ。


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