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第6章
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しおりを挟む「実は俺が見た"悪夢"は、何者かに捕らわれて死ぬところで終わるんです。それで、あの……実は俺を殺す企みをしたのは、レイシス様なのかもしれないって思うようになっちゃって…煮るなり焼くなりとか言うから……」
「……そう、ですよね。やっぱり僕たちは同じ夢を見ているんですね……」
夢ではなくて現実だったのだが、それを馬鹿正直に言うわけにもいかない。言ったところできっと信じてもらえないだろうからノエルも同じ夢を見ていると話を合わせると、レイシスは悲しそうに眉を顰めた。
「俺はずっと、レイシス様はイヴァン殿下を好きなんだと思っていたんです」
「……」
「お茶会で出会った時に運命の番だと分かったから、その義務感で婚約を申し込んでくれたんだと思っていました。だから、俺はレイシス様にきっと恨まれているんだろうって……」
「な、ぜ、絶対にそんなことはあり得ません!そんな、義務であなたとの婚約をしたなんて、そんなことはないです……信じてもらえるまでには時間がかかるかもしれませんが、僕は殿下を恋愛対象として見たことはありませんし、後にも先にも、あなただけなんです……」
17歳の必死さ、怖い。真っ直ぐすぎて、怖い。
「(そ、そんなに素直に言えるなら最初っから言っててよ……!)」
レイシスのあまりの必死さにノエルは思わず顔を赤くする。彼のこの勢いを見るに冗談でも嘘でも計算でもなく、ただただノエルに信じてほしくて必死なのが分かった。
今まで見てきたレイシスなら、正論を真正面からぶつけてきて戦意を消失させるようなタイプの人間だったはず。確かに以前のレイシスは彼も言っていたように『呪い』にかけられていたようで、今のレイシスとは全くの別人にも思えたのだ。
「僕が殿下に想いを寄せていると思ったから、この小説を……?」
「………それの作者だとバレたのは心外ですが、そうですね。レイシス様が俺との婚約を解消しないのは世間体や国民からの期待があって、なかなか自分から言い出せないのかと思ったんです。だから手っ取り早く世論を変えれば婚約解消を申し出やすくなるかなと思って…俺のほうから解消の話をするのはレイシス様の顔が立ちませんし、できればそちらのほうから話をしてもらったほうがブラウン家の名前に傷はつかないかなと……」
「なるほど、ノエルも色々と考えてくれてたんですね。だからこれは"運命の真実"というタイトルなのか……」
レイシスはテーブルの上に置いた『運命の真実』を眺めながら、短くため息をついた。
ノエルが作者だとバレてしまったからには、彼を完全に味方につけるしかない。イヴァンとレイシスが結婚してくれる確率が低いのであれば、彼を信用して引き込むしかノエルが二回目の人生で生き残れる確率がグッと減ってしまうだろう。
「正直、俺ではレイシス様に分不相応だと思っていたんです、婚約当初から」
「……そんなことはありません」
「いえ、あるんです。大して家柄がいいわけではなく、オメガという以外になんの取り柄もないですから。レイシス様のように直接殿下の役に立てるような学もないですし、レイシス様を側で支えられる自信がありません。同じ性別なのに殿下とは大違いで……イヴァン殿下とレイシス様が並んでいるほうが美しくて、そんな二人が番になればこの国が今よりもっと豊かになるかもしれないと思っていました」
「ノエル……」
「誤解しないでほしいのは、俺は決してレイシス様を恨んでいたり、嫌いだと思っているわけではありません。逆に、あなたのことを思っているから……本当に好きな人と一緒になって幸せになってほしかったんです」
完璧なアルファであるレイシスには、完璧なオメガのイヴァンがお似合いだ。ノエルはたまたまオメガとして生まれただけで、特別なにもすごいところはない。そんな自分の相手にレイシスはもったいなくて、彼のことを可哀想だと何度思ってきたことか。
「ノエルの気持ちは分かりました。あなたがそこまで考えていてくれて嬉しいと思う反面、そこまで悩ませてしまって本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいです。僕が未熟なばかりに、きっとあなたをものすごく傷つけましたよね」
レイシスは席を立ち、座っているノエルの足元に片膝をつけたかと思えば、レイシスに片手をそっと取られた。
「もしもあなたが許してくださるのであれば、僕をあなたの運命の番のアルファでいさせてください。そして、あなたの信頼を得るためならなんでもさせてください。僕は……ノエル、あなたのためなら、死ぬことすら厭いません」
まるで騎士が忠誠を誓うように真っ直ぐな強い瞳でノエルに宣言し、レイシスは手のひらに唇を押し当てた。
そして先日、出版社に行った帰りにレイシスと会った時は手の甲への口付けだったのを思い出す。
手の甲への口付けは『敬愛』。
手のひらへの口付けは『懇願』。
身分的にはレイシスのほうが上なのに、こんなにもノエルに対して低姿勢を見せてくれるのはプライドが高かったらできないことだろう。
もしも嫌っている相手になら、尚更だ。信じ込ませるための嘘だとしても、今のレイシスにそんな器用な演技はできそうにない。
そこから導き出される答えは、彼は『本気』だということだ。
「……レイシス様の、ばか」
「え、」
「これまでたくさんたくさん、傷つきました。婚約者の態度は悪いし、他の人が好きなのがありありと伝わってくるし、最低だと何度思ったことか」
「……はい」
「小説だって、せっかくみんな、殿下とレイシス様のカップルもいいなっていう意見が増えてきてたのに、もう……どうしてこんな、なんで俺のことなんか……」
「申し訳ありません。僕の恋は、後にも先にも、あなただけなんです」
「言うのが遅いんですよ。今まで何度だって、言うタイミングはあったのに……!」
31年で幕を閉じたノエルの人生のことを思い出すと、泣きたくもないのにボロボロと涙が零れてきた。
そんなノエルの涙をレイシスが指で掬って、キラキラと輝く雫をぺろりと舐めとる。涙が伝って濡れた頬に柔らかく唇を押し当てて、ごく自然と、ノエルの唇にレイシスのものが重なった。
「ん……っ」
「……信じてください、ノエル。僕はあなたにしか、こんなことをしたくありません」
そっと呟かれた言葉に、ノエルは頷かざるを得なかった。
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