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第9章
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しおりを挟むウィンターにとって最大の邪魔者はレイシスだったが、他にもいた。
それはロードメリアの中でオメガにしか見えない『妖精』の存在だ。国内の庭園や温室にはオメガ以外の人間には見えない妖精が花を育て、維持している。
ただそこにいる妖精が邪魔なのではなく、オメガと一緒に生まれる妖精が邪魔だったのだ。
「ステラはまぁ…いつか息絶えるだろうな、あの二人の様子じゃ。あとはオーロラか……」
オーロラはイヴァンと一緒に生まれた美しい妖精らしい。普通の妖精は花の蜜を栄養にしているが、オメガと一緒に生まれた妖精はそのオメガの『幸せ』が主食だと言われている。
宿主のオメガが幸せじゃなければ妖精も食事をしていないのと同じで、どんどん衰弱していくのだと。そしてオメガが永遠の眠りにつくとき、妖精も同じく息絶えると知識として知っていた。
ノエルと一緒に生まれたステラは、ノエルとレイシスのあの様子では『幸せ』を食べられていないだろうし、ステラが永遠の眠りにつくのは時間の問題である。
妖精を呼び出すにはそれぞれ宿主との合図を決めているらしいが、イヴァンと生まれた妖精のオーロラに計画を勘づかれたら面倒だ。
それにオメガに魔法が使えない代わり、妖精が使える魔法は強力で人間には使えない魔法も使えるらしい。
だからこそ、イヴァンを不幸にするためにジルベールを利用する必要があったのだ。
ちょっとした魔術を使い、ジルベールが結婚するように相手を用意した。
ウィンターが用意した彼の結婚相手は『ファントム』の息がかかったアルファの令嬢だ。イヴァンを神様の元へ返したあと、騎士団長の権限でノエルの警備が手厚くならないよう、彼自身も過保護にならないように彼女には日々魔術でコントロールしてもらい、逐一様子を報告してもらっていた。
本当はイヴァンのことを愛していたのに彼は自分が魔術に操られて令嬢と結婚させられたのも知らず、弟のように可愛がっていたノエルの身辺警護の強化も提案せず、ノエルがいなくなって初めて事の重大さに気がついた騎士団長は見ていて滑稽だったものだ。
イヴァンに関してはもう少し綺麗な方法で神様の元へ送ってあげたかったけれど、ちょうどレイシスの心も壊したかったので、レガルドの茶葉を利用した毒殺という方法を取らせてもらった。少し血を吐いて口元が汚れてしまったが、彼は元々美しかったので口元さえ拭えば綺麗になったからいいだろう。
隣国・レガルドからロードメリアを訪問していた王子はイヴァン毒殺の疑いをかけられ激怒し、ロードメリアとレガルドとの間には一生回復しないであろう亀裂が入った。レイシスが進めていた貿易の話は、言わずもがな白紙に戻った。国中ではレガルド産の茶葉は一気に販売・輸入不可になり、全ての家庭や店からその姿を消した。
レガルドの王子だけではなく、イヴァンの侍従であるノエルも同じように殺害疑惑をかけられた。首謀者としては証拠不十分で解放されたが、責任問題を問われて王宮への出入りは禁じられたのだ。
イヴァンの死後、出来損ないの第一王子・ルシアンが王位継承第一位になったのは残念なことだが、こればかりは仕方ないだろう。
ウィンターはイヴァンとの間に子供を作る気はなかったのでオメガやアルファの子供はいなかったし、必然的にルシアンが次代の王に決まった。ウィンターにとって次代の王が誰であっても興味がなかったので、イヴァンがやっていた仕事をルシアンに押し付け、療養のためだと言ってウィンターは王都を出たのだ。
ただそれは『形だけ』で、実際は王都のある場所に身を潜め、強い暗示魔法で『ウィンター』を隠して生活をしていた。
イヴァンが死んでから、ノエルがレイシスから捨てられるのをずっと待っていたのだが、本当にあの男は強情である。
ノエルを屋敷の中に閉じ込めて、自分のオメガを守っていたのだ。
ずっと屋敷の中にいられるとさすがのウィンターでも手出しはできず、ずっとタイミングを狙っていた。
そしてようやく訪れたタイミングが、あの日だった。
「………それで、他になにか聞きたいことはあるかな?ノエル」
――目が覚めたら再び、ノエルは薄暗い地下室のような場所に拘束されていた。そして仮面をつけた黒いローブの男から、ウィンターの話を聞いたのだ。
「……あんた、本当にウィンターなの?」
「ああ、この姿は"あの日"以来だから、疑われても仕方ないか」
一縷の望みにかけていたけれど、仮面を外した下から現れた顔にノエルは絶望した。
彼の顔を見た途端、鼻の奥がツンッとして目頭が熱くなる。
どうして、なんで、なんてありきたりな言葉しか頭の中に浮かんでこなくて、彼と出会ったこれまでの月日のことが駆け巡った。
「なんでこんなこと……ウィンター、おれたち、ともだちだと思ってたの、に……!」
「そう思ってるのは君だけだったよ、ノエル。俺はずっと、君を番にしたいと思ってたんだから」
仮面の下から現れた『ウィンター』に、くいっと顎を持ち上げられる。ノエルがずっと見てきた綺麗な海のような瞳の色は濁っていて、その瞳の中にはノエルしか映っていない。
今までのウィンターから想像もできないほど冷たい空気を纏っている彼に、ノエルは初めてゾッとした。
「でも、どうしてウィンターが未来のことまで知ってるの?どういうこと……?」
「それは俺が、君と同じように死んで戻ってきたからだな」
「え?」
ウィンターはそっとノエルの頬を撫で、うっとりとした顔で見つめていた。
人からの好意というのは嬉しいけれど、今のウィンターからは好意ではなく執着を感じる。何をしてでも絶対にノエルを手に入れようと思っているような、そんな執着を感じたのだ。
「ノエルは俺の魔術で殺した。死んだあとに18歳の年に戻ってくる呪術でな。俺も自分で自分を殺したんだ。だから俺も、中身はノエルと同じ31歳。気づかなかっただろ?」
不思議なことに死んで過去に戻ってきたのはノエルだけではなく、ウィンターもだったらしい。
だから全てのことを知っていたのだろう。
「ああ、そうだ。ノエルにあの話をしてあげなくちゃな」
「……あの話?」
「レイシスが死んだときの話だよ」
レイシスの『悪夢』は、やはり現実だったのだ。
彼が見た悪夢の通り、レイシスはノエルの後を追って自殺をしたのは間違いないのだろう。
「空っぽの棺に毎日会いにきては君の名前を呼びながら泣いて……ああ、あれは本当に滑稽だった」
「……」
「ノエルを大切にしてこなかったのは自分のくせになぁ?死んでから毎日会いにくるなら、生きてるときに会いにきたらよかったものを」
「……ウィンターがかけた呪いのせいだったんだろ」
「考えてみろ、ノエル。たとえ俺の呪いだったとしても、そう疑わなかったのはお前たちだ。ノエルに対して冷たい態度を取るレイシスのことを、二人とも心のどこかで"当たり前"だと思っていたから上手くいかなかったんだろ。俺は気持ちの操作までしていないよ、ノエル。本当に"呪い"だけのせいだったのか?」
ウィンターの言葉に、ぽろり、ノエルの瞳から涙が零れ落ちた。
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