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第7章
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しおりを挟むノエルの記憶では、レイシスから贈り物をされたのは年に一度、誕生日の時だけだ。それは今までもそうだったし、ノエルもレイシスの誕生日にだけ贈り物をしていたので間違いない。
でも今レイシスから聞いたのは『定期的に贈り物をしていた』ということ。
定期的にとは、きっと年に一度の頻度という意味ではないだろう。
「と、とりあえず場所を変えて話しましょうか」
「そ、うですね……」
香水の店をあとにして、ノエルたちは最近行きつけになりつつある茶葉とカフェの店、ティールーム・パールへやってきた。
ノエルはマルラ産、レイシスはレガルド産の紅茶をそれぞれ注文し、一口飲んだところでノエルが先に口を開いた。
「あの……"定期的に"というのは、年に一度という意味ではない、ですよね……?」
「はい、少なくともあなたの誕生日にだけ、ということはないですね……」
「ちなみに、どういった品物ですか?送り主を知らずにいただいてる可能性も……」
「そうですね……宝石やアクセサリー、服、靴、時計、鞄、文房具、紅茶、お菓子…思い出せる限りだとこのくらいです」
「………どれもいただいてません、けど……」
「ここ2~3年くらいの話です。僕が自分でお金を管理し始めてからですので……それでも身に覚えはない、ですか?」
「ないですね……」
宝石やアクセサリー、それに服や靴?そんなもの、一度もレイシスからの贈り物としてもらったことはない。
勘違いじゃないですか?と言おうと思ったけれど、きっと本当のことなのだろう。だとしたらなぜ、ノエルの手元に渡っていないのか。
レイシスから贈り物があったとしたらルナを始めとするヴァレンタイン家の使用人は全員興奮気味にノエルに渡すだろうし、そもそもヴァレンタイン家にすら届いていない可能性がある。
「……うちに届く前にどこかで違う人の手に渡った、ということですかね」
「でも、年単位の贈り物が全て違う人の手に渡ることって、あり得ますか?偶然にしてはあまりにも……できすぎていると思うんですけど」
「確かに……偶然というより、意図的にそうなった可能性もあります、ね……」
「ただ、そんなことをして誰が得をするのかという話ですが……」
「送り届けるまでの間に、誰かがくすねて換金した可能性が高いですね」
「なるほど。それは大いにある可能性ですね……とりあえず、この件についてはこちらで調査してみます」
レイシスはそう言ってくれたけれど、何年も贈り物をしていたのにノエルから何の音沙汰もなくて気を悪くしただろう。
ノエルもノエルで自分たちは一般的な婚約者同士とは違って、頻繁に贈り物をし合わないから楽なものだと思いつつ、冷めた関係だなと思っていた。
レイシスは贈り物をしてくれていたから、ノエルの好みの茶葉なども知っていたのだろう。彼は歩み寄る努力をしてくれていたが色々なすれ違いが生じて、糸が絡まって解けなくなっていたことが悔やまれる。
なんとなく、ノエルが思っているよりも何か大きな力が働いているのかもしれない。それが勘違いで、ただお金にこまった誰かが盗んでいただけならいいのだけれど。
「ずっと、俺が無視をしていたと思われていましたよね……」
「いえ、そんな……今更こんなことをしても遅いと言われているようで、あなたがそう思うのも当たり前だと自分を戒めていましたから」
「すみません、あの…ずっとレイシス様のことを勘違いしていたので……」
「ノエルが謝ることではありません。僕は婚約者として不適格だったと思いますから……自分の行いが悪かっただけで、あなたは悪くありません」
「レイシス様って……本当はお優しいんですね」
失礼なことを言っていると分かっていたが、思わず口から出ていた。ノエルの言葉にレイシスは驚いた様子で目を丸くしていたが、紅茶のカップを撫でながら照れたように目を伏せた。
「……あなたからそう言ってもらえる日がくるなんて、思っていませんでした。まだまだ信頼を回復するには時間がかかるでしょうが、頑張ります」
「今のレイシス様なら、俺も怖くないです」
「そうですか。悪夢を見る代わりに、あなたに対して冷たい態度を取る呪いが解けたんですかね」
「ふふ。全部呪いのせいにしちゃって」
「呪いだったんですよ。僕の本心とは全く別物でしたもん。今の僕のほうが本当の僕なんです」
「"もん"って……レイシス様、今は猫かぶってるみたいで可愛いです」
「……可愛いのはあなたです」
ノエルが微笑むとレイシスは顔も首も耳まで真っ赤に染め上げて、ノエルから視線を逸らすように頬杖をつきながらカフェの外に目を向けた。
「……殿下」
「え?イヴァン殿下ですか?」
「あ、あぁ…すみません。ジルベール騎士団長と一緒に歩いている姿が見えまして」
レイシスと同じようにカフェの外に目を向けると、そこには確かにジルベールと歩いているイヴァンの姿があった。
ジルベールが一歩後ろからついていっているので、イヴァンの護衛としてついてきたのだろう。
「そういえば、ノエルとジルベール騎士団長は幼馴染だとか」
「あ、実はそうなんです。兄の友人で、俺も昔から仲良くしてもらっていて」
「……あなたの周りには厄介な男が多すぎて、僕は気が気じゃありませんよ、本当に」
「どういうことですか?」
「騎士団長も、あなたに好意があるように思います」
「またそんなこと……あり得ないことを言わないでください!」
「あり得ないと思っているのはノエルだけで、周りは違うんですよ。あなたはもう少し危機感というものを持ってください」
「……レイシス様って口うるさいですね、意外と」
「僕になんでも言っていいのはあなただけですが、悪口言わないでください」
ウィンターもノエルに好意があって、ジルベールもノエルに好意があるなんてどこのロマンス小説の話だ。前に流行っていた、主人公が全てのキャラクターに愛されるハーレムものじゃあるまいし。
あり得ないですよと言いながらノエルが笑うと、レイシスはまたムッとした拗ねているような顔を見せる。
「……殿下!イヴァン殿下!!」
外からジルベールの焦った声が聞こえて窓の外を見やると、通りで倒れているイヴァンの姿。
なんだか様子がおかしいイヴァンの様子に胸騒ぎがしたノエルとレイシスは立ち上がり、慌ててカフェから飛び出した。
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