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第8章
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しおりを挟むもしかしたらウィンターが犯人かもしれない、と思っていた時に本人が現れて気まずいどころの話ではない。
何も言えなくてノエルが口をぱくぱくさせていると、ウィンターは笑いながら首を捻った。
「どうしたんだ、ノエル。大丈夫か?」
「いや……考え事しすぎて、前が見えてなかった」
「そうか、気をつけて」
「あ、う、うん……」
「……この前はごめん。怖かったよな」
「そんな…俺のほうこそごめん……」
「あのあと大丈夫だったか?その、レイシスと……」
「うん、大丈夫。お互い冷静になってなんとか」
嘘も方便というから、仕方ない。勘のいいウィンターには気づかれているかもしれないけれど、彼はそれ以上追求してこなかった。
「今から殿下のところに?」
「うん。昨日は大丈夫だって言ってたけど、様子を見に」
「ノエルもあまり無理をしないようにな」
「ありがとう。無理しないようにするよ」
「そういえば、イヴァン殿下とレイシスを結婚させるっていう話……難しいかもしれない」
「あ……殿下との婚約の話?」
イヴァンの寝所に向かうまでの道のり、立ち話もなんだからと先日と同じように庭園内のベンチに腰掛けた。
「俺とイヴァン殿下の婚約の話が進んでる。このままいけば、結婚する可能性が高い」
「そう、だよね……」
「……最近ノエルとレイシスは仲がいいように見えるけど、君の計画はどうなってるんだ?」
ウィンターの言葉にどきりと心臓が跳ねる。
レイシスには『運命の真実』を完結まで書き切ると言ったものの、彼の本当の気持ちやイヴァンの好きな人の話を聞くと、レイシスに作者だとバレたあの日から思うように筆が進まないのだ。
ノエル自身、分からないフリをしているだけで本当はもう分かっていることがある。
たとえ小説だとしてもレイシスが恋をする相手は、イヴァンではなくノエルがいいと思うようになってしまったということ。
先日イヴァンが倒れた時に彼を抱き起こそうとしたレイシスの腕を掴んで『あなたが触れていいのは俺だけですッ!』と言ってしまったのは、思わず言ってしまった本音だった。
先日レイシスから肌に触れられた時も嫌ではなく、むしろとても心地よかった。運命の番というのは触れ合うだけで心が落ち着いて、安心するのかと思ったほど。
だから尚更、イヴァンとレイシスの物語を紡ぐのが難しくなっているのだ。
「うーん、ちょっと……改めて考え中、かな」
「考え中?」
「うん…色々難しくなってきて」
「そうなんだな。俺はてっきり、ノエルはレイシスのことを好きになったのかと」
「え?」
「だって最近、楽しそうじゃないか。送り迎えとか、デートとか」
「で、デートっていうか…一回しか出かけてないし……」
「それでも、俺から見ると楽しそうだったよ」
人を好きになったことがないから、レイシスに対するこの気持ちがちゃんとした『恋』なのかまだ確信できない。
ただ、少なくとも今のレイシスから離れようとは思わないし、どちらかと言えば彼と一緒にいたいと思っている自分がいる。
好きかどうかは一旦置いといて、今のレイシスとは一緒にいて楽しいし、彼の怒った顔ではなく笑った顔をもっと見て記憶に残したいと思うのだ。
だからそのために、これから二人で色んなことをしたい。
そう思うには遅すぎたかもしれないけれど神様からそういうチャンスをもらえたのだから、この人生では過去に知らなかったレイシスのことを知りたいし、理解したい。そう思えるくらい、ノエルの心も変わってきた。
「確かに今までで一番、今が楽しいかも」
「そっか。それはレイシスのおかげ、なのかな?」
「うん、そうだね……レイシス様が変わってくれたから、俺もちゃんと向き合おうって思えたんだ。だから、レイシス様のおかげ」
「へぇ、あのレイシスがそこまで変わるなんて」
「びっくりだよね。今までは呪いにかかったみたいに、俺には冷たい態度を取ってたんだって」
「呪い?それって言い訳じゃなくて?」
なんだか、ピリッとした空気を感じ取った。
この前イヴァンが言っていたのだが、レイシスはあまり社交的ではなく、どちらかと言えば決まった人と深く関わっていくタイプだ。ウィンターはレイシスとは正反対で、社交的だし顔も広く、イヴァンのように色んな人から好かれるタイプなのだ。
そんな彼が怒っているところを今まで見たことがない。
ジルベールがレイシスに怒っていたのとは違う感覚で、ウィンターのそれは『嫌悪』に近い気がする。
なんだか心臓がどくどくと脈打ってきて、隣にいるウィンターの顔を見られなかった。
「い、言い訳、って……」
「今までの自分の態度が悪かったことを"呪い"のせいにしてるだけのように聞こえるよ。ノエル、今まで自分がどんな扱いをされてきたのか忘れたのか?」
「わ、忘れたわけではない、けど……でも、レイシス様はレイシス様なりに変わろうとしてくれてるから、俺もそれに応えたいんだ」
「優しいんだな、ノエルは」
――どうしよう、まずいかも。
そう思っても、ノエルは自分の意思で体が動かせなかった。まるで石や置物になってしまったかのように、ベンチに固定されているかと思うくらい、身動きが取れなかったのだ。
「こうなるとは予想外だったなぁ…ノエル・ヴァレンタイン。せっかく二度目のチャンスを与えてやったのに、今度はレイシス・ブラウンを愛してしまうなんて、愚かなオメガだよ」
「う、ウィンター……?」
「そうだな、俺が悪かった。計画ではもっともっと君を孤立させて、傷つけて、それから二度目の人生を歩ませようと思ってたのに。つい、君と会えたのが嬉しくて、早まってしまったから。一度目のレイシスみたいに、君に強い呪いをかけておくべきだったな」
すごく甘い匂いがする。
ダメだと思った時にはもう、ノエルの意識は遠ざかっていた。
「――言ったじゃないか、ノエル。お前の"運命"は他にあるって」
どうして、ウィンターが――。
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