【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第8章

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「やってしまったぁぁぁ……!」

突然のヒートに任せ、勢いで擬似セックスをしてしまったことを後悔していた。

あのあと年上の威厳もなにもあったものじゃなく、くてんくてんになってしまったノエルの体をレイシスが清めてくれたのを思い出すと顔から火が出そうだ。

ふらふらのノエルをレイシスが支えながらイヴァンの部屋まで送ってくれて、衛兵から不審な目で見られたものだ。

しばらくレイシスにもウィンターにも会えそうにない。ウィンターは特に、あんなふうにノエルがレイシスに連れて行かれたら、そのあと二人が『なに』をしたくらい想像がつくだろう。

「レイシス様のばかぁ……」

あれ以来ノエルの頭の中は甘い甘いレイシスの声と、狼のようなギラつく瞳が占めている。チョーカー越しに何度も甘くうなじを食まれた感覚を思い出し、ノエルはまだ体の奥がきゅんっと疼く感覚が残っていた。

「レイが…ノエルになにをしたんだ……?」
「イヴァン殿下!お目覚めですか……!」

イヴァンのベッドに近寄ると、彼が薄く目を開けていた。彼はまだヒートの熱を孕んでいる瞳をしていたが、目が覚めたのでよしとしよう。

「私は一体……?」
「街で突然ヒートになって倒れたんです。それで王宮に運んで……前回殿下がしてくださったように、今度は俺がお側にいました」
「そうだったのか……街で急にヒートになるなんて……」
「宮廷医師に診てもらいましたが、俺と同じで原因不明だそうです」
「ジル、ベール騎士団長が、一緒だったと思うんだが……」
「はい……ちょうど俺とレイシス様も街にいて、二人ともラットを起こしました」
「そうか……」
「でもすぐに殿下を王宮に運んだので、何事もなく大丈夫でした」

ノエルが説明するとイヴァンはホッとしたように息を吐いたが、それよりもなんだか複雑そうな顔をしていた。

「……やはりいいな、ノエルとレイは」
「え?」
「運命の番だから、きっとレイはノエルをあんなふうに守ったんだな……」
「殿下……?」
「ジルベールはやっぱり、私に対してそうはならなかったのか……」

熱っぽい瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちる。

イヴァンの涙を見て、ノエルは胸がざわついた。彼の無垢な涙に「もしかして」と思ったのだ。

「イヴァン殿下の好きな人、って……」
「あのな、ノエル……私の婚姻が決まりそうなんだ」
「婚姻、ですか?」
「ああ。痺れを切らした父上がな……ウィンターと婚約をしようと、話を進めているらしいんだよ」
「ウィンターと……」
「だからそうなる前に、一度くらい、ジルベールとデートをしたかったんだ」

ほろほろと泣いているイヴァンに胸が締め付けられた。前の人生でも聞けなかったイヴァンの『好きな人』の正体が分かって、ノエルの頭の中は混乱した。

ウィンターと前の人生と同じように結婚すると、イヴァンはまた毒殺されて死んでしまうかもしれない。

ジルベールとの恋を応援してあげたいけれど、ジルベールはノエルの殺害を企てた真犯人かもしれない。

そう考えると、総合的に考えて導き出される最善策は――

「……殿下、レイシス様と結婚してくださいませんか?」
「え?な、なにを言ってるんだ、ノエル」
「殿下はやっぱり、レイシス様と結婚してもらったほうが幸せに……!」

いまのノエルがロードメリアの中で一番信頼できるのは、レイシスだった。

彼なら『悪夢』を見てイヴァンが毒殺されるのも知っているし、レイシスならきっと側で守ってくれる。

いくらノエルとレイシスの仲が変わったといっても、イヴァンをまたウィンターと結婚させるわけにはいかない。イヴァンの人生まで変えないと、ロマンス小説のように『めでたしめでたし』のハッピーエンドでは終われないだろうから。

「ノエル……あのな、私はずっと、二人が幸せな結婚をするのを夢見ているんだ」
「殿下……」
「本当の兄弟のように仲がいいレイシスの大事な婚約者を、これから家族のように仲良くしたいノエルの大切なアルファを、私は自分が奪いたくない」

イヴァンの言いたいことは痛いほど分かる。

突然レイシスと結婚してくれなんて言われても受け入れられないだろうし、レイシスもノエルも傷つけたくないと言ってくれる優しい人なのだ。

「私の好きな人の話をしてしまったから、混乱させてしまったな。私は大丈夫。ウィンターは優しくて頭もいいし、私たちはよくやれると思うよ」
「そう、ですけど……」
「すまないね、ノエル。私の側にいて疲れただろう?体は大丈夫そうだから、帰って休んだほうがいい」

イヴァンから頬を撫でられてそう諭される。

逆にイヴァンから慰められるなんて情けないと思いつつ、今はノエルもイヴァンも混乱しているので一度冷静になるためにもノエルは帰路につくことにした。

「ノエル!殿下の様子はどうですか?」
「レイシス様……」
「えっ、ど、どうしました?なにかありましたか?」

イヴァンの部屋を訪ねてきてくれたレイシスの顔を見ると、ノエルはぶわりと涙腺が決壊した。

突然泣き出したノエルに慌てたレイシスは、衛兵から不審な目で見られながらもノエルをまた借りている部屋に連れ込んだ。

「いきなり泣き出してどうしたんですか……殿下になにかありました?それとも体が痛いとか、ヒートがおさまっていないとか……」
「レイシス様……イヴァン殿下と結婚してくださいませんか……?」

昨晩ノエルが押し倒されたカウチソファに座り、震える声でそう言うとレイシスからぎゅっと手を握られる。

ずっと彼の手は冷たいと思っていたけれど、じんわりと感じる体温に、レイシスの手を離したくなくて涙が込み上げてきた。

「イヴァン殿下が、ウィンターとの婚約の話が進んでいると言っていました。でも、殿下はジルベール騎士団長が好きなんだって……でも、でも…レイシス様も悪夢の中で殿下が毒殺されるのを見ましたよね?あの時、イヴァン殿下はウィンターと結婚していたんです、俺が見た夢だと」
「だから殿下の結婚相手を変えないと、夢と同じように毒殺されるかもと言いたいんですね」
「そうです。でも、殿下をジルと結婚させるのは……」
「……なにか理由がありますか?」
「……ジルベール騎士団長は、俺を殺すかもしれない、人なんです……」

ノエルがそう言うと、再びレイシスの銀色の瞳は、狼のように険しい色を宿した。


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