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第8章
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しおりを挟む最近時々見るようになったレイシスの『アルファ』の顔。
ノエルはレイシスのそんな顔、とくにギラリと妖しく光っている銀色の瞳を見ると心臓がどくんっと大きく跳ねるようになった。
「……ジルベール騎士団長が、なんて言いました?」
「もしかしたら夢の中で俺を殺した人かもしれない、って……」
「なるほど。それはあとで詳細を聞くとして、なぜ僕がイヴァン殿下の結婚相手になるという話になるんです?」
「それは、だって…殿下の恋を応援したいけどできないし、ウィンターと結婚したら同じ人生を歩むかもしれません……。それなら、俺がいまロードメリアの中で一番信頼しているレイシス様と結婚してくだされば、殿下を守ってくれると思ったんです…。夢の中と同じことにならないように……」
途切れ途切れにそう話すと、レイシスは何も言わずにノエルをぎゅっと抱きしめる。そして優しく後頭部を撫でて落ち着かせてくれて、とくとくと規則正しいレイシスの鼓動になんだか安心した。
「落ち着いてください、ノエル。まず、あなたとの婚約を解消して殿下と結婚することは、結果的に言うと可能だと思います」
「はい……」
「ただ、僕は殿下と結婚はできません」
「レイシス様……」
「僕はあなたを愛しているんです、ノエル・ヴァレンタイン。あなたを他のアルファにくれてやるほど、僕の心は広くありません」
レイシスから断られるのは分かっていた。頭の整理がつかないままレイシスに話してしまったことを後悔したけれど、話を整理してもノエルはこの結論に辿り着いたかもしれない。
「話を整理しましょう。まず、殿下の結婚相手がどうというより、元凶をどうにかしないといけません。ノエルの見た"悪夢"ではあなたを殺した犯人と、イヴァン殿下を毒殺した犯人は同じだと考えますか?」
「その可能性もあるなと思っています…オメガだけを狙った犯行だったかも……なんせ、夢の中では俺が殺される前に、レティネ教会に保護されていたオメガのイオリアが何者かに連れ去られそうになるのを追いかけていって、拉致されたみたいで……」
「オメガを狙った犯行……夢の中で僕が、次はあなたかもしれないと思ったのはあながち間違いではなかったってことですね」
「ただの想像ですが……」
レイシスの言う通り、冷静になって考えてみるとイヴァンの結婚相手が問題なのではなく、元凶が問題なのだ。
イヴァンを毒殺した犯人と、ノエルを殺した犯人が同一人物かは分からない。けれど、こんなにもピンポイントにオメガが狙われる事件が頻発したのは偶然とは思えなかった。
「そしてなぜ、ジルベール騎士団長が真犯人じゃないかと思ったんです?」
「それについてはまだ確信がないんですけど……匂い、が……」
「匂い?」
「俺が倒れた時に、甘い匂いがしたという話をしましたよね」
「ああ、はい。もしかしたらアルファのフェロモンだったかもしれないっていう話でしたね」
「その甘い匂いが、イヴァン殿下が倒れた時も微かに香ってきたんです。夢の中で俺が死ぬ時にも同じような匂いが……だから、俺と殿下が倒れた時に共通して側にいたのはジルだけしか……」
信じたくはないけれど、状況証拠だけで言うとジルベールが真犯人の可能性がかなり高い。
だが問題は『殺される理由』だ。
ノエルもそうだがイヴァンだって、ジルベールに殺される理由が思いつかない。それにレティネ教会のイオリアもジルベールとの接点はないだろうし、前の人生を思い出しても彼はイオリアと会っている様子はなかった。
それにイヴァンの毒殺事件の背景には第一王子のルシアンが絡んでいるという噂もあったし、ジルベールが全ての事件に関与しているとは正直断定はできない。なんせ、騎士団長の彼は犯人を探す側の人間だったのだから。
「ジルベール騎士団長から殺されるような心当たりが……?」
「……ありません。全く、殺される理由に思い当たる節がないので、ジルが犯人なんて考えられなくて……」
「僕があの人を見る限り、あなたに敵意があるとは思えないんです。敵意よりは好意を感じますし……ただ、そう簡単に信用してしまってはいけませんよね」
「もう一人の兄みたいな存在なんです、ジルは……だから俺は、できることならジルを信じたい……」
レイシスはノエルの頭を優しく撫でながら、ふぅっと小さくため息をついた。
これまでレイシスを一番の敵だと思っていたのに、今は彼の側にいることでこんなにも安心する。レイシスだけはずっと味方でいてくれるだろうというような、そんな安心感があるのだ。
すっかり絆されてしまったなと呆れつつ、今のノエルが信頼できる人物はレイシスしかいない。彼と一緒なら未来を変えられると思えた。
「昔から、オメガを狙った犯罪があるのは知っていました。ロードメリアでは神の使いとして崇められているオメガは、一歩外に出れば全く違う扱いをされている国もあるのだと」
「そうみたいですね…だから貧困層で生まれたオメガなんかは、すぐに売られてしまうって……」
「そういうこともあるみたいですね……それにロードメリア内にも、ある組織がいるという噂を耳にしました」
「ある組織?」
「"オメガを神へ返す"集団がいるらしいと……」
「オメガを神へ返す……?」
「つまり、オメガの命を神様に捧げるということです」
「命を捧げるって……」
たらり、ノエルの背中に冷や汗が伝う。
神様にオメガの命を捧げるとは、つまり。オメガを殺して神様の元へ返すということだ。
だからこそ殺すときは首を切り落としたり体の外側を傷つけるのではなく、魔術や毒を使って『綺麗な死体』を作り上げたのかもしれない。
まあ、ノエルとイヴァンがその集団に殺されたかどうかは分からないのだけれど。
「そんなの、殺人を正当化するための言い訳じゃないですか」
「そう思います。昔から一定数、オメガ反対派がいますからね……王宮内ではその反対派の集団だと言われているらしいです」
「オメガ反対派……」
「ジルベール騎士団長とオメガの因果関係は分かりませんが、彼は王宮内も街中も自由に行き来できます。騎士団長だと言われたらなおさら、普通の人は信用してしまいますから」
「確かに、そうですね。一緒に来てほしいと言われたら、俺も信用してついていってしまいます」
「……他の男にホイホイついていくのはやめてください。ステラとの連絡方法を予行練習しておきましょう。今後、僕に予告せずにステラに連絡してもらってみてください」
「分かりました……ありがとうございます、レイシス様。話せてすっきりしました」
レイシスと話すことで少し頭の中が整理できた気がする。
王宮からブラウン家の馬車でヴァレンタイン家に送ってもらい、口酸っぱく「誰に誘われても僕に断りなく出かけないでください」と言われながら、ノエルはやっとレイシスから解放された。
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