【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
11 / 81
第2章

しおりを挟む


午前中の授業を終え、ノエルは食堂でランチボックスを受け取ってから学園内にある温室へ足を運んでいた。

「まぁ、見て。ノエル様よ」
「本当。昨日はお休みしていたけどご体調はよくなったのかしら?」
「いつお見かけしても麗しいわね、ノエル様は……」

ヴィオクイーン学園の温室は一年中色とりどりの花が咲き誇っている。

それはこの温室に住む妖精のおかげで、季節によってたくさんの種類の花を見ることができるのだ。ノエルは昔から昼休みはこの温室で過ごすのが定番であり、一番落ち着く場所だった。

ランチボックスに入っているサンドイッチを食べながらノエルはノートを広げ、レイシスとイヴァンの妄想小説のネタを書き留めていた。

『ノエル、ノエル、なにしてるの?』
『昨日は来なかったわね、ノエル』
『レイが薬草を摘みにきたのを知ってる?』

ステラと同じようにキラキラとした透明感のある羽根を持った妖精たちがくるくると飛び回ったり、ノエルの肩に乗ってノートを覗き込んだりしている。

今朝ウィンターからも話を聞いたけれど、どうやら妖精たちも昨日レイシスが温室を訪れ、ノエルに渡すための薬草を摘みに来たことを知っているらしい。

妖精たちがオメガにしか見えなくてよかったと安堵したのは初めてだ。

だって妖精たちと他の人が話せたら、瞬く間に国中にこの話は広まっていただろうから。それこそ『エーデ』のように、運命の番に対しての憧れがより一層強まる結果になっていただろう。

「薬草は昨日レイシス様が持ってきてくれたよ」
『やっぱり!庭師のヴィオレットに聞いてたのよ』
『ノエルのために持って行きたいんだって!』
『愛されてるわね、ノエル!』
「そういうわけじゃないと、思うけど……」

レイシスの行動はあくまで体裁を守るためだろう。それ以外、彼にはなんのメリットもない。冷めた考え方だと思われてもいいけれど、今まで見てきた結果なのだ。

『――あら、ノエル。殿下だわ』
『殿下がこっちに来た!』
『やっぱりレイが一緒なのね』
「え?」

殿下が来てる、と妖精たちから聞いた時にはすでに遅く、顔を上げるともう既に目の前まで来ていたのだ。

「ノエル、またここにいたのか」
「イヴァン殿下、ごきげんよう」
「そんなにかしこまるな。私とお前の仲じゃないか」
「……ありがとうございます、殿下」

いつ見ても、惚れ惚れするほど美しい人だ。

イヴァン・ウェントワース。
イヴァンはノエルとは違い、とても美しい陽の光のような金色の髪の持ち主だ。肌は雪のように白く、首元には瞳の色と同じ紫色のチョーカー。これは、アルファにうなじを噛まれて無理やり番にされるのを防止するためのものである。

ノエルとは違い少し小柄な彼は王になるために生まれてきたオメガそのもので、その美しさにいつもうっとりしてしまうのだ。

「昼食は?」
「あ、いま取っていました」
「それだけか?」
「え?」

それ、と言ってイヴァンが指差したランチボックス。その中にはサンドイッチが二切れと、サラダのカップ、それにポタージュが入っている。

それだけと言われる量ではないと思うのだけれど、イヴァンの後ろにいる男もまた、突き刺さるような視線をノエルに向けた。

「お前の婚約者殿は少食で心配になるな、レイ?」
「――そうですね」
「いえ、あの、一日の食事はこれだけではないですから……!」

慌てて弁解してみるが、後ろにいる男が「はぁ」と重いため息をつく。ノエルを責めているような視線に耐えられずに思わず俯いた。

「僕が食事の管理まではできません。本人がいいと言うならいいんでしょう」
「そういうものか?お前は私にはいつも口うるさいじゃないか」
「殿下は好き嫌いが激しいから仕方なくですよ」

いつもイヴァンに引っ付いている男――言わずもがな、レイシス・ブラウンだ。

昨日ノエルが体調不良と嘘をついて学園を休んだからなのか、イヴァンと同じように『たったそれだけの食事で』なんて思っていそうな顔を向けられると苦笑するしかない。

そんなノエルの態度に、レイシスは再び重くため息をついた。

「レイから聞いたが、昨日は体調不良だったんだって?」
「あ、はい……少し眩暈と頭痛がひどかったので」
「ふふ、だからか……お前が慌てて飛び出して行ったわけだ」
「……殿下」
「え?」

イヴァンがくすくす笑っている意味がよく分からなかった。
ただ、レイシスの眉間の皺が深くなったので彼の機嫌がよくないことだけは分かる。昨日はそんなことはなかったのだが、ノエルはレイシスのそんな顔が苦手なのだ。

レイシスにうんと呆れられているような感じがして、なぜかじくじくとうなじが痛んで、ノエルは無意識にそっと彼から贈られたチョーカーを撫でた。

このチョーカーはノエルの髪とレイシスの瞳に合わせた銀色のもので、彼はいつもノエルに会うとそのチョーカーを一瞥するのだ。

そんなレイシスに気がついた時にいつも思うのは、本当は『違う人』に贈りたかったんじゃないか、ということ――

「最近忙しくてなかなか話せていないから、今度一緒にお茶をしようか」
「そ、それはぜひ……嬉しいです」
「レイも一緒にいいだろう?」
「はい、殿下」
「じゃあまた今度な、ノエル」
「…はい!ごきげんよう、殿下」

イヴァンの見送りをしようと温室の入り口まで一緒に歩いていくと、イヴァンが温室を出た瞬間にレイシスからぐっと腕を引かれた。

「………もう少し、きちんと食べてください」
「へっ?」
「そんなに細い体ではまた寝込むことになりますよ。……大体、あんなものを読む暇があるなら、食事や間食の時間に充ててください」
「ふぁ…っ!?」

レイシスから耳元で囁かれ、びくりと体を震わせた。そんなこと今までされたことがなかったので、急なスキンシップに驚いたのだ。

「……とにかく、気をつけてください。食事管理くらいご自分でもできるでしょう」
「は、はい。すみません、レイシス様…」
「では、失礼します……あの本を返して欲しいなら、放課後に第3図書室へ来てください」

無駄話は一切しない、要点だけまとめて話したレイシスはそそくさと温室を出て行った。

彼に囁かれた耳を手で押さえると、その熱さに火傷しそうになる。

「………はぁ、なんで…」

今度はノエルがため息をつく番だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...