【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第7章

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それからあっという間に放課後になり、今朝言っていたようにレイシスがノエルのクラスまで律儀に迎えにきた。

「わざわざここまで迎えにこなくても、ちゃんと校門まで行きますって……」
「疑ってるわけではなく、牽制です」
「牽制?」
「レイシス、明日は生徒会の仕事があるからノエルを優先せず来てくれよ?」
「……分かっています」

牽制の意味を聞こうとしたら、ノエルの後ろからウィンターが現れて詳しくは聞けなかった。

「(助かった、明日は一緒に帰らなくてもいいんだな)」

ホッとしたはずなのに、なんだか寂しいなと1ミリくらい思ってしまったのは絶対に気のせいだと、ノエルはぷるぷると首を横に振った。

「会長とは普段どんなことを話すんですか?」
「ウィンターとですか?うーん、くだらないことが多いですけど…本の話をよくしますね。そうだ、ウィンターは成人の儀が済んでいるから、エーデも読んでいるみたいですよ」
「は……?会長が?」
「はい。読んだことあるって言ってました」
「……僕があなたと同い年ならよかったのに」
「え?どうしてですか?」
「会長は絶対、あなたに好意がありますから」

街に向かう馬車の中、レイシスはむすっとした顔をノエルに向ける。笑顔もそうだけれど、こんなふうに子供らしさ全開の顔も今まで見たことがなかったので、こういう顔を見ると『年相応だな』と微笑ましくなった。

「ウィンターが俺に好意…?ないですよ、そんなの」
「どうしてそう言い切れるんですか。図書室での出来事を忘れたんですか?」
「忘れてないですけど、あれは別に……友人のためにって言ってただけじゃないですか」
「僕はあなたが"恋愛に興味があってロマンス小説を探してる"話をずっと覚えてますけど」
「それは!わ、わざわざ言わなくても、理由はもう分かるじゃないですか……」
「分かりません。会長と恋愛をしたいっていう興味のほかに、どんな理由があるんですか?」

レイシスは意外としつこいらしい。

そりゃそうだ、彼が6歳の時からノエルのことを一途に好きだと言っているくらいなので、しつこいだろうし根に持つタイプなのだろう。

不機嫌そうな顔をしてじっと見つめてくるレイシスの視線に耐えられず、ここで話を誤魔化してもまたどこかで蒸し返されるのが分かった。

「ロマンス小説を探していたのは、運命の真実を書くためです。どんな感じで書いたら読者を引き込めるのか勉強するために……だから決して、ウィンターと恋愛がしたくて勉強していたわけじゃないです」
「……ふふ、ありがとうございます」
「もう!分かってるくせに聞かないでくださいっ」
「あはは!ノエルの反応が可愛くて、つい。すみません」

許してくださいと言いながら、そっと手を握ってくるレイシスの手を振り解くことなく、ノエルは手のひらから伝わってくる彼の熱を感じた。

多少強引なところもあるけれどノエルが嫌だと言えばすぐにやめてくれるし、肌に触れたいと言っている割にキス以上のことはしてこない。

そういうところはやはり真面目だし、ノエルのことを考えて行動してくれているのが分かるレイシスを見る目が自分の中で変わっている気がした。

「そういえば、先日あなたからいただいた香水なんですけど、とてもいい香りだったので使い切ってしまったんです」
「そうなんですか!それはよかったです」
「だから今日はお店に案内してもらいたくて……少し調合を変えて購入したいんです。あれがあるとよく眠れるんですよ」
「もちろんいいですよ!」

イヴァンとお揃いであげた香水だが、使い切ってしまったと言われて純粋に嬉しかった。匂い自体はノエルが一から選んだものではないけれど、お礼としてプレゼントしたものを最後まで使ってもらえるのは嬉しいものだ。

だからこそ世の中の人たちは、婚約者に限らず贈り物をする習慣があるのかもしれない。

「あなたが普段使っている香水に使われているものはなんですか?」
「えーっと、ピオニーとかラベンダーとか……少し甘めの香りですね」
「店員さん。この香りにピオニーを追加してもらうと変な匂いになりますか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。少し甘めの香りで調合いたしましょうか」
「お願いします。あ、同じものを二つ」
「はい、かしこまりました」

ノエルが普段使っている香水も調合してくれている店で、店員のマロンがにこにこと微笑みながら丁寧な対応をしてくれた。

正直、レイシスが香水を自分で購入するとは思っていなかったから驚いた。ノエルは過去、オメガのフェロモンですら厄介だから香水なんてつけるなと言われたので、てっきり香水のように香りが強いものは好みではないのかと思っていたのだ。

「もう一つはどなたにあげるつもりですか?」
「気になりますか?」
「えっ、あ、いえ、べつに……」
「というか、聞かなくても分かるでしょう?」
「イヴァン殿下ですか?」
「だから、あなたはその思考をどうにかしてください……もう一つはノエルに渡すものに決まってるじゃないですか」
「あ、お、俺に、ですか……!」

さらっとそんなことを言うものだから、全く身構えていなかったノエルは顔を赤くして俯いた。まさかレイシスから香水の贈り物をされるなんて。しかもお揃いの匂いだということに、ノエルは動揺が隠せなかった。

「いつものあなたの香りも好きですけど……眠る前は、同じ香りをつけて僕のことを思い出してください」
「んな……っ!そ、そんな口説き文句、どこで覚えたんですか……!」
あなた・・・は、こういうのが好きなのかと。小説で勉強しましたので」

そう言われて思い出したのは『運命の真実』の最新刊に、お揃いの香水をプレゼントする話も書いていたのだ。その時にノエルが主人公のアルファに言わせたセリフだったのを思い出してレイシスを見上げると、彼は楽しそうにほくそ笑んでいた。

「……俺が香水をつけるの、嫌がっていると思っていました」
「嫌ですよ、もちろん。他の人が寄ってきますから」
「なんですか、それ」
「たとえるなら、あなたは花なんです。その花がいい香りを放っていたら、蜜を吸いたくなりますよね。あなたの周りにいるアルファやベータは、そういう人種なんです。香水をつけるのは自由ですがご自身でも身を守れるように注意してもらわないと」

それならそうと、過去にもちゃんと話してくれたらよかったのに。

ただ一言『あなたが心配なんです』と言ってくれていたら、どんなによかったことか。

フェロモンで誰でもかれでも誘ってしまう厄介なオメガだと思われていると、長年勘違いしていた。顔を見て、言葉にして話すというのがいかに大切かをこの時代に戻ってきて何度も気付かされた。

レイシスには悪いけれど、同じ過ちを繰り返さなくて済みそうなのは彼が見ていた『悪夢』のおかげでもある。

その悪夢がなければ、彼が本気でノエルとの関係を変えようとは思っていなかったかもしれないから。

「ノエル、こちらはあなたに」
「ありがとうございます、レイシス様。なんだか初めて、お互いまともに贈り物をし合った感じがしますね」
「え?」
「今までお互いの誕生日にしか贈り物をしてなかったじゃないですか。だから、こういうなんでもない日にもらったり、あげたりするのも悪くないなって」
「……僕は定期的に、あなたへ贈り物をしていましたよ?」
「レイシス様が?定期的に??」

どうやらまた、ノエルとレイシスにはすれ違いが生じていたらしい。


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